68. 戦士ギルロス
イシルは治療師のメイの家へ入る。
「どうですか、怪我人は」
「傷は大したことなかったんじゃが、魔力切れしとったよ。起きるなり腹減ったと、今、飯喰っとる」
(傷は大したことなかった……?)
では、やはり戦士が自分で止血したのか。
「ああ、その男、体の中の様子がちとおかしかったわぃ」
「どういうことですか?」
「飢餓状態……栄養失調じゃった」
栄養失調?戦士が?
「普通は痩せ細るもんじゃが、いい体しちょるから、妙なんじゃ。戦いで 急激にエネルギーを使ったからかもしれん」
「飢餓状態だけですか?血は足りてましたか?」
「そうじゃなぁ、あとは特になかったなぁ。体を先に回復してやったらすぐに目が覚めてな、自分でキズを治しよった」
「……そうですか。スノートラとサクラは何か言っていましたか?」
「其奴、傷のわりには血まみれじゃったから気になって聞いたんじゃが、魔物の返り血を浴びたんじゃないかと言っとったぞ」
それはおかしい。
昆虫類の魔物の体液は緑……つまり
血を流さない
スノートラはあきらかにミスリードしようとしている。
わからないと答えれば終わった話だ。
何かを隠そうとしている……
「わかりました。ありがとうございます。少し話しを聞きたいのですが、構いませんか?」
「イシルさんが話してくれるなら助かるわい。まだ何も話しとらんのだ」
キッチンに行くと、戦士らしき男がもりもりと飯を食っていた。
しっかりとした 逞しい体躯をしている。
炎に愛されているのか、真っ赤な髪をした男。
着ているガウンがピチピチだ。
「これはあなたのですか?」
イシルが声をかけると、男が振り向いた。
「ん″ー!(ごっくん)……俺の剣!!」
男は炎の剣を受けとると 愛しそうに眺め、イシルに礼を言う。
低く、よく響く声で。
「ありがとな!俺の相棒、綺麗にしてくれたんだ。助かったよ……探しにいくとこだった」
男は剣を鞘に納める。
そして、イシルをまじまじと見る。
「あんた、強そうだな……あんたみたいなのがいるんだったら 無理して倒さんでもよかったな」
「いえ、助かりました。村に被害がでなくて」
狼を思わせる風貌をした男は、ニッ と笑う。
「あんたが助けてくれたんだろ?俺はあのまま血が止まらず 死んじまうかと思ったぜ。回復発動したらすぐ 魔力切れ起こしちまった」
(自分で止血したわけではないのか……)
「見つけたのはドワーフの女の子です。例を言うなら彼女達に言ってください。」
イシルは 否定も肯定もしなかった。
「傷はもういいんですか?」
「おう」
男は ガウンの裾をめくり、傷口をみせる。
「あんたが血を止めて 回復しといてくれたから このとおり」
男の傷は きれいに治っていた。
「見たところ、あなたがディコトムスごときに手こずるとは思えません。何かあったのですか?」
「ああ……」
男は忌々しげに ふて腐れた顔をした
「特殊個体だったんだ」
「というと?」
「ヤツは オレの魔力を吸いとりやがった」
「ディコトムスが?」
そんな話聞いたことがない。
調べた限りでは 他の個体と何ら変わりはなかったはず。
「魔法攻撃全て吸収しやがった。おかげで剣だけで戦う羽目になったんだぜ?その上、死ぬ間際に前足を俺に突き刺し 魔力を吸い上げようとした」
だから前肢を切断し、魔力を奪われるのを防いだ と。
「おかげで魔力切れで 死んじまうとこだった。あんたは命の恩人だ」
男は再び礼を言う。
「旅の途中ですか?」
「人を探してるんだ。ところで『コロッケ』てやつがあるのはこの村か?」
「そうですが……もしや、コロッケを買いに?」
「おう!」
意外だ……食べ物にこだわりがあるようにはみえない。
「オレには 依頼主がいてな。旅の援助のかわりに、10日に一度 珍しい食い物を転送することになってんだよ」
男はギルロスと名乗った。
「ギルって呼んでくれ」
謝礼金を拒否したら、かわりに村の警護をかってでてくれた。
しばらくは村にいる、と。
また合うことを約束し、イシルは銀狼亭へと向かった。
◇◆◇◆◇
″ピコーン……ピコーン……″
″ガガガガガ……ザザサ……″
「また失敗か……」
機械音の中、男の悔しげな声が響く。
「旅の戦士?あんなところに アレを倒せる程の者がいたのか」
今回は運が悪かったのだろう。
戦士は相討ちで死んだようだというから、まあいい。
「吸魔装置は回収したんだろうな?誰にも見られなかったか?そうか。では追って指示する。待機してろ」
今日も彼女の反応があった。
早く 手に入れたい……
さて、次はどうするかな




