3話 神の領域
3月29日 少し書き直しました。
私が不老に?
何の冗談ですか!?
「な、何を言っているんですか? 冗談はやめてください!!」
「冗談じゃないよ。本来はそう簡単に不老……いや、神の領域に踏み込む事は出来ないんだけど、カチュアちゃんなら素質があるから大丈夫。それに、カチュアちゃんが不老になってくれないと、レティシアちゃんが起きた時に、カチュアちゃんがいなくなっていたら、レティシアちゃんが泣くでしょ?」
いや、私がいなくともエレン様がいる。
エレン様がいればレティ様は……。
「そうでもないよ。レティシアちゃんの中で、カチュアちゃんの存在は大きいみたいだしね。今だって、カチュアちゃんが傍にいる事で安定しているかもしれない」
そう言ってくれるのは嬉しいですが、私が不老……。
確かに、不老になれば永遠にレティ様のお世話は出来ますけど……。私に、本当に可能なのでしょうか?
せっかくレティ様とこれからも一緒にいる事が出来るという選択肢があるのに、自分から「無理」と決めつけたくは無い……。
で、でも私がここまで強くなれたのは、レティ様が教えてくれたからであって、私一人で……。
私が悩んでいると、サクラ様が私の肩に手を置く。
「まぁ、一人で神の領域に踏み込めと言われてもピンとこないと思うから、ちゃんと鍛えてくれる人を呼んであるよ」
サクラ様が合図をすると、一人の男性が部屋に入ってきました。
歳は三十代後半くらいでしょうか?
金色の髪の毛で、体は大きい人です。
でも一番の特徴は、右目に大きな傷があり目が潰れてしまっています。残った左目は、獣のようだけどなぜか優しい感じがしました。
「サクラ様。わざわざ、別の世界から来たぜ。俺に何か用か?」
「用があるから、呼んだんだよ」
男の人はサクラ様に気負う事も無く、軽く話しかけている。、サクラ様も男の人の背中をバンバン叩いて「相変わらず大きいねぇ。今も英雄をやっているのかな?」と笑顔で接している。
英雄?
この人は英雄なのですか?
「さて、英雄さん。ここに来て貰う前に、一通り説明していたでしょ? この、カチュアちゃんを神の領域に到達するくらいまで強くしてほしいんだよ」
「いや、そんな無茶な話あるか? 俺だって、神の領域に到達するまでに結構苦労したんだぜ?」
男の言う事は尤もです。
ちょっとした特訓で不老になれるのならば、誰も苦労しません。
「それに、素質はあるのか? もし、素質が無いのならば、どれだけ強くなっても神の領域に踏み込む事はできねぇぞ?」
「大丈夫、素質に関しては間違いなくあるから。それにすでに片足を踏み込んでいる状態だから、後は少し背中を押してあげるだけで、到達できるよ」
「そうなのか?」
男の人は、私をじっと見つめてから、腕を組み何かを考え始めます。
「よし、やってみよう。一年で到達しなかったら、その時は諦めろ」
男の人がそう言うと、サクラ様も納得したのか「レティシアちゃんのお世話は任せるよ。この部屋にはいつでも入れるようにしておくからね」といい、部屋を出て行ってしまいました。
そして、レティ様の眠る部屋で、男の人と二人きりになってしまいます。いえ、レティ様もいるから、三人ですね。
「おい、名前は?」
「か、カチュアです」
「そうか、俺の事は適当に読んでくれ。ただ、英雄だけは止めてくれ。背中がムズムズする」
「あ、はい。名前は教えて貰えないんですか?」
「あぁ。俺は神界ではあまり好かれていないからな。出来れば名を名乗りたくはねぇ」
名を名乗りたくないですか……。
「分かりました。これからは『先生』と呼ばせてもらいます」
男の人は、大きく頷いた後、「さて、いきなり魔物退治は酷だから、まずはお前の基礎魔力などを見せて貰おう」と腕を組みます。
「基礎魔力ですか?」
基礎魔力、確かに魔法は使えますけど、そこまで魔法は得意ではないのですが……。
「あぁ、派手な魔法は使わなくていいぜ。俺も魔法の事は良く分かんねぇし。難しく考えなくてもいい。魔力を使って全力でかかって来い。武器を使っても構わねぇし、魔法を使っても構わねぇ」
成る程……。
そういう事ですか……。
そういえば私は武器を全て没収されたのですが?
