第50話 爺と孫の語らいは続く
お待たせ致しましたー
何故か不知火に軽くチョップされたが、柘榴はちっとも痛みを感じない。加減もあるだろうが、ここは現実世界ではないせいだろう。感触くらいはわかるが、痛覚は鈍いのか機能していないのか。とりあえず、話があるようなので聞くことにした。
『……おじいちゃんが気絶させたの?』
正直に聞けば、不知火は違うと手で示した。さっきから苦笑いのままだが。
『ちがわい。おまさんが耐性低いせいやろ。なんなん? 生前の記憶は読ませてもろたけど、オカン死んだきっかけでそこまで変わるもんやな。まあ、わからんくもない』
『……おじいちゃんは、ずっと一人?』
母の死を軽く言われても、何故か怒りは出てこない。おそらく、不知火のこれまでの経緯を思えば時間の一部でしかないのかもと本能が働いたのか。思ったよりはダメージがなかったのだ。不思議と、狭間に迷い込んでから感情のコントロールが色々めちゃくちゃなせいでもあるのだろう。
だから、そんな柘榴が直球的に聞いても不知火は怒らなかった。ただただ、ゆるく苦笑いするだけだ。
『そ、やなあ? おまさんのよーに、子孫が出来たんは……実はワレの望みやなかったんや。おまさんはええんやで? ワレ……いいや、『俺』の子種を勝手に搾取されたんだ。今でいうなら、細胞のサンプルを勝手に盗られた』
急に、話し方が普通になった。態と繕っていたのは、虚勢を張るためか。そうでもしないと、己を誤魔化せない。柘榴も、狭間に来るまでは哀しみだけに明け暮れてそうしてた。なにも見ようとしなかっただけかもだが。
『……無理矢理?』
『人体実験って、言えばいいか? まあ、性犯罪に近い形で盗られた。それを売春目的みたいな感じで売り捌かれたんだ。逸話ではいじられてるが、実際はそんなとこ。俺には恋人とか奥さんは、ちゃんとした女は誰一人としていなかった』
柘榴の頭を、今度は優しく撫でてくれた。望まぬ子孫が柘榴なのに、それでも己の血が繋がった子孫だと。手つきで慈しんでくれるのは、本能的に察せられた。だから、そのままにしておく。
『誰が、やったの?』
『夜光がかつていたとこだ。あいつは関係ないが。とっくに冥府で裁きにかけられてる連中のせいだ。閻魔のやつが、ちゃーんとそこは処置してくれたんだよ』
『夜光……悪い人だったの?』
あの話の流れでなんとなく察してはいたが、柘榴や他の皆への態度はいつだって優しかった。偽善にしても生活を楽しんでいたし、柘榴らのために何か動こうとしていたようだ。その結果のひとつに、あの工作員の女性が店にやって来たのだから。
また質問をすると、不知火はおかしなことを思い出したのか酷く楽し気に笑い出した。
『今はあんなじじいだが、昔はそーとーやんちゃだったぜ? お前が気に懸けてるあの、貫だったか? あれよりぎらぎらしてたし、犯罪行為への躊躇いはなかったな。今は、全部清算したからあそこに居られる』
『……そっか』
『柘榴のことは、俺の子孫だってすぐにわかっただろうな。だから、保護して手元に置いた。んで、場合によっては俺を頼って……素材の部分をどうにかして、黄泉返りをさせれるか試そうとでもしたんだろ』
『よ、み?』
『簡単に言えば、生き返れるんだよ。手順さえ踏めば』
『……生き返、れる?』
不知火は神なのか。と、口から出たらそうではないと首を横に触れられた。
『俺の血族限定でな。あっちの嬢ちゃんも、お前の石の影響受けてっから……望めば、戻せる。ただ、このままではよくねぇな? 刻牙の糞どもをどーにかしねぇと、また次が出てくる』
『……うん』
生き返っても、貫に想いを告げて繋がるとは思っていない。あの言葉を聞かされていても、決定打はないのだから。それよりも、次の素材を造られる方が恐ろしいのだ。次の柘榴を造られたら、同じ思いをする少女か少年が出てきてしまう。その最悪の事態は、もう二度と起きてはいけない。解決しないままで、生き返っては意味がないのだ。
不知火も察したのか、またぽんぽんと頭を撫でてくれた。
『なら、いい結果に出来るようにしようぜ? 俺は、柘榴のことは気に入った。俺と同じくらいの素材になっても、自分勝手どころか相手のために動いてる。黄泉返りするかどうかは一旦あとだ。刻牙をぶっつぶそうぜ』
『うん! おじいちゃん、手伝って』
『おう。……とりゃえず、起きるかぁ』
口調をまた独特のものに戻して、指を鳴らせば。意識が自然と遠のいて、すぐに浮き上がったが。目を開けた時は、ベッドに寝かされていた。不知火の姿は無く、サイドテーブルには貫がもたれかかっていたが。ベッドサイドでは、呉羽が号泣して柘榴の身体にしがみついていたので酷く驚いた。
「ざぐろ゛っぢ~~~~~!!!!!」
「あ、うん。ごめん、重い……」
「うああああああああ」
泣き続けるくらい心配したにしても、どれくらい寝ていたのか。貫に視線を向ければ、目が合うと彼は、涙をひと筋零したのだ。嗚咽もなく、ただ感情が溢れたかのように。
その一瞬の流れで、柘榴はひとつの目標が出来たのだ。
不知火が可能と言っていた『黄泉返り』。貫ももし、同じ想いなら応えるために生き返りたいと。呉羽は陸翔とのことが解決していないのでわからないが、柘榴自身は可能性を否定したくない、自分のわがままが初めて生まれたのだ。母以外に、他人を優先したいという愛の感情が。
とりあえず、彼に向かって告げたのは。
「さっきは、ごめんね? むきになって」
その謝罪だけは、ちゃんと言うことにしたのだった。
次回はまた明日〜




