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59 騒乱の孤児院

 北門から出て普通に歩いて十分ほどの距離をデイジーに先導されながら走る。

 小高い丘の上に塀と尖塔が見えた。

 門は開きっぱなしだ。

 中から何か言い争う声が聞こえた。


「先に行く!」


 オーランドとヤンスさんがぐっとスピードを上げて飛び込んでいった。

 遅れて中に入ると、十八、九歳くらいの若い男が、赤毛の女の子の腕を掴んで引き摺っている。

 女の子はまだ中学生くらいだ。

 顔には幼さが残っている。


「オラ!来いよ!手続きなんかいらねぇだろうが!一人、二人孤児が消えても誰も困らねぇよ!」

「やめてよ!ネルケを離して!」


 子供達が赤毛の女の子と男を引き離そうと、男の腰や腕にしがみついていた。

 それを煩わしそうに蹴り飛ばしながら男は喚く。


 近づくのを邪魔する女を締め上げていたオーランドは、一足飛びに近付いて、男の手首を掴み捻り上げる。

 俺も止めに行こうと踏み出した時にムギュッと何かを踏んだ。

 足下を見ると男が一人伸びていた。

 奥にはオーランドに絞められていた女と、ヤンスさんに意識を奪われた女が倒れている。


「キリト!そいつらの武装解除してロープを出せっ!ジャックは武装解除出来たやつから縛り上げろ!エレオノーレとデイジーは子供達の保護!ヤンスは他に馬鹿が居ないか確認してくれ」


 女の子を引き摺っていた男を絞めてオトしながら指示を出すオーランド。

 俺は慌ててロープを取り出した。

 ポーチはもちろん、剣や杖、ナイフに針など目に見えて危険な物から剥ぎ取っていく。

 女の一人が靴とスカートの下に刃物を仕込んでいた以外は特に何も隠し持ってはいなかった。

 靴を脱がせて、中を覗かない様に刃物を取り払う。

 もう一人の女は魔法使いだったので猿轡を丁寧に噛ませる。

 ちょっとイケナイコトをしている気がしてドキドキし……違う違う!安全確保だから!

 安全確保だから、健・全!


