13話 邪神の本気だそうですよ
エレンが言うには、私の力や魔力は神のそれと同等か、それ以上だということです。でも、肉体はあくまで人間なので、その力に耐えられないそうです。
事実、私が全力を出すと、私の体は傷だらけになり、怪我をします。下手をすれば再起不能なほどの怪我になるでしょう。
幼い頃、エレンに治してもらっていた怪我の殆どが、この魔力の出し過ぎによるものでした。
私は魔力の調整が下手くそなので、こうやって体に影響が出てしまうとのことです。これはエレンが神界で勉強して判明しました。
この二年で、魔力の調整方法などを練習したのですが、これは天性のモノなのだそうで、どうも上手くいきませんでした。
サクラさんにも相談したのですが、サクラさんの出した結論は「人間の肉体を捨ててしまえば問題ない」とのことです。
いや、流石にそれはどうなのでしょう。
永遠にエレンと一緒にいられるのは良いのですが、この世界にとっては迷惑だと思いますよ。
私がトラブルメーカーになっているのは事実ですからね。
とはいえ、自殺する気も無いですし、まぁ、私が寿命を迎えるまではこの世界に我慢してもらおうと思いましたが……。
まぁ、今はそのことは良いとして、エレンが精神体になって私と同化することにより、私の魔力の調整をしてくれます。
これにより、私は肉体の損傷もなく全力を出せるということです。
ただ、この状態になると私の背中に羽が生えてしまいます。
殺意が具現化した漆黒の翼とエレンの金色の光の翼です。
『ば、馬鹿な! まさか、貴様も神なのか!?』
「違いますよ。私は人間です。これが私の全力、ただそれだけです」
それだけ言うと、私は邪神の目の前に移動します。
さすがにこの状態なら、押さえる必要が無いですからね。
邪神は私のスピードに反応できなかったのか、突然目の前に現れた私に驚いています。
駄目ですよ。私相手に一瞬でも隙を見せては……。
邪神の頬を思いっきり殴ります。流石に大きさがありますので、吹っ飛ぶことはありませんでした。
が、今まで勇者達の攻撃などを涼しい顔で受けてきた邪神が、初めて二歩、三歩とよろめきました。その表情を見る限り、ダメージは負っているようです。
『我に痛みを与えるとは、キサマいったい何者だ!?』
「人間ですよ? 何度も同じことを聞かないでください」
まぁ、力と魔力は神と変わらないそうですけどね。そこまでは教えてあげません。
先程の勇者とのやり取りを見る限り、邪神は人間を見下しています。
私も似たようなことをしますが、他人にやられるとムカつきますからねぇ。
さて、今までと違い、ダメージが通る以上、その大きい図体は弱点になりかねません。
これからは一方的に殺させてもらいましょう、と思っていたのですが、邪神は口角を吊り上げ、愉快そうにしています。
『くはははははは、まさか、下等な人間風情がここまでやるとは思わなかったぞ。その強さに敬意を表して、我もまじめに戦うとしよう』
そう言うと、邪神が光り、人間と同じサイズに縮みます。
む? 図体の大きさを利用して、ボコボコにしてあげようと思っていましたが、小さくなってしまいましたね。
しかし、その禍々しいな魔力は、圧縮されている様に見えます。
これが本来の姿ですかね?
「大きい方が強そうですよ? 私と同じ人間サイズに化けることにより、負けた時の言い訳を用意しようと思いましたか?」
まぁ、乗ってくれるとは思いませんが、私としては大きい方が痛めつけやすいのですけどね。
「くくくっ……、その手には乗らんさ。先程までのままならば、一方的に殴られて終いだ。それに、あの姿は人間に対し、恐怖を煽るのに利用していただけに過ぎん」
「成る程、じゃあ、それが本来の姿ということですね?」
「そうなるな」
邪神は私と離れ、手を上空に掲げます。
すると、掌に禍々しい槍が現れました。あの槍、気持ちが悪いですね。
私が嫌そうな顔をしていると、邪神の顔が笑顔で歪みます。
「この槍を見て気分でも害したか? それはそうだろうな。この槍は、我をこの世界に召喚するときに生贄となった、愚か者どもの魂で作られているからな」
魂ですか。
邪教徒が何人いたかは知りませんが、これが邪神に救いを求めた結果です。
常識的に考えれば、邪神が人を救うわけがないでしょう? 邪まな神なんですから。
あの槍からは、様々な苦痛を感じます。
ウジ虫が落ちた永遠の罰よりもキツそうですね。まぁ、ウジ虫がどんな目に遭っているかは知りませんけど。
しかし、趣味の悪い槍です。
邪神が槍を振り回します。回す度に、邪教徒の苦痛の叫びが聞こえて来る気がします。
あぁ、耳障りです。
『レティ。あの声は……泣いているね』
「そうなんですか? 邪教徒が望んだことなのでしょうけど……。まぁ、聴くに堪えませんから、あの槍の破壊を第一に考えましょう」
