75 改善薬と特効薬 2
「お世話になった方だから教えてあげたいんだ。だめかな?」
「オレは良いと思うけど、どうやって教えるつもりなんだ?」
思ってたよりも情けない声に、オーランドは笑いながら俺の肩をたたく。
逆に怖い顔をしているのは、ヤンスさんとエレオノーレさんだ。
「ヤンスお兄さんは反対だ。キリトちゃんがどうやったって怪しまれるだろ?」
「私もそう思うわ」
だよな、俺だってそう考えたから皆に相談したんだもんな。
全く効かないわけじゃないし、最悪、また俺達が素材を取りに行けば良い。
それだけの事だ。
そう諦めかけていた時、ずっと難しい顔をしていたジャックが俺を指差した。
「……迷い人、知識」
「そうか、それならイケるかもしれないな!」
ジャックの言葉にオーランドが膝を叩く。
あちらの知識だと主張すれば情報源を怪しまれる事も無く、伝えることができる。
勢いづいて振り返れば「それなら……」とヤンスさんもエレオノーレさんも渋々頷いてくれた。
(やったっ!)
光明が見えた。
それならいける。
俺達は急いで院長先生の所に戻った。
丁度薬を小瓶に詰め終えて薬棚に入れ終えたところで、急いで声を掛ける。
「院長先生、お話があります。奥さんにお薬を渡す前に少しだけお時間頂けますか?」
院長先生は不思議そうにしながらも、快く頷くと話を聞いてくれた。
俺が迷い人である事、作った事はないが彼方でも似た様な病があり、特効薬もある事。
元々は濁った青い改善薬だったのが、ある素材を足したところ、澄んだ赤色の特効薬に変わったのだ、という作り話をした。
「俺はその薬の作り方を知らないのでお二人に何も言いませんでした。でも、出来上がった薬があまりにそっくりで……。彼方では有名な話なので足した素材だけは知っています」
話を進めるうちに身を乗り出してくる二人。
「確かに回復してもまた再発する事も多々あるそうだが、キリト君ちなみにその素材とは?!」
「お父さん、彼方の世界の話です!此方には無い可能性もあります!」
期待しすぎない様にデイジーが待ったを掛けてくれる。
でも大丈夫、安心して、今すぐそこにあるよ。
「彼方では『緋檸檬』と呼ばれる素材です。どこにでも生えていて、こちらのレミツィトローネがとてもよく似ています」
「数本あるのだから、一本だけ試してみても良いだろう?デイジー」
「そうですね。レミツィトローネなら、庭になっていますし、一本だけなら」
俺の言葉に被せる様に早口で言いながら、二人はよく似た動きでワタワタと庭に出ていく。
かと思ったら、両手に一個ずつ合計四個持って駆け込んできた。
レミツィトローネを綺麗に洗い、半分に切って絞ると、丁寧に濾過して、震える手でスポイトを使って薬の入った小瓶に一滴ずつ落としていく。
三滴目で色がくすんだ青から透き通った綺麗な赤に変わる。
【鑑定】すると弛緩病の特効薬と表示された。
「そうです、こんな色でした」
「ギルドで鑑定の魔術具を使わせてもらおう」
そう言うと院長先生は取るものもとりあえず、薬の瓶だけ抱えて飛び出した。
「お父さん鑑定料を持っていませんよっ」
デイジーがお金を持って後を追いかける。
鑑定の魔術具の使用料は高額で、前払い制なのである。
デイジーもパニックになっている様で、扉にぶつかったり転んだりしているが、大丈夫だろうか?
「完成したか?」
「完成してたね。これで一安心だよ」
二人を見送りながらオーランドが確認してくる。
間違いなく完成していた。
一時間ほどしてニコニコといい笑顔で走って帰ってきた。
何回転んだのだろうか、二人ともあちこち薄汚れて、デイジーに至っては膝小僧から血が滲んでいた。
それでも薬の小瓶はぎゅっと大切そうに握られている。
無事に特効薬と鑑定してもらえた様で、二人は奥さんの所に駆け込んで行った。
程なくしてワッと明るい声が上がっていたので、目に見えて回復したのだろう。
良かった良かった。
あれ?目から汗が出てる?
いっぱいメモして疲れたんだな、ちょっと休ませてもらおう。