 変な汗を拭うと、探索魔法で周りをチェックする。

 足元に転がっている四人は赤。

 パーティメンバーの皆は青。

 子供達は白。

 他に赤は居ない。

 建物の中に居る白の数も併せて数を数えると全部で十四人。

 念の為デイジーに聞くと、近くにいた年長の男の子を捕まえて、確認を取る。

 今、孤児院に居るのは彼を含めて十四人で間違いないらしい。

 全員居て良かった良かった。


 そうして落ち着くと、デイジーが帰ってきた!とわらわら子供達が集まってくる。

 小さい子供達は危険が去ったのだと理解したのか、安心して泣き始めた。

 デイジーを始め年長組だと思われる子達があやして回る。


 そんな中、連れていかれそうになっていた女の子は泣いていない。

 強い子だな、と思って顔を見ると、不自然に表情が強張っていた。

 多分まだ安心出来ていないんだ。

 デイジーを呼んで、彼女に危険は去ったと伝えてもらう。

 こういう事は信頼している人間に行ってもらわないと、かえってストレスを与えてしまうものだ。


「ネルケ頑張ったね、もう悪い人はみんな捕まったよ」

「で、い……じー……?私、こわ、こわかっーーーっ!」


 案の定、デイジーの笑顔と言葉に、みるみるうちに表情が崩れて、抱き着いてわんわん泣き始めた。

 これで一安心だ。

 我慢を続けていると、後で何かが歪む。

 今、泣けるのであれば大丈夫だ。

 勿論、今後の心のケアは大事だけどな。


 しばらくすると、縛り上げていた奴等が目を覚ました。

 縛られている事に激怒して「ロープを解け」だの、「ギルドに訴える」だの騒いでいる。

 コイツらはデイジーの元パーティの四人だ。

 なんだか見覚えがあるなーと思ったら、俺の『飛竜の庇護』へのパーティ登録の時にわざとぶつかって行ったバカップル達だった。

 成程、そりゃ性格悪いわけだわ。


 門の兵士のおっさんが教えてくれたのは、コイツらのことだった。

 以前デイジーを連れていって、今回また神官を探しに来た、と言われた時にはデイジーが死んでしまったのだと思ったそうだ。

 でも、ちゃんと生きていた。

 コレはきな臭いと教えてくれ、俺達は嫌な予感しかしなかった。

 急いで来てみればこの有様である。


 勿論、俺達は誰一人としてコイツらの言葉に耳を貸さなかった。

 孤児院で一番足が速いという年長の男の子に、ギルドまで人を呼びに行ってもらう。

 ついでに、北門の兵士のおっさんにも一言伝言をお願いした。

 彼は力強く頷くと駆け出した。


 その時、俺の背後に隠れていたデイジーに気付いたバカップルハンター共が、一層うるさく騒ぎ出した。


「デイジーお前よくも脱走しやがって!あれからどんだけ大変だったと思っていやがる!」

「そうよ!食事だって片付けだって解体だって全部アンタの仕事でしょ?!放り出して逃げてんじゃないわよ!」

「デイジーは貧乏神だ、悪魔の手先だ。騙されるな!」


 暴言を吐きまくる三人(一人は猿轡でふぬふぬとしか言えない)

 ただ、聞き流せない情報があった。


「ちょっと聞いて良いかしら?今の『騙されるな』ってなんの事?」


 エレオノーレさんが優しげに聞く。

 あくまでも“優しげ”だ。

 俺には、彼女の背後に怒りの炎が見える。

 なのに彼等にはそれが見えないのか、我が意を得たり、とでも言うかの様に次々と話し始める。


 曰く、取ってきたキノコは毒キノコで、彼ら四人は旅先で腹痛、嘔吐、下痢に苦しめられた


「それはっ、正しく処理をすれば美味しく食べられるのに、あなた方が手間を惜しんでそのまま鍋に放り込んだからですっ」


 曰く、金になると言った薬草は二束三文で時間を無駄にした


「採取時に処理をすれば大きなお金になる薬草だと言ったんですっ!都合の良いところばかり聞いて処理しないから無価値になるのは仕方ありませんっ」


 デイジーが半泣きで言い返していく。

 他にも出るわ出るわ。

 あまりの言い分にオーランドがブチ切れて、拳で物理的に黙らせる。

 女性にも遠慮なく手を上げている。

 猿轡を噛まされている女性の顔色が物凄く悪い。

 彼女だけはお喋りできないから、殴られてはいないが、結構ふぬふぬと騒いでいた。

 きっと次は自分だと思っているのだろう。

 オーランドを見る目が恐怖で染まっている。

 俺もちょっとだけオーランドが恐い。


 ようやく少年がギルド職員と兵士のおっさんを連れて戻ってきた。

 全力疾走しただろう少年は仰向けに倒れて、大の字でひーはーぜーぜー言っている。

 そっと冷たい水と冷やしたタオルを手渡しておいた。


 既にデイジーの脱退でギルドに報告していたこともあり、四人はパーティ内不正搾取と、一般人への暴行および恐喝で、ハンターカード没収の後、軽犯罪奴隷へ。

 強制労働三年だそう。

 働き如何によっては短くも長くもなるらしい。

 暴れて騒ぐ彼らを兵士のおっさんが引きずっていった。

 どうやら【身体強化】持ちらしい。

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― 新着の感想 ―
絶対コイツらがそうだと思ってたんだ。俺
[一言] あの時、一人だけ頭下げて謝っていたのがデイジーですね 今まで気付かなかったのはバカップルどもの印象が強すぎてデイジーをよく覚えていなかったからかな?
[気になる点] わざとぶつかって行った のところ最初の話数を思い出せないけど、 行ったではなく来たのほうだったかもしれませんね。
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