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ダンジョン商売  作者: もぎ すず
第一章 ダンジョン生成できるようです
33/99

031 同棲?

 2月も半ばが過ぎた。

 世間ではそろそろ大学入学試験が始まるころだ。


 玲央先輩もしれっと受験生のフリをしている。

 なぜ家でバレないのか聞いてみたが「実際のところ、お金以外、関心がないのさ」とにべもない。


 動画の収益化だが、チャンネルの登録者数はすでに条件を達成していて、あとは総再生時間がクリアすればよいだけだった。

 そして本日未明、晴れてクリアとなったのだ。


「収益化の申請をしたでござる。審査があるので、一ヶ月くらいはかかると思うでござる」

「分かりました。許可が下りるといいですね」


 許可が下りないと、戦略を練り直す必要があるのだ。

「怪しげな詐欺チャンネルと思われて、弾かれたらどうしよう」


「他のCG動画系サイトでも問題なく下りているので、大丈夫だと思うでござる」

 茂助先輩からは、頼もしいんだか、頼もしくないんだか分からないコメントをいただいた。


 茂助先輩が編集した動画はまだまだストックがあるので、音声なしの動画をこのまま発表し続ける感じだ。

 すでに注目しはじめている人もいるそうで、ゲーム会社から問い合わせがポツポツ来ているらしい。


「ゲーム会社ですか」

「安価でモデリングをしてほしいみたいでござる」


「なんというか、また……」

「むろん、断ったでござる」


 問い合わせに関しては、「いまのところ、仕事受注、情報公開、インタビュー、コラボする予定はありません」と返信している。


「そういえば、この『低評価』って何ですか? わざわざ見に来て、そういうのを押すんですか?」


「内容がタイトルやサムネイルからかけ離れていたとか、あまりにつまらない場合に押す人がいるでござる」

「タイトル詐欺だと低評価を押されるんですか」


「そうでござる。他にも嘘の内容があったり、あからさまな小遣い稼ぎの動画にも低評価が多いようでござる」


「あれ? うちの動画はそのどれにも当たらないですよね」

「情報公開しないので、不親切だと怒っている人たちがいるでござる」


 一時期、そういった声でコメントが荒れたらしい。

「すべて手に入れないと気がすまない人たちですか。厄介ですね」


「そういう飢餓感を煽る戦略でもあるので、一部の低評価は気にしないでいいと思うでござる」

 茂助先輩の言う通り、どの動画にも一定数……だいたい40から50くらいの低評価がついていた。


 動画の方は、初期からいる人が「なんかおかしくない?」と言いだしてきたらしい。

 CGの専門家だからこそ、「おかしい」と思えるのだろう。


 俺たちのレベルも12に上がり、そろそろ3人では厳しいなと思い始めた頃、それはおこった。

「しばらく茂助くんの家にやっかいになることにした」


 玲央先輩の口から衝撃の一言が飛び出したのだ。

「えっと……同棲ですか?」


「「違う」」

 違うらしい。


 玲央先輩が医学部を受験しなかったことが、家族にバレたのだ。

「あれ? 合格発表はまだですよね」


 先輩は願書を取り寄せ、出願し、受験番号を得ていた。

 試験当日も早朝から家を出たので、バレたとは考えにくい。


「試験に落ちた。これからは別の道を行く……と家族には言う予定だったのだがな」

 医者には医者の繋がりがあるらしく、受験番号から当日受験していないのが即行でバレたらしい。


 横の繋がりとは盲点だったと、先輩は悪びれていない。

 というか、受験していないのがバレるのか。すごいな、医者の横繋がり。


「家にいるとうるさいので、ホテル暮らしをしようと思ったが、せっかくだから泊めさせてもらうことにした」

 どのへんがせっかくなのか分からないが、そういうことになったらしい。


「拙者は一人暮らしなので、構わないでござる」

 ちなみに双方とも「恋愛感情はない」と口を揃えて言っていたので、まあ本当だろう。


「なに、あと10日ほどで卒業式だ。それまで家族と顔を合わせなければ、なんとかなるさ」

 一応、毎日連絡さえしておけば、鬼参(おにまいり)家の体面もあり、ことを荒立てたりはしないだろうとのこと。


「それ、家出ですよね」

「そうなるのか……まあ、否定はしない」


 玲央先輩が家出。

 まさか卒業式を直前に控えて、そんなことになるとは思わなかった。


 ちなみに先輩が言った「せっかくなので」という意味だが、あとで判明した。

 せっかくなので、女子力の高い茂助先輩に、家事などを教えてもらうのだそうな。


 いいのか、それで。




 レベル12になった俺たちは、A4ダンジョンとA5ダンジョンを中心に探索を続けている。


 さすがにA5ダンジョンともなると、落ちる魔石の数も増え、1回の探索で20個から30個くらいは得られるようになってきた。


 異世界だとこれで1万円ほどの稼ぎなので、専業探索者への道はなんと遠いことか。


 ダンジョン探索をはじめて半年の成果としては、上々かもしれないが、「あっちの世界だと、ようやく半人前かね」と言われてヘコんだ。


 そして! ようやく宝箱からスキルオーブが出た。

「いやぁっほぉ!」


 勇三が飛び跳ねて喜んでいた。硬球よりやや小さい、淡い色の珠だ。

 握ると〈砕弓(さいきゅう)☆1〉と脳内に言葉が浮かんだ。


「弓のスキルですね」

「残念だが、お蔵入りかな。私たちの中で、弓を使う者はいないからな」


「新しいメンバーの中に入るかもしれませんね」

「新しいメンバーか。はやく欲しいものだな」


 祖母に見せると「『砕』シリーズだね。弓は射程が長いから、フィールドで効果を発揮するよ」と言われた。

 持っていると、戦争で活躍できるらしい。


 もちろんこの世界では、弓で戦争することはない。

 フィールドに魔物はいないのだから、使い道はなさそうである。


「これも倉庫行きか」

 そのうち倉庫が溢れるんじゃなかろうか。




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