74. ポップコーン
ポップコーン……
澄ましバターかけて手をベタベタにしながらでも食べたい。
映画をみながら。
トムはいつのまにかシャボン玉をやめ、
輪投げに集中していた。
サクラに負けるのは悔しいらしい。
「サクラ!入ったぜ!9点」
「わ!本当だ、やるねー、トム」
サクラはトムの頭をグリグリなでる。
ああ、可愛い純粋な瞳……
小生意気そうなかんじがたまらない!
「で?いいものって何だよ」
「あ、おぼえてた?」
「あったりめーだろ」
「ちょっと待ってて」
サクラは台所に入る。
「サンミさん、裏に干してあるトウモロコシ もらっていいですか?」
料理中のサンミに声をかける
「いいけど、何に使うんだい?」
「ちょっと試してみたくて」
サクラは 皿と調味料を持って 庭に戻ると、鳥の餌用に干してあるトウモロコシを一握りつかむ。
(皮が硬いから、いけると思うんだよね……)
「大きな音がするから、耳を押さえてね」
トムがララの耳を、エイルがテトの耳を押さえる。
サクラは 四人から少しはなれると 乾燥したトウモロコシを 魔法を使い 空気のまくで包み、バターを入れ、火魔法で 熱を加える。
ポップコーンをつくるのだ。
ポップコーンは普通のコーンではできない。
皮の硬い種のコーンでないと。
家で作るときは 油をひいてフライパンで炒ればいい。
必ず蓋をするか、金ザルを逆さにしてかぶせるかしないと、はじけとびます。
あたると痛いし、熱いし、危ないし、片付けも大変ですよ~
紙袋に入れて レンチンでもOK!
″ポンッ!″
大きな破裂音がして、トムとエイルが首をすくめる。
″ポン、ポンッ、ポン!″
コーンが 透明なまくの中で はじける。
「わぁ!」
コーンが白い花になる。
好奇心のほうが勝ったのか、四人がサクラに寄る
「なんだい!?」
音を聞きつけ、サンミがでてきた。
″ポポポポポンッッ……!!″
一斉にはじけ、白い花束のようになった。
「オヤツです」
サクラは出来上がったポップコーンを皿に出し、半分に塩をふりかけ、もう半分にシナモンシュガーをふりかける。
ふんわり、香ばしい バターの香りがただよう。
サクラは一つつまんで口に入れる。
″サクッ、しゃくっ″
軽い口当たりと、さっくりした食感。成功だ。
「どうぞ」
子供達が一斉に手を伸ばす。
サンミも。
「うまっ!これ、あのトウモロコシかい?」
「はい。ポップコーンていいます」
「サクラ、教えてよ、今の……ポップコーン」
サンミがサクラを連れて 厨房へと戻る。
子供達は ポップコーンに夢中だから、目をはなしても大丈夫だろう。
(なんだ……今の)
外で見ていたギルロスは 見たこともない調理法に驚いていた。
ひょいっ、と、塀を乗り越えると、子供達に近づく。
「あ!ギル!」
トムがギルロスに気がつく。
ギルロスは 既に村の男の子の憧れの的になっていた。
強くて、かっこいいのに、親しみがある。
昨日、色々手助けしながら村をまわったからというのもある。
「よう、トム。オレもソレもらっていいか?」
「もちろんだよ!ポップコーンていうんだ」
ギルロスは 白い花のようなポップコーンを一つつまみ、ながめる。
(内側から弾けたのか……)
″カリっ……サクッ″
軽い口当たりに バターの風味と丁度いい塩気
「旨いな……」
もう一つ
″サクッ″
こっちはシナモンの香りと優しい甘さ……
「なんだい、ギル、いたのかい」
サンミが中から出てきた。
ポップコーンをもって。
子供達が 嬉しそうに手を伸ばす。
「こっちがカレーで、こっちが……なんだっけ?キャラメル?」
(カレーは、わかる。キャラメル?)
「キャラメルは少し硬いからね、気をつけて食べるんだよ」
ギルロスはキャラメル味を口に入れる。
″ガリッ″
甘いのにほろ苦い……そして、ポップコーンがしゅわしゅわと溶けしぼむ。
味を こんなに変えられるのか……
「不思議な菓子だな……」
「旨いだろ?」
「どうやって作ったんだ?」
「どう、って……フライパンに乾燥トウモロコシ入れて油で炒っただけさ」
「それだけ?」
「ああ。キャラメルは、フライパンに砂糖と水を入れて火にかけて、茶色く色づいてきたら、ポップコーンを入れて混ぜただけだよ。」
「凄いな、この村は……さっきの女は?」
「え?ああ、疲れただろうから休憩に行かせたよ」
「どこに?」
「……さあ」
ギルロスは サンミに挨拶すると、トムの頭を ポン となで「またな」と 塀を越えて行った。
「カッコイイなぁ~」
トムがポップコーンを頬張る。
「あんたはまだまだね」
エイルがつっこむ
「うっせー!」
「ほら、仲よく食いな」
サンミはトムとエイルをいさめながら、ギルロスが消えていった方をながめる。
また イシルがウルサイだろう、と。
「……あたしのせいじゃないからね」
そして ニヤリとわらう。
「イシルの人生も賑やかになってなによりだ」
イシルがどんな顔するか、楽しみなサンミであった。




