ステファン少年は、ひとりぼっち
「うわああーーー!」
ひゅるひゅる、どしん。
空から落ちてきたドローネを優しく受け止めたのは、路地裏にまとめられたゴミの山。幸運なことに捨てられていたぬいぐるみのウサギが、ドローネを優しく受け止める。
「あいたたた、まったく乱暴だなあ」
ドローネは背中をさすりながら思った。でも、悪いことばかりじゃないや。
「ふふ、こっちにはマルガリータ先生はいないし、遊び放題かもな」
ドローネは早速イチイの杖をふりかざし、呪文を唱える。
『バブル・バブル・コルドロン・バブル』
「うおーん」「おおーん」
世にも恐ろしいうなり声を上げて、たちまち湧き出すゾンビたち。右手が左手のゾンビに、肋骨が露骨に飛び出したゾンビ。髪の毛がうねうね動くやつもいる。
ところが町の住人たちの反応は、ドローネが期待していたものとは全く違っていた。
「見てみて、あのゾンビーすっごくリアルね」
「数も多いし、イベントでもやってんのか?」
たちまちできる人だかりと歓声。人間たちは驚いて逃げ回るどころか、楽しそうな表情でゾンビたちに群がってくる。
ドローネは首をかしげる。なにせ、笑ってお菓子をくれる人までいるんだから。
「何かあったのか、この町は?」
そのとき、不思議がるドローネに声をかけてくる者がいた。
「お嬢ちゃん、魔女かい? よく似合ってるねえ」
そこには闇の住人、フランケンシュタインズ・モンスターと吸血鬼が立っていた。手にはトマトジュースの缶を持っている。
「ああ、誰かと思えばお仲間か。人間界に化け物はあまりいないと聞いていたけど、そんなことないんだな」
「化け物? ああ、今日は特別な日だからな」
「特別な日?」
「そうさ、化け物たちのお祭りさ。ほらお嬢ちゃん、お菓子をあげよう」
ドローネが辺りを見回すと、なんと人間たちに混じって色々な化け物が歩いている。幽霊に狼男、ウィッカーマン。ゾンビー!にマシュマロマン。
黒いローブの魔女たちもいたが、ドローネの知っている顔はいなかった。
奇しくも、その日はハロウィンだった。
最初のうちはドローネもはしゃいでいたが、じきにつまらなくなった。
人間たちは誰一人、ドローネのゾンビを怖がらなかったから。
「ちぇっ、つまんないや。こんなにお化けが多くちゃ、ゾンビーが出ても驚いてもらえない。やっぱり化け物どもには仲間なんていらないんだ」
ドローネはホウキで飛び上がる。大きな樫の木を見つけると、枝の上でふて寝した。
次の日も、ドローネは夜の町へと繰り出した。
人間たちが驚かないなら、かわりにゴブリンやグレムリンでも驚かせてやるか。
意気込んでやってきたドローネだが、黄昏の町にお化けたちの姿はなかった。昨夜はあんなにたくさんいたのに。
不思議に思って探し回るドローネが公園を覗くと、一人の男の子がブランコで遊んでいた。
「おい、こんなところで何してるんだ? ブギーマンにさらわれるぜ」
「だって、一人で家にいても、つまらないんだもん」
「お母さんはいないのか?」
「お母さんは、僕が子供のころに死んじゃった」
「じゃお父さんは?」
「お父さんも仕事で忙しくって、毎日遅くまで帰ってこないんだ」
男の子をかわいそうに思ったドローネは言った。
「そうか、じゃあ私が遊んでやるよ」
男の子はステファンという名前だった。
ドローネとステファンは、すぐに友達になった。
「ねえ、ドローネはなんで魔女みたいなかっこうをしているの?」
「みたいな、じゃないよ。本物の魔女なんだ」
「そうなんだ、すごいねえ。魔法は使えるの?」
「もちろんだ、見てろよ」
ドローネはイチイの杖を取り出し、呪文を唱えた。
『バブル・バブル・コルドロン・バブル』
「ぐおーーん」
突如現れたゾンビを、ステファンは目をキラキラさせて見つめていた。
「ミイラじゃなくて悪かったな」
「ううん、びっくりしたよ。すっごいねえ、ドローネの魔法は」
ドローネはちょっぴり意外だった。ゾンビを呼び出して喜ばれることなんて、今までなかったから。
嬉しくなったドローネは、呼び出したゾンビで男の子と遊んでやった。
ゾンビたちと遊んでくれるやつなんて今までいなかったから、ドローネはとっても楽しかった。もちろん、ステファンも。
しばらく遊んだあと、ステファンは言った。
「そろそろ帰らなきゃ」
ドローネは遊び足りなくて、少し寂しくなった。だから、ちょっとだけ勇気を出して言ってみた。
「また明日、遊んでやるよ」
ステファンは嬉しそうに返事をした。
「本当? 明日もここにいる?」
「ああ、いるさ」
「ありがとう、明日も来るよ!」
「じゃあ、また明日な」
「うん、バイバイ!」
ステファンはすっかり笑顔になって帰っていった。
次の日も、その次の日も、ドローネは公園でステファンと遊んだ。一緒に遊ぶ友達ができるなんて、初めてだった。
人間を驚かせに来たことなんて、すっかり忘れていた。
そんなある日、ドローネがいつものように公園に来ると、ステファンが沈んだ顔でブランコをこいでいた。
「おいステフ、浮かない顔してどうしたんだ。ゴブリンに玉でもかじられたか?」
「あのね、ドローネ。明日はクリスマスなんだけど、お父さんは明日も仕事で遅くなるんだってさ」
「クリスマス? ああ、ナザレのイエスの誕生日か。別にいいじゃねえか、いっつも遅いんだから、変わんねえよ」
「うん、そうだね」
魔女にはクリスマスを祝う習慣なんてない。きよしこの夜なんてくそくらえ、夜は騒ぐものなのだ。
ドローネは明るく励ましたが、ステファンの顔は暗いままだった。
ステファンが帰って一人になった後も、ドローネの頭の中には彼の悲し気な顔がずっと引っかかっていた。
その夜、ドローネは考えた。うんと考えた。
そして次の日の夕方、ホウキを取り出すと飛び上がった。目指したのは、ステファンのお父さんの会社だ。




