9話 腹が立ちますねぇ……。
マイザー王国へと転移して来た私は、早速、冒険者ギルドでグランドマスターに就任したベネットさんの所へとお邪魔します。
ベネットさんはあれから二年経った今でも毎日が忙しいようで、ファビエに苦情を言いに来た時よりもやつれている様でした。
マイザーの冒険者ギルドは、元々あったお城を改装したもので、全世界の冒険者ギルドの中で一番大きいギルドになっています。
私がギルドに入ると、厳つい冒険者達が私を睨みつけてきます。まぁ、小物に睨まれたとしても、なんとも思わないんですけどね。
私は睨みつける小物を無視して、受付へと向かいます。
「どういったご用件でしょうか?」
受付の人はプロなので、見た目が小さい私を見てもいつも通りの対応をしてくれます。
「グランドマスターのベネットさんに「レティシアが来た」と伝えてください」
私の名を出すと、冒険者ギルド内がざわつきます。流石に冒険者ギルド内でも有名になってしまっていますねぇ。絡んできますか?
笑顔で冒険者ギルド内を見回すと冒険者達が急いでギルドから出ていきます。
一人くらいは、私に絡んでくる勇気のある人はいないのですかね。面白くないです。それに失礼です。
いつの間にか冒険者ギルド内は、私とギルド職員だけになっていました。ギルド職員も、怯えた表情になっています。
本当に……失礼な人達です……。
暫く待つと、少し怯えた受付の人が私を案内してくれます。
そこまで怯えなくとも、食べたりしませんよ? 生憎、私には食人の趣味は無いので。
ベネットさんの部屋に到着すると、受付の人が慌てて去っていきます。
殴っても許されますかねぇ……。
部屋に入ると、疲れ切ったベネットさんがお出迎えしてくれます。
「お久しぶりです、ベネットさん」
「久しいですねぇ、レティシア様。前に話していたことを実行する気になってくれましたか?」
前に話していたこと。
ファビエに苦情を言いに来た時に、ベネットさんから嫌味たっぷりに「レティシア様は邪神なのですから、邪教の取り締まりをきっちりして欲しいモノですねぇ」と言われました。
それを言われ腹が立って腹が立って……。だから私は大きく頷き、今日一番の笑顔で答えます。
「はい!! 邪教の連中を皆殺しにして、邪教をこの町から消し去って見せますよ!!」
私が自信たっぷりにそう言うと、ベネットさんは顔を引きつらせます。何故でしょうか? 貴方が望んだことでしょう?
するとベネットさんは慌てだし、私に引きつった笑顔を見せてくれます。
「ははは……捕らえるだけでいいのです「嫌です!! 殺しつくします!! 滅ぼしますよ!!」あ、あの……まぁ、その話は後でじっくりしましょう。今日はどういったご用件で?」
話を逸らしましたね……。
「まぁ、いいでしょう。今日は邪教のことよりも勇者のことが聞きたいと思いましてね」
そう言うとベネットさんは少しだけ嫌そうな顔をします。
まるで私と勇者を会わせたくないようなそんな雰囲気を出しますね。
あぁ、今回の勇者は性格が良いみたいですし、私のようなモノと引き合わせたくないというのは分かりますよ。だけど、私としても利用できるものは利用しないといけません。
ベネットさんは一度は報告書を取り出しますが、それを渡す条件を出してきました。
邪教を一人も殺さずに潰すこと。逃げない者には暴力を使わないこと。
何故どの人もどの人も、邪教徒を生かしておこうとするのですかね? 殺した方が早いでしょうに……。
ともあれ、情報が欲しいのは違いありませんから、嫌々了承します。
ベネットさんから邪教の集まる場所を教えてもらいそこに向かいます。今回は私一人では大変なので、冒険者を数人用意してもらい、一緒に突入します。
殺すのならば一人で充分なのですがね、捕らえるとなると私一人では面倒くさいです。
結果だけ言えば、簡単に終わりました。今回は魔族もおらず、簡単に制圧できたのですが、殺さずに制圧、しかも暴力を振るわないというのはストレスしかたまりません。
私は逃げ出した邪教徒を追いかけ、足の骨を砕き、冒険者に渡しておきます。
この時、私でも引くようなことが起こりました。捕らえた邪教徒共が私を拝みだしたのです。
私に捕まることで救われる? や、止めてください……気持ちが悪い。
私は逃げるように、ギルドへと戻りました。
ベネットさんに邪教を潰してきたことを話すと、ベネットさんは勇者の報告書を渡してきました。
ベネットさん曰く、報告書に邪教を生かして捕らえることの理由が書いてあるそうです。
『勇者、邪教徒を改心させる』
改心ですか……。
もしそれが可能であれば凄いことですよね。でも、これがなぜ殺す事を禁止するほどのことになるのでしょうか?
それも詳しく書いてあるとのことなので、読み進めると、背筋が凍り付くような言葉が書いてあります。
『僕の力で、邪神レティシアを改心させてみせる!! だから、安易に殺さないでくれ!!』
はいぃいいいい!?
何を言っているんですか!? 別に邪悪な心に乗っ取られて邪神になったわけでも、自らの意思で邪神になったわけでもないんですよ!?
私はベネットさんに説明を求めます。
「言ったでしょう? 今回の勇者は真の勇者だと。それはすなわち、思い込みが激しいとも言うのですよ」
どういうことか説明してもらうと、そもそも勇者とは何かという話になるそうです。
本来、勇者というのは悪である魔王を倒す為にいる者です。
では、魔王がいなければ? 勇者でもない者が魔王を倒してしまえば?
そう考えれば、勇者としての定義が分からなくなってくるそうです。
アブゾルがいた頃の様に、勇者の力などがあれば分かりますが……。
今この世界では、魔王と言えばクランヌさんが該当しますが、彼は世界征服も悪事を働いていることもありません。
魔王がいないということは魔王と対をなす勇者の存在も普通はいないと考えるのが普通です。
ですが、召喚された彼等は自らを勇者と名乗り、いま世界を混乱させている邪教を壊滅させることが正義となっているわけだそうです。
まぁ、言ってしまえば、言ったもの勝ちですよね。彼等は自分達が勇者だと思い込んでいるのですから……。
邪教を壊滅させる、それ自体は私としても歓迎なのですが、彼等は殺すのを悪と考えているらしく、根本的に私とは合わない様です。
彼等の一番厄介なところは、勇者としてふさわしい実力を兼ね備えているということだそうです。
勇者と言えど、私の様な常識外れた力ではないと、喧嘩を売る者もいたらしく、全て返り討ちにしているそうです。しかも無傷でです。
実力としては、勇者タロウなんかを遥かに凌駕するとも言われ、パーティの一人一人の戦力がケタ違いだそうです。
これは私も一戦交える必要があるかもしれませんね。
感想などあれば、ぜひよろしくお願いします。