それで、あの槍に囚われた魂が、解放されるかは知りませんし、興味もありませんけど。
私は神剣を取り出し、邪神に斬りかかります。案の定、邪神はこれを槍で受け止めようとします。私の狙いは、最初っからその槍です。
しかし、槍の怨の瘴気が濃すぎるのか、弾かれてしまいます。
これは厄介ですが、まぁ、どうとでもなるでしょう。
要するに、瘴気を浄化しながら斬りつければいいだけです。
私は、浄化の魔法を神剣に纏わせつつ再度斬りかかります。
先程と同じように、邪神は槍で受け止めようとしますが、今度は瘴気が浄化されるので、神剣が槍に届きます。
この気持ちが悪い槍よりも、自分の神剣の方が強いと信じています。その剣が槍に触れたということは、後は力で押し切れます。
槍を砕くために、私は神剣を握る手に魔力と力を込めます。すると、槍にひびが入りました。
「な!? この魂の槍にひびを!? 貴様!? 人間だというのに慈悲の心は無いのか!?」
「慈悲? 面白いことを言いますね。私を敵に回した以上、それは殺されても文句は言えないということです。私は敵の魂が滅びようと興味はありません」
それに、そんな言葉を口にする邪神に、少しだけ違和感を覚えます。
「き、貴様!? この槍に囚われた魂を救う気が無いというのか!?」
「私が守りたいのは、あくまで私が大事に思っている人だけですからね!!」
さらに力を込めます。すると邪神は槍が砕けないように少し受け流そうとします。それが、間違いです!!
私は邪神の腕を思いっきり蹴ります。すると邪神は槍を離してしまいます。
「隙アリです!!」
そのまま、邪神の体を肩から斜め下に斬りつけました。
「ぐぁあああああ!!」
咄嗟に邪神が下がったので、両断することは出来ず、傷も浅いです。
しかし、邪神は胸の傷を押さえながら、私を睨みます。邪神は傷口を押さえているのですが、血らしきものが出ていません。
浅かったとはいえ、血が出ていないのはおかしいです。
「貴方は血が出ない生き物なのですか?」
素直に聞いてみましたが、答えてくれると思えません。
思った通り、邪神は私の質問に無視しています。いや、隙を見て槍を取りに行こうとでもしているのでしょう。
それだけ槍をチラチラ見ていれば、馬鹿でも気付きます。
その槍はそれだけ重要ということでしょうか? ならば先に砕いておきましょう。
私が槍を見ると、砕かれるのを察知したのか邪神が動きます。
しかし、私の方が早いです。
私は、渾身の力で槍に神剣を叩きつけます。すると槍は、粉々に砕け散りました。
私は砕けた槍を見て、そして邪神に視線を移します。
「これで武器が無くなりましたよ?」
しかし、邪神は砕けた槍を見て笑っています。どういうことでしょうか?
「ぎゃはははははは!! やってくれたなぁ!! この槍は我の力の半分を組み込んで作り上げた魂の牢獄でしかない!! その槍が砕けた以上、力は全て我に戻る!! ここからが我の本気だ!!」
アレ?
これは、槍があった時の方が殺しやすかったということですか?
まぁ、砕いてしまったことは仕方ありません。
「我が槍を拾いに行くフリにまんまと騙されたなぁ!!」
あぁ……うるさいですねぇ。
「分かりました。分かりました。騙されましたよ~。悔しいですねぇ~」
私は悔しい振りをします。馬鹿にした演技をしますけど、本当は結構悔しいです。
本気になった邪神との戦いは激しいものとなりました。
私達が戦う時の影響で、大地が揺れ、地面は割れ、衝撃波で森の木々が倒されていきます。
これは、近くの村やお城に影響が出ているかもしれませんねぇ。いえ、出ているでしょう。
このまま戦い続けると、ファビエ王国にまで影響が出かねません。ここから割と近いですからね。
かといって、邪神の攻撃はこの世界のことなど気にも留めない攻撃なので、苛烈ですし、それを相手にしなきゃいけないので、私も攻撃の手を緩めるわけにはいきません。
どうしたものでしょう……。
『レティ、アブゾルと戦った時の空間に行くのはどう?』
アブゾルと戦った? 一度目に戦ったあの場所ですか?
エレンが何故知っているのかは別として、アレはアブゾルが作り出した空間です。そこをどう作るのか……。
空間魔法と転移魔法……。
うーむ。
邪神の攻撃を捌くのに気を取られて考えがまとまりませんねぇ。
いっそのこと神界に転移してみましょうか? 出来るかどうかは知りませんけど。
『それは止めた方が良いと思うなぁ』
エレンの口調が少し怯えた風になります。
やはりそう思いますか? サクラさんが怒りそうですしね。
さて、どうしましょうか……。
次の話で邪教編は終わる予定です。あまり長くなるようなら、もう一話だけ増やしますけど。
その話しが終わったら、番外編になります。番外編は不定期更新になると思います。
感想やアドバイスなどがあればぜひよろしくお願いします。




