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63. モルガンの作品 ★




″ピコーン……ピコーン……″


″ガガガガガ……ザザサ……″


「失敗した……だと?」


機械音の鳴り響く中、男が誰かと通信をしている。


「ほう、あんなところに 魔獣が……ねぇ」


あのドワーフの鉱山は 死んでいるとはいえ、未知なる山。

魔獣が住み着いていたとしてもおかしくはないだろうが、急に現れたのが腑に落ちない。


「ふむ……」


()()の気配は消えていない。

魔獣からは逃げおおせたのだろう。


「それなら、魔獣より強いヤツを送らなくてはな」


男は立ち上がる。

()()を手にいれるために





◇◆◇◆◇





サクラとイシルは モルガンの家へやってきた。

なんでも、モルガンが見てもらいたいものがあるというのだ。


来る前に『銀狼亭』に挨拶に寄った。

昨日のランのことがあったので、色々聞かれるかとドギマギしていたサクラだが、リズもスノーも普通だった。

制服について、色々聞かれた。

二人とも興味がそっちにむいたのだろう。

サクラはほっと胸を撫で下ろす。


しかし、三の道を通る時は やはりこそばゆい思いをした。

村人がどうこうではない。サクラの気持ちの問題だ。

『カップルロード』と呼ばれてる道を 異性と二人で歩くと言うこと事態が なんとも身の置き所のない気恥ずかしさを感じさせた。


「ほう、そうやって()れるのか」


モルガンは サクラがお茶をいれるのを 感心しながら見ている。


「ずいぶん丁寧にいれるんじゃな」


「好きなんです。お茶をいれてる時間が」


会社でみんなにお茶をいれてあげるのが好きだった。

お茶くみは女の仕事とか、そういうのではないし、そういう会社でもなかった。


でも、仕事の途中で『お茶のみたいな』と思ったときは集中が切れたとき。

そう思うタイミングは、だいたいみんな同じだ。


そんな時、席を立って お茶を淹れにいくと 自分自身がリフレッシュできた。

みんなにも淹れてあげると、みんなもリフレッシュだ。

自然とみんなの好みもおぼえて、楽しくなる。


逆に、いれてくれる時もある。

お茶を()れる時間というのは、そうやって 相手を思いやれる 大切な時間 なんじゃないかと思う。


「これなんじゃが……」


モルガンが サクラの淹れたお茶をのみながら、()()()()()()を持ってきた。


それは……


「ピューラー?」


それは、サクラが現世(あっち)から持ってきたピューラーだった。

ただし、形は同じだが、持ち手が木で出来ていた。


「もしかして、モルガンさん、作ったんですか?」


モルガンが 返事のかわりに ニッと笑う。


「使ってみてくれんかのぉ、よければジャガイモ出荷と一緒に 売ってみようかと思っとるんじゃが……」


サクラは 台所にあるジャガイモを手に取る。


″シュッ″


「わっ!」


しゅるっ、と 薄く皮がむける。

サクラはもうひとむきする。


″シュッ″


「……これは」


「どうじゃ?」


「切れますね」


「切れ味は抜群じゃ!」


モルガンが 当然!と言わんばかりにこたえる。

そのこたえに サクラは 申し訳なさそうに言い直した。


「切れ()()ます」


「ん?」


モルガンが 意味がわからないという顔をする。


「いいですか、ジャガイモをこう、持って、ピューラーを引きますよね?」


サクラはシュッ シュッとジャガイモの皮をむいていく。


「でも、ここで、()が 指に当たったら、指が切れます」


「うん」


当然だ。刃物は切るためにある。


()()()()()()()()()()()ものでないと、怖くて使えないんです」


「なんと!」


「ピューラーのいいところは、簡単に早く皮がむけて、()()であることなんです。売るには 改良が必要かと……」


「…………」


サクラは申し訳ない気持ちになった。

よく切れる刃物。モルガンは腕のいい職人だったのだろう。


「……面白い」


「へ?」


「切れない刃を造れと!」


モルガンが がっはっはと、豪快に笑う。


「あの、モルガンさん?」


「ジャガイモの皮は切れても、指が切れない物か!」


モルガンはサクラの両腕をガシッとつかむ。


「面白いぞ!サクラ!270年近く生きてきて、まだ造っとらんもんがあったんじゃ!ワシは引退なんぞしとる場合ではない!」


なにやら モルガンの職人魂に火をつけたらしい。


「必ずや成し遂げてみせる!」


燃え上がるモルガンに、今まで黙って見ていたイシルが口をはさむ。


「これは、バレスの木ですか?」


イシルが気になったのは持ち手の部分らしい。


「おお、そうじゃ。頑丈で水にも強い。劣化もしにくい最高の木じゃ」


ふむ、とイシルが考え、口をひらいた。


「……少し 俗物的な話をします」


「ん?なんじゃ、イシルさんや」


「もし、商売にする気なら、木材もかえたほうがいいですね」


「どういうことじゃ?」


「最高級のものを高い値段で売るか、そこそこのものを安く売るかでかわりますが、()()を必要とする人達は貴族ではありません。僕達のような()()()者達です」


「確かに」


いくらいいものを造っても、買ってもらえなければ意味がない。

需要と供給のバランス それをはからなければ。


「それと、あまり丈夫につくりすぎると、()()()()()()()()()()のです」


「!!」


商売にするなら、客が満足して、こちらも満足出来なければ意味がない。慈善事業じゃないのだから。

すぐ壊れては意味がない。しかし、壊れなければ次は買ってもらえない。


「……誰か、商売に詳しい人がいたほうがいいのですがね」


三人で、う~んと 唸ってしまう。


「~~~」


そんな空気の中、遠くから 場違いなほど陽気な声が聞こえてきた。


「~~~さ~ん!」


誰かを呼んでいるようだ。

だんだんこっちに近づいてくる。


「――シルさ~ん!」


この声は――――


「イ、シ、ル、さ~~ん!!」


「「ラルゴ!?」」


遠くから大声で叫びながら ブンブンと手を振り走ってくるのは、街に行ったはずの ラルゴだった。





挿絵(By みてみん)






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