「えっと、剣はありますか? できればロングソードを」
「ん? あぁ、これを使え」
「はい」
先生は、真っ直ぐな綺麗な剣を用意してくれます。
この剣は……!?
何と言いましょうか……まるで聖剣の様に素晴らしい剣です。
私は、自分の出せる最大速力で先生に斬りかかります。
この速さならば、よほどの事が無い限りは避けられることはありません!!
しかし、先生は最低限の動きだけで避けてしまいます。
なら、もう一度!!
当たらない!?
当たりそうなのに、なぜか避けられます。
魔法を織り込んで攻撃しても、全然かすりもしません。
もしかして、心を読まれている!?
だから、攻撃を避けられているのでしょうか?
それから一時間以上、攻撃を続けましたが、かすり傷を与える事すらも出来ませんでした。
私が体力的にばててしまうと、先生が飲み物を出してくれます。そして、私の攻撃を避け続けた事で見えてきた事を説明してくれます。
「ふむ。お前は動きが雑だな。もう少し、最小限の動きで戦えるようにならなきゃいかんな」
どうやら、心を読まれたとかではなく、私が単純な攻撃しかしていなかったという事ですか。
その後も、先生の丁寧な教え方で、私のダメなところを修正していきます。
今日一日で、随分と強くなれた気がしました。
先生は、レティ様よりは強く感じませんが、人を教える才能は素晴らしいの一言です。レティ様が目覚めたら、ぜひ、ファビエの兵士を鍛えて欲しいモノです。
それから数ヵ月で約束の一年を待たずに神の領域を踏み越えて、不老になりました。
そして一年経ちます。
しかし、レティ様は目覚めません。
私は、先生との特訓を終えた後はレティ様の世話を続ける。そんな生活を二年半送り、その後は、先生と共に異世界の魔物を退治して回り、今では一人で魔物を討伐して回る日々を送っています。
当然レティ様のお世話は毎日行っています。
いつ目が覚めてもいい様に……。
そして、私が神界に来てから、十年の月日が流れました。
しかし、レティ様は、いまだに目覚めません。
サクラ様は一ヵ月に一度、レティ様の容態を詳しく診てくれます。
ただ、この十年、何も変わる事は無く、常にこの球体に入っていないと、死んでしまうそうです。
「レティ様。今日は、サクラ様が診察に来て下さる日ですよ。いつも綺麗にしていますけど、今日も綺麗にしましょうね」
そう話しかけ、レティ様の体を拭きます。
相変わらず反応はないですが、きっと喜んでくれているはずですよね。
私としても、短時間だけでもレティ様に触れていられるこの時間が一番幸せです。
あまり、生命維持装置のふたを開けていると、レティ様の容態に支障をきたすそうです。
レティ様は、ただ眠っているだけに見えます。
心臓は動いているし、息もしている。だけど、意識だけが戻らない。
私がレティ様の顔を撫でていると、サクラ様がレティ様の部屋へと入ってきました。
「お疲れ様、カチュアちゃん。今月の診察に来たよ」
「はい」
私はレティ様に服を着せます。今は小康状態を保っているけど、いつ症状が悪化するかも分からない。だから、この診察の時間だけは、いつまでたっても落ち着きません。
もし、生命維持装置から出る事が出来れば、それだけでも進歩だと思います。その日が訪れる事を今では望むようになりました。
レティ様が生きているだけでそれでいい。
ただ、一つだけ望みが叶うのならば、ネリー様がご存命のうちに目を覚まして欲しい。
私は永遠にレティ様の傍にいる事が出来ます。エレン様も女神化しているので、レティ様が目覚めてから会う事が出来るでしょう。でも、ネリー様だけは人間だから年老いていってしまう。
あれから十年の月日が流れてしまいました。このまま、レティ様が目を覚まさないと、ネリー様はレティ様と永遠に会えなくなってしまう。それだけは、それだけは何としてでも……。
「ん? これって」
サクラ様の反応がいつもと違います。
ま、まさか!?
