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滅郷

二話目です

「陽動部隊1番、4番、6番、9番死亡!2から7までの残りも応答ありません!」


「馬鹿な!どうなっている!」 


 薄暗い部屋の中は怒声の嵐であった。

 時間も金もかけて、周到に施してきた準備。作戦発動まで敵に動きがばれることもなく、障害も無い。作戦の成功は疑うまでも無かった。

 だから認められないのだ。ことごとく作戦が潰されていく破滅の足音が。


「どいつだ……どこの国だ!まだ日本は対応できてないはずだ、確認を急がせろ!」


「隊長!」


「なんだ、わかったのか!」


「いえ……陽動部隊全滅……日本の主力は一切動きなし。……作戦失敗です」


 部下から返ってきたのは無情な報告であった。


「くそッ……くそがぁぁぁぁぁぁっ!こんなところで、終わるなど……っ!」


「隊長……」


「……撤退だ。本国へ通達しろ『作戦は失敗、痕跡を消去後速やかに撤退する』」


「はっ!」


 駆け足で出て行く部下を見届け、隊長と呼ばれた男は怒りの赴くままに拳を机へと叩きつけた。


「くそっ、作戦失敗となればどれだけ突かれるか……!こんなことなら【占術師】などという馬鹿げた奴の言うことなど聞くのではなかったっ」


 男は、軍隊の中でもそこそことつくレベルには上の階級である。そう、あくまでも『そこそこ』どまりでしかないのだ。

 一般兵よりは扱いはいいが、失敗など犯せば直ぐに頭を挿げ替えられてしまう程度の階級。今回の件も本国へと帰れば追及され、左遷されるだろう。

 だが、それは想定される上で最も良い結末だ。

 自分の組織の非道さは、自分が一番わかっている。全て自分が行ってきたことなのだから。


「部隊にいたことすら消されるか……」


 それとももっと惨い目に遭うか。

 碌な事にならないことはわかっている、それでも帰らないわけには行かない。まだ殺してもらえるだけ、ましなのだから。


「……おい!まだ準備は終わらないのか!」


 苛立ちながら扉の向こう側に怒鳴るが、返答は無い。

 こんな緊急事態で何をぐずぐずしているかと怒りながら扉に手をかける。

 その時、パンっと何かが砕ける音が背後から聞こえた。


「何が―――」


 一つの国を崩壊させたようとしたものの結末。彼が最後に見た光景は、迫り来る牙の群れであった。


           *


 ああくそ。

 臭いを辿って各地の暴動を潰したのはいいが、後一歩のところで逃げられてしまう。敵にテレポーターの類の異能者がいるのだろう、悔しい限りだが流石にテレポートに追いつけると思うほど馬鹿じゃない。無理なものは無理とさっぱり諦めるしかない。

 敵のアジトも発見したが、残っているのは下っ端だけでリーダーらしき人物はいなかった。とりあえず下っ端に尋問しようとしたが、尋ねる前に全員銃で自害してしまった。あそこまできっぱりと自害を選択できるとは敵ながらあっぱれである。


 ……いや、感心している場合では無い。

 敵が何故こんなことをしでかしたかを突き止めなければいけない。もしかしたら、まだ潰さなければいけない場所が残っていたら面倒だ。

 念のため完全獣化はしておいたまま、残っているものを探る。

 既に焼かれてしまったものも多かったが、一部は処理中だったのかまだ脇に積まれたままであった。

 血がつかないように爪で慎重に書類を捲っていく。


 大半は日本に対する調査報告書。資料みたいなもんか、碌な物が残ってないな。一部通信履歴やメモ書きのようなものが残っていたが、そちらは暗号化されているのかさっぱりわからない。

 今後の作戦が書いてあるようなものは残っていない。どうしたもんか……そうだ。

 考え込んでいたら、ふと自分の異能について思い出した。この体は、確か魔術も使えたんだ。

 確か……


「『R(リライト)』」


 とりあえず唱えてみたものの、炭火に動きは無い。

 やっぱりだめかと落胆したところ、よくよく見れば炭火の中にいくつかの白が混じっているのが見えた。

 書類を束ねて火にくべたせいで、真ん中にあった書類にはうまく燃えなかったのだろう。これはラッキーだ。

 炭を崩して中から数枚の書類を取り出す。多少汚れてはいるが、読めないほどじゃない。

 字自体が汚く、文法も違和感バリバリ。内容を見る限り、どうやら隊長の愚痴を綴ったもののようだ。他の隊員に見られても大丈夫なように、わざわざ母国語でなく日本語で書いたと書かれている。

