64 通過儀礼?
デイジーや孤児院長先生に、山で使える植物などの知識を子供達と一緒に教えてもらったり、オーランド達にハンターの心得を子供達と一緒に教えてもらったり、魔法での伐採に呼び出されたりするうちに、あっという間に明日は、新月。
夜明けすぐから、薬草の生えている山に出発だ。
山自体は二時間程で着くくらい近い。
明るいうちに登り、該当の薬草を探して採取時間を待つ作戦だ。
山道を登り、日当たりの良い場所を探す。
月光を蓄えて育つ薬草なので、山頂に近く開けていて、獣や魔物の通らない場所になるのだと図鑑には書いてあった。
山頂に向かうと、木に付けられた何かの爪の痕が頻繁に見られる様になった。
これ、くまじゃね?
冷や汗が背中を濡らす。
「あー、ブラウンワイルドベアだなこりゃ」
「普通の熊の可能性は?」
ブラウンワイルドベアとはこの辺では一番遭いたくない魔物だ。
縄張り意識が強く、縄張りエリアも広い。
身体も通常の熊より一回り大きく、タフで、攻撃力も半端ない。
多分熊パンチ一発で俺の身体を半分に出来てしまう。
いや、冗談抜きでね?
ガチ寄りのガチよ?
「普通の熊よりマーキングの位置がたけぇし、擦り付けられてる毛に魔力が含まれている。十中八九どころか、百パー、ブラウンワイルドベアだ」
「おっふ……」
ヤンスさん、アンタ、夢も希望も無いよ。
もうね、フラグとしか思えないよね。
オネガイ、ヤメテ。
探索魔法のエリアを拡げながら、薬草を探す。
葉っぱの大きな草を除けると右手にチクッとした違和感。
それはみるみるうちに痒みとなって俺の腕を支配する。
「ぅっわっ!なんだこれっ!」
痒い!
めちゃくちゃ痒いっ!
掌から指から手首に腕に至るまでみっちり蚊に刺されてしまったかのような痒みだ!
現に腕全体が真っ赤になって、パンパンに腫れてきている。
「すぐに水で流してください!」
悲鳴のようなデイジーの指示に従って水魔法でざぶざぶ洗う。
耐えられない痒みから、ギリギリ我慢できる痒みになったけどそれでも爪をたててバリバリ掻きむしりたくなる。
デイジーは、近くに生えていた蓬のような草を石ですり潰して、手持ちの軟膏に混ぜ合わせた。
「かなり滲みますけどすぐ効きますのでじっとしていて下さいね」
「じゃあ、オレとジャックで抑えようか」
「わかった」
デイジーの言葉にオーランドとジャックが肩を回しながら近付いてきた。
ガッチリとジャックに羽交締めにされ、オーランドには腕を捕まえられる。
身動きひとつできない程だ。
ーーーぺちょり。
「んぎゃあぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!」
めちゃくちゃ滲みた。
目にレモン汁入るより滲みた。
この俺がオーランドの腕を弾き飛ばせたくらいに滲みた。
「痒くていいからもう塗らないで!」と泣きつくレベルだった。
許してはくれなかったけど。
「酷い目にあった……」
グッタリと涙目で横たわる俺をニヤニヤしながらヤンスさんが見ている。
周りを見回すと他の皆も笑っていた。
なんでも新人ハンターなら一度は刺される虫らしい。
広い範囲が痒くなるだけで、重篤な毒性のない事、水で流して、どこにでもある雑草と一般的な軟膏で治る事等から、洗礼として体験する事になるのだそうだ。
そして、馬鹿みたいに滲みるが、すぐに治る。
一度酷い目に遭えば迂闊な行動はしなくなるだろうと誰も止めてくれなかったようだ。
とはいえ、放置すると掻きむしって、流血、化膿、最終的には腐り落ちてしまうらしいから、手早い処置が大事なのだそう。
異世界は虫もこえぇ……。
「これで一人前だな!」
笑顔のオーランドに腹が立ったので腹パンしたら、腹筋が固すぎて全くダメージが入らなかった。
悔しいデス!
いつも読んでくださってありがとうございます。
評価、ブックマーク、いいねとても嬉しいです!
これからもどうぞよろしくお願いします。