「サクラ様、レティ様は……」
「そうだね。レティちゃんの容態が安定したね。とりあえずは命の心配は無くなったよ。だから、今日からはカチュアちゃんのいる時はベッドで寝かせてあげて。だけど、いつ目を覚ますかは今でも分からないのは変わりないよ」
命の危険が無くなったのは素直に嬉しいです。
あとは目を覚ましてくれれば……。
「サクラ様、ありがとうございます。レティ様が目覚める日もきっと近いと思います」
「そうだね。気休めしか言えないけど、早く目覚めるといいね」
「はい!!」
サクラ様を見送るときに、サクラ様から今日の仕事を頼まれました。
今回の仕事先は……私達の世界……。
今までは、サクラ様と先生が気を使ってくれていた様で、私は余りあの世界には行く事はありませんでした。
私があの世界に行くのは、ネリー様の姿を一目見に行くためだけです。
それなのに、今回は何故?
「カチュアちゃん達の世界に別世界の魔王が現れるかもしれない。今回ばかりはカチュアちゃんが行ってくれないかな?」
「私ですか? 先生ではダメなんですか?」
「そうだね。邪神の時もアブゾルの時もレティシアちゃんには言ってあったんだけど、自分達の世界の問題は、自分達で解決してもらいたいと思ってるんだ。だからこそ、今回はカチュアちゃんに行って欲しいんだよ」
今でもネリー様とエレン様はあの世界を守っていてくれている。
それに比べて、私は何もしていない。
せめて、私の出来る事をしたい。
「分かりました」
私は自分の背よりも大きい剣を持ち、転移魔法陣のある部屋へと移動します。
この魔法陣に乗れば、異世界間を渡る事が出来ます。いつも、魔物退治に利用している魔法陣です。
「カチュアちゃんの今の実力を考えれば、苦労はしないと思うけど、気を付けてね。カチュアちゃんが死んじゃったら、レティちゃんが悲しむからね」
「分かりました」
転移先は拒絶の崖の先端部分ですか。
まさか、この崖の下に神が使う転移魔法陣があるなんて、想像もしていませんでした。
と、いう事はここを飛び下りた人は異世界に行っていた? そう考えましたが、サクラ様は否定していました。
なんでも、力のある者だけが使用できるそうです。
今となっては、私でも使えますが……。
「しかし、懐かしいですね。この世界は、今も宗教戦争をしているのでしょうか。もし、そうだとするのならば、何とも愚かな事だと思います」
私は転移魔法を使い、魔王が現れる可能性があるポイントへと移動します。
異世界間の転移魔法はまだ使えないけど、同じ世界内ならば転移出来ます。
私が転移して来た場所は、ファビエから大分離れた小国の領土でした。
ここならばエレン様に気付かれる事もないでしょう。
「……!」
誰かがいますね。
この気配……、現地民ですか?
しかし、昔感じた事のある気配なのですが……。
出来れば誰にも会いたくなかったんですがね……。
忠告して、逃げなければ少し怖い目に遭ってもらわなければいけません。
私は現地人に忠告をします。
「ここは、今から戦場になるから早く逃げなさい」
「な!!? お、お前は!!?」
!!!!!!?
顔を見て思い出しました。
一番会いたくない連中です。
「久しぶりですね……タロウ……」




