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31 ぶつかってきたのは……


 ーーードスン


 調子に乗って、前方不注意だった俺に、何かがぶつかってきた。

 慣性の法則に従い、後ろに倒れていく俺達。

 そう『達』。

 ぶつかってきたのは、小柄な痩せっぽっちの女の子だった。

 皆が呼ぶ声が、妙にゆっくり聞こえる。

 そのまま、先程の罠の上に倒れこんだ。

 ズボッと突き抜ける感触と、身体中にビシバシ当たる砂や土に小石。

 遅れて、背中に強い衝撃。

 からの、腹部への衝撃。


「ぐえっ!」


 カエルが潰れた様な声が出て、咳込む。

 土埃が舞っている。

 とりあえず無我夢中で、辺りにクリーン魔法を掛けて、周りの土埃を除去する。

 次に、思わず抱きとめてしまっていた女の子が、無事か確認する。

 ぐったりはしているけれど、息はあるし、多分大丈夫。


「キリトッ!大丈夫かっ?!」


 オーランドが上から、声を掛けてくる。

 物凄く焦った声だ。

 暗くて周りはよく見えないけれど、怪我も無いし、落ちた体感的にも、それ程深くない。

 落とし穴にありがちな、槍衾とか、油とかが、あるわけでもない。

 落ちてきた穴から光が差して、身の回りだけは見える。


「腰打って痛いだけ!罠も見た感じない!浅くて助かったよー!」

「今助けに行くからそこ、動くなよ?!」

「わかったー」


 オーランドに返事をすると、その声で気付いたのか、動き出した女の子に声を掛ける。


「大丈夫?痛いとことか無い?」

「!!」


 彼女は、俺の上に乗っている事に気づいて、慌てて飛び降りる。

 小麦色の、前の方が少し長いタイプの、おかっぱの髪。

 前下がりボブって言うんだっけ?

 なんかクラスの女の子が「(へき)!」だと力説していた気がする。


 あまり背が高いとは言えない俺に、つむじが見えるくらい小さい。

 そして、明らかに痩せすぎだ。

 手首がびっくりする程細くて、体重は軽すぎる。

 目は、ヘーゼル色でクリっとしていて、可愛らしい顔つきだ。

 とはいえ、キョドキョドと落ち着かない視線、大きな瞳いっぱいに溜まった涙。

 胸の前で、モジモジと絡められる指先。

 猫背気味で、卑屈そうな態度。


(ああ、いじめられっ子だ)


 すぐに分かった。

 俺の友達が、そうだったから。

 中学の時、クラスが分かれて、ちょっと疎遠になった年に狙われたんだ。

 気は弱いけど、本当に良いやつで、お笑いが大好きだった。

 そんなあいつのいじめられてた頃に、そっくりだった。


「大丈夫。なんか理由があるんだろ?俺達のパーティは、不当に虐げたり、暴力を振るったりしないよ」


 俺の言葉に、パッと視線を上げてこちらを見る。

 涙が、ポロポロと溢れて転げ落ちていく。

 言って良いのだろうか、と言葉を飲み込み、また話そうとして、飲み込む。

 どう言って良いかわからない、という事が丸わかりの表情だった。

 それでも、勇気を振り絞ったのだろう。


「たす……けて、ください」


 シンプルなその言葉は、張り裂けそうで、切実だった。

 オーランド達が助けに来てくれるまで、壁の方に詰めて、シートを敷いて話を聞く。


 ポツリポツリと、涙を流しながら話してくれた。

 彼女は現在、パーティメンバーに虐められているのだそう。

 普段から、小間使いの様に扱われている事、昨夜、中々倒せないフロアボスに、自分を囮にして下の階層に向かうかどうか、相談をしていたのを聞いてしまった事。

 セーフティエリアで朝食を作り(食事の用意も食材を用意するのも運ぶのも彼女の仕事だそうだ)水を補充すると言って、逃げ出したのだとか。


 そこまで話したところで、目の前にロープが降りてきた。

 オーランドがそれを伝って降りてくる。


「キリト!良かった!怪我はないか?」


 スタン、とレスキュー隊もかくや、といった体捌きで着地したオーランドは、俺の身体を、あちこち触ったり、曲げたり、伸ばさせたりして、何処にも不備がない事を確認する。


「よし、無事だな?……で、君は?」


 少しだけ、咎める感情を含んだオーランドの声に、オロオロと視線を彷徨わせる女の子。

 俺の方で彼女の事情を説明して、皆に相談する事になった。

 なによりも、まずはここからの脱出だ。

 非戦闘員である、女の子から。

 体力も、腕力も、無さそうな彼女は、ロープに結び目をいくつか作ってそこに乗り、手をロープに巻き付けて、ジャックが引っ張り上げる事になった。

 擦り傷や打撲が出来るけれど、それは我慢してもらうしか無い。


 次は俺で、さぁ、ロープを登るぞってタイミングで、視界の端に何かがチラついた。

 ジャック達に一旦待ってもらって、そちらを良く見る。

 危険は無さそうだ。

 オーランドが、不思議そうに俺を見ている。

 近寄ってトーチの魔法(エレオノーレさんに教えてもらった)であたりを照らしてみると、そこには沢山の宝石と装飾品に、金貨の山。

 金、銀、鋼のインゴットも三本ずつあった。


「嘘だろ?」


 オーランドの呟きが聞こえた。

 ここみたいに危険が少なく、大量の貴金属やアイテムが手に入るフロアを、ボーナスフロアというらしい。

 とりあえず、パッと鑑定をしたところ、罠でも危険物でもない事が判ったので、でっかい麻袋に手当たり次第全部詰めて、【アイテムボックス】に放り入れる。

 オーランドから、これに関しては一旦落ち着いてから皆に話そう、と言われた。

 暗くて顔は良く見えなかったけど、真面目な声だったので、頷いて同意した。

 その後、何事もなかったかの様に、ロープを登ってダンジョンを出る。


 他のメンバーにも粗方説明して、一度街に戻る事にした。彼女の名前は、デイジーというらしい。

 十六歳の神官だそうだ。

 ヤンスさんからは彼女を鑑定して、違う名前を名乗っていないか、また、探索魔法での色を確認する様に言われた。

 そこで、探索魔法を起動していなかった事に気づいた。

 慌てて起動させると、それに気付いたヤンスさんに小突かれる。


「そんな便利なもんがあるんだからちゃんと使え!身を守れ!油断するな!」


 はい。

 ご尤もです。

 見張りの時に使う癖が付いていたから、他の所で使う事に考えが及ばなかったんだ。

 反省します。

 勿論、デイジーは正確に名乗っていたし、真っ白だった。

 それを聞いてヤンスさんは安心した様だ。

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― 新着の感想 ―
[一言] 不運だけでは無く、この迂闊な行動も良くない事が起きる原因なんじゃ無いのかな?。
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