49 ホームを探して
本日は快晴。
皆でギルドに拠点の相談と、帝都方面のクエストがないか調べにいく。
案の定、拠点に適した建物は無かった。
大きすぎるか、小さすぎるかの二択だった。
しかも大きい方は賃貸しかダメで、三年後には返さなくてはならないのだとか。
不在にしている間の賃貸だそう。
無いと嘆いても仕方ないので、帝都に向かう依頼を探す事にした。
期待が膨らみまくっていたオーランド、エレオノーレさん、ヤンスさんの三人は、ベッコベコに凹んでいる。
使い物にならない三人を放置して、俺とジャック、デイジーで掲示板を確認する。
幸い、近日中に帝都に向けて出発する商人の護衛依頼があった。
ジャックが太鼓判を押してくれたので、リーリエを避けて、別の受付嬢に詳しく訊いてみる。
なのに、何故だかリーリエが出てきて説明を代わってしまった。
二人ですぐに距離を取ると、ジャックが前に出てくれた。
ありがたや。
「あーん、そんなに逃げなくてもいいのにぃ」
至極残念そうに、色っぽい溜息を吐くと、色々詳しく説明してくれた。
アルスフィアットから、鉱石や精製したインゴット、こちらで作成した武器を、帝都に住むドワーフ達に届けて、替わりに帝都の武器を購入して帰る予定なのだとか。
不定期に、極稀に行う取引なので、専属の護衛はいないのだそう。
取引先での滞在期間が長い為、片道だけの護衛という珍しい形態で、報酬は護衛にしては低めだ。
しかし、帰りの依頼を出した時にも請け負えば、帰りは割り増しで、優先的に雇ってくれるそう。
これに関しては、俺たちにとっても都合が良い。
良い拠点が見つかれば、そのまま居着くかもしれないからな。
簡潔に説明をして、オーランド達に了承を得ると、クエストを受ける手続きを行う。
リーリエは「はやく帰って来てねー」などと言いながら手を振って見送る。
どうか、帝都に良い物件があります様に。
明日、商人さん達にギルドから連絡をして、後日詳しい説明と顔合わせがある。
そこで出発の日取りや、商隊規模の擦り合わせを行う……予定だった。
バァンっ!
乱暴に開かれた扉が、大きな音を立てる。
三十代くらいの身なりの良い男性が飛び込んできた。
「リーリエ!まだ決まらないのかよ!」
ーーー依頼主当人が来なければ。
依頼主はエーミール。
武器商人の三代目で、次期商会長のお坊っちゃんだ。
ちなみにリーリエの幼なじみだそう。
歳は三十二歳。
ススキ色に近い、くすんだ金髪を短く刈り込んで、顎髭をちょこっとだけ生やしている。
正直似合っていない。
むしろ、キチンと剃り落として、スッキリさせた方が清潔感が出て、おば様方あたりに大人気になりそうだ。
彼は、今回初めて一人で商談を任されて、ヤル気に満ち溢れているらしい。
今までは、ベテランの商会員が付けられていたそうなのだが、父親である商会長からやっとお許しが出たらしい。
メンバー選抜から、商材、日程、交渉など全てを任されたそうだ。
良くも悪くも丁度良いからと、ギルドの会議室を借りて、そのまま摺り合わせを行う事になった。
「よろしくな!」
リーリエに「今決まった」と教えられた彼、にっこにこと笑み崩れるエーミールさんには、正直不安しかない。
同じ様に感じたのだろう。
ヤンスさんが、厳しい顔で、あれこれ質問している。
元々、お目付役のベテラン商会員が居る間に、ほとんどの業務はこなした事があるらしい。
質問には淀みなく答えていて、少しホッとした。
次々に、確認事項が埋まっていく。
契約料金の交渉はヤンスさん相手に一歩も引かず、依頼書通りになり、少しだけエーミールさんを見直してしまった。
流石商人だ。
エーミールさんは、質問にすらすら答えられた事に気を良くしたのか、酒を持っていければなぁ、と愚痴を溢す。
こちらで作られた、帝都では珍しい酒で、ドワーフ達の機嫌を取りたいらしい。
ただ、酒は瓶に入っていて、とても割れ易い。
途中がたつく道があるので、馬車では樽とかでなくては、持っていけないそうだ。
樽は重くて、場所を取る上に、街から持ち出す際にも、持ち込む際にも、関税が掛かるのだとか。
同じ量の酒瓶は、関税が掛からないという不思議。
「あの、だったら俺が持ちましょうか?【アイテムボックス】があるので割らずに持っていけますよ?」
「本当かいっ?!」
「ちょちょちょっ!ちょーーーっと待った!」
ガタッと席を立ち上がり、身を乗り出すエーミールさんと俺の間に、慌ててヤンスさんが飛び込んだ。
そこからはまた、アイテム運搬を含めたほとんど決まっていた、報酬の見直し交渉が始まり、ヤンスさんが頑張った。
擦ったもんだがありつつ、料金を最初の額に抑える代わりに、必ずベテラン商会員を一人入れろ、とゴリ押したようだ。
とはいえ、別途で運搬料は戴く(俺個人が運搬契約をする形、だそうだ。何が変わってくるのか俺には分からないけど)
荷物を預かるだけなのに、大銀貨三枚(約三十万円)はふっかけすぎだと思う。
そして俺は、交渉事の時には安易に口を開くな、と口酸っぱく叱られた。
ごめんなさい。
いつも「俺不運」を読んでくださってありがとうございます!
評価、ブックマーク、いいね本当に嬉しいです。
ありがとうございます!
帝都編スタートです。
リーリエお姉さん再びで、書いていてとても楽しかったです。




