72 どこからどこまでがやって良い事なのだろうか?
切り拓いた土地の申請も無事終わり、本日から早速工事スタートだ!
連日役所とやり取りしていたオーランドは、目が死んだ魚の様になっている。
ドゥーリンさんが居住スペースを大きくしてしまった為、最初に申請していたスペースから大きく拡張されて、かなり複雑な申請方法になり、乱闘一歩手前までいったらしい。
本当にお疲れ様でございました。
ちなみにオーランドが申請で四苦八苦している間は、拡張した土地の開墾を他のみんなで頑張っていました。
さて、そうして目の前に広がるのは広大な土地だ。
大量の大きな樹木を切り倒し、乾燥の為積み上げられた丸太と、切り株を取り払い柔らかくなった土と、あちこちに残る雑草くらいしか無い広い空間。
ちなみに、一部の丸太は魔法で水分を抜いて、薪にして孤児院で使用しているが、周りには内緒だ。
俺とジャックしか知らない。
「ほーぅ!頑張ったのぅ。壮観壮観」
ドゥーリンさんがニマニマとちょっと離れたくなる笑い方をしながら見回す。
その背後には、似た表情の十人くらいのドワーフ達がいる。
皆んな髭もじゃで、多少の差はあれど百五十センチ前後の小さくてムキムキのおっさんやお爺さん達。
俺にはドゥーリンさんと同じ歳くらいに見える人も居るけど、彼に言わせれば「まだまだハナタレのひよっこ達」なのだそう。
ドワーフの寿命は大体四百〜四百五十年程で、ドゥーリンさんは“熟成のきいた三百代”、同じくらいに見えるのは“脂ののり始めた二百代前半”、他のドワーフ達は“まだまだ駆け出し百代後半”と説明を受けた。
「駆け出しの分際で親方と仕事が出来るなんてワシらは果報モンだ!」
うっかり「若い人が来ると思ってた」と口走ったら、ドゥーリンさん以外のドワーフ達から散々に訂正されてしまった。
人間には見分けづらいかもしれないが、ドゥーリンさんと他のドワーフ達の間には二百年以上のキャリアの差があり、如何にドゥーリンさんが素晴らしい作り手なのか、どれだけ貴重な技術者なのか熱く熱く語ってくれた。
杭と紐を使用して、どの辺りに建物がくるかアタリを取る。
これを目安に穴を掘り、家の基礎と地下室を作っていくらしい。
彼等曰く“まだまだ駆け出し”の中でも更に駆け出しの三人が大量の麻紐と杭を持って彼方此方に走り回っている。
実際に計測して杭を打つのはある程度技術のあるドワーフ達らしく、(恐らく)若手の三人は荷物を運びながらも食い入る様に他のドワーフの作業を眺めていた。
午前中いっぱいを掛けて位置決め場所取りを終わらせると、彼等は昼食の為に街に戻っていく。
お昼ご飯用意しておけば良かったかな?
それでも、今日は逆に都合が良かったかもしれない。
昼食でドワーフ達が席を外したタイミングを見計らい、俺は前に出た。
「基礎の穴掘りは任せて」
魔法でファイトイッパーツと杭を打った所を柱の様に残して、地下室分の穴を開けた。
穴熊亭でやった某錬金術師の真似である。
必要な深さや広さは、設計図を作る際にドゥーリンさんと確認していたので、サイズの間違いはないはずだ。
穴を掘るついでに地盤が丈夫になる様に押し固めた。
まるで石の壁の様にガッチガチのツルツルだ。
「こンの……っ、考え無しっ!」
俺頑張った、と振り返ったら、ビンタが飛んできた。
びっくりして、「父さんにも打たれたことないのに」と反射で返したところ、エレオノーレさんにしこたま怒られてしまった。
父親が打たないのであれば私が打ってやるわ!だとか、ドワーフ達にどう説明するつもりだとか、彼等の仕事を奪ったら誇りを傷つけてしまうだとか沢山言われた。
早く仕上がった方が良いだろうと思ってやったけれど、色んな意味で駄目だった様で、元通りにさせられました。
木を切るのは良いけど穴を掘るのは駄目なんだそうな。
なんとなく納得いかない。
いつも俺不運を読んでくださってありがとうございます!
もうすぐ第一章が終了して、第二章に入ります。
二章からはまたダンジョン編がスタートとなりますので、よろしくお願いします。
これからも頑張ります!