 そこまでするぐらいなら書くなよと言いたいが、どうしても言いたい事があったのだろう。ありがたく頂戴する。


『……の頭はAI以下だな。あれなら頭をまるごとコンピューターに……』


『……ぜわからない。やはり日本人の味覚はおかしい……』


『……上層部も馬鹿ばかりだ。彼らに任せたままでは祖国は発展……


 内容は基本的に隊員の行動に対する愚痴、その日の出来事に対する不満、上層部への悪口ばかり。愚痴書きとはいえ、碌なことが書いていない。


「……?」


 うんざりしながら愚痴書きを読んでいると、途中から愚痴ではなく賞賛が混じり始めてきた。


『……さんくさいと思ったが、彼はやはり有能な人間だ。私の主張を理解してくれている。これがわからない人間がどれだけいることやら』


『……彼のおかげで、私はここまで来れた。やはり彼は目の付け所が違い、有能な人間を見抜く才能が……』


 えらく褒めちぎっているな。

 気になって調べてみると、その人物は【占術師】と呼ばれる男らしい。

 少し前に突然現れ、その頭脳で直ぐに軍の幹部と渡り合える程度の権力を入手。存在は機密となっていたらしかったが、偶然酒場で出会い杯を交わしたところ意気投合。彼の推薦を受けて、この作戦に参加することになった。友情の証として貴重なものも貰った……

 【占術師】がどういった人物かはわからないが、よほどの好人物らしい。

 隊長の日記からするに友好の証とやらもこちらに持ってきているみたいだ。もしかしたら、その友好の証とやらに臭いでも残っているかもしれない。

 最上階のいかにも上官の執務室的な部屋を探る……といっても直ぐにそれは見つかった。普通に引き出しの中に入っていた。

 中に入っていたのは銀色の板。いや、この形は……鱗?


 瞬間、ドクンっと心臓が大きく鼓動し痛みが走った。


 異能の使用限界が来たかと思ったが違う、これはそういう痛みじゃない。この苦痛は―――何かが無理やり出ようとする感覚!


『代われ、狼』


 頭の中で声が響いた瞬間、もう一度大きく心臓が震える。


「―――――!!??」


 違う、震えているのは頭。 

 声すら出せないほどの激痛が全身を襲う。足から力が抜けて崩れ落ちそうになるが、糸で吊り上げられたかのように座り込むことを許されない。

 指先から、心臓から、頭の中から掻き毟るような痛みがはしる。叫ぶことすら許されず、気を失うことも許されず数十秒。


「ってえええええええ!!」


 ようやく俺は激痛から解放された。

 激痛の残滓が未だ激しく暴れ回り、ポタポタと涙が垂れていく。滅茶苦茶痛いなんてもんじゃない、いっそ楽に死なせてくれと思ったぐらい凶悪な激痛だった。

 足を潰された痛みとは比べ物にならない。まるで直接神経にやすりをかけているかのような痛みだ。

 しばらく苦しんでいると残滓も消えて、徐々に現状を確認する余裕もできてくる。

 視点が低くなり、鼻も耳も感度が低くなっている。いつの間にか体には服が纏わりついており、視界の端には青白いものが浮かんでいた。

 そう、俺は今の一瞬で翠のじゃへと変身していた。


「どうして急に……」


 思考が纏まらず混乱していると、視界にいた青白い影が次々に俺の元へと向かってくる。

 逃げようと思っても、俺はそれを呆然と見ているしかない。体が、動かない。


『なぜ生きている。何故俺を殺して生きている』


『死を。奴らに死を。血の復讐を』


『かえりたい……自分の国へ……』


「うぐ……あ゛あ゛あ゛あ゛!!!」


 影が俺に触れた瞬間、様々な感情がダイレクトに叩き込まれた。

 怒り、悲しみ、憎悪、望郷。その全てが俺の頭に叩き込まれる。

 痛い!痛い!痛い!

 再び激痛が俺を蝕み始める。だが逃れることはできない。既に影は、俺の中に入り込んでしまっていた。


『死ね死ネシネシネ。皆皆死ねばいい』


『復讐を。奴らの命をもって復讐を』


『がえりだい……母親のめじをもういぢど』


 あらゆる感情が混ざり合う。全ての思いがグチャグチャに混ぜ合わされる。


『死ね死ね死ね死ね死ね死死死死死―――奴らに死をもって復讐を―――もういちどあの場所へ』


 怒りが、憎悪が、望郷が、全てが混ざり合う。


『死死死死―――殺す。復讐を―――故郷へ』


 混ざり、混濁し、混沌へと至る。彼らの理想が混ざり合う。


『死―――復讐―――故郷』


 全てが混ざり合い、万象が一へと還る。全てが起源へ、全てが根源へ。

 そしてかき混ぜられた理想が、新たな理想を紡ぎだす。

 殺意、復讐、望郷。その全てが交じり合った―――



「死を……『奴らに死を!我らが故郷へ絶望を!愛しきあの地に復讐の業火を!』」



 滅郷。


 それが全ての終着点だった。



超展開でごめんなさい

もうちっとだけ続くんじゃ


変身バリエーション

・【巨人】

・白ロリ

・【天使】

・【人狼】

・【死神】

・【械姫】

・翠のじゃ

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