罪の行方
この話からまた少しグロ注意です。
「な、何だ………てめぇ」
突如現れた女騎士………レティツィアさんの姿を見て
それまで狂乱の様相を呈していたガディのおっさんが
正気を取り戻したの如く呟く。
と言うかあれは、現実逃避してたのに引き戻されたって感じかな。
そんなおっさんを一瞥する事無く、レティツィアさんは
私達をも通り過ぎ、巨人達の骸の前で膝を付く。
「………貴方達を開放するには、こうするしかありませんでした
ですが守るべき国民を守れず、あまつさえ手をかけた事は事実
その罪は、貴方達の無念を背負う事で償わせて頂きます。
どうか、せめて安らかに眠って下さい………」
レティツィアさんはそう言って手を儀式調に振り、黙祷をする。
………そっか、この人達王国民だったね。
「………そして、あなた方に感謝します
わが国民を苦しみから救って頂き、誠にありがとうございます」
そう言って立ち上がり私達の方へ向いたレティツィアさんは
深々と礼をする。
「………いえ、私達もこの女性を救うことは出来ませんでした
むしろ苦しめるようなやり方しかできず、申し訳ありません」
その例に対し、私も頭を下げながらそう告げる。
………そうなのだ、私達は救いたいと心の中では思いつつも
結局は苦しませる方法しか取れなかった。
だけどレティツィアさんは一瞬で急所を貫き、苦しむ間もなく
この女性達を開放してのけた。
腕の差とは言え、もっと楽に開放してあげられなかったのが
後悔としてじくじくと胸に刺さる。
「そのような事はありません、あなた方が迅速に動いたからこそ
私がこの場に間に合うことが出来たのです、それに………」
レティツィアさんは私達が倒した女性を見る。
「この女性は実に安らかな表情をしています
それだけでもあなた方に感謝していたことは明白です」
確かに、この女性は倒れる寸前に何かを呟きながら
安らかな笑顔を浮かべていた。
よく聞き取れなかったけど、あれはお礼を言ってくれたのかな………
「有難うございます、そう言って頂けると救われます」
私はそう言って倒した女性を見る。
………そしてもう1度心の中で謝罪する、救えなくてごめんなさい、と
――――気のせいだろうけど、女性の表情が少し笑った様に見えた。
「いや~、それにしても助かったよレティツィアお姉ちゃん
流石にあの状況だとマリス達逃げるぐらいしか手は無かったし
そうしたら大騒動になっちゃって攫われた人を
助けるどころじゃ無くなってたからね~」
にこにこと笑いながらいつもの様に飄々とした様子で
レティツィアさんに話しかけるマリス。
だけど、その目が一瞬だけ鋭くなった様に見え………
「何でここにいるかも、まぁ何とな~く予想は出来るけどね
マリス達を監視してて、ここにまで尾行して来たんでしょ?」
マリスがそう言ってにぃっと口角を上げる。
「ええ、あなた方でしたら早い段階で拠点を見つけ、急襲すると
踏んでおりましたので」
マリスの問いに微笑を浮かべたまま答えるレティツィアさん。
けど、それにしたって随分早いような、リーゼに乗れる私達なら兎も角………
って、尾行されてたってのならもしかして!?
「けど、よくマリス達に追い付けたね~
マリス達、帝国内じゃちょっとした移動手段持ってるんだけど
もしかして見ちゃった?」
マリスも同じ考えに至ったらしく含みを持たせた問いかけをする。
直ぐに質問の意味を察したレティツィアさんは苦笑して
「ええ、この目ではっきりと
まさかあなた方があの様な移動手段を持っていたとは正直驚きました
お陰で帝国まで早馬を飛ばす羽目になりましたが」
そう言ってレティツィアさんがリーゼを見る。
うわ、これリーゼの正体バレてるっぽいね………王国はドラゴンに
酷い目に遭わされたって聞いてたけど、この状況でレティツィアさんと戦闘は
勘弁して欲しいかな。
「心配せずとも大丈夫ですよ
敵意を向けられたなら兎も角、あなた方と共にいる以上
どうこうする気はありません
………流石に王国内で使われると対処せざるを得ませんが」
レティツィアさんの言葉にほっと胸を撫でおろす。
とは言え尾行されてたとはね、気付けなかったのはちょっと悔しい。
まぁこの人達程の強さがあれば、拠点が判明すれば自分で攻め込んだ方が
手っ取り早いし確実だね。
「………という事は、外の見張りも?」
「ええ、全て行動不能にしております。
王国に連行して話を聞かねばなりませんので」
そっか、だからあれだけ騒いでも増援が誰も来なかったのか。
流石に巨人との戦闘中に増援が来られたら詰んでいた可能性が高い
見張りを全滅させてくれたレティツィアさんに感謝しないとね。
「とは言え、一番話の聞きたかった男がこの有様なのは残念です
この男もあなた方が倒したのですか?」
レティツィアさんはそう言って覆面の………私がブン投げて
頭を叩き割った男を見る。
あちゃ、やはりその男重要参考人だったか………有無を言わさず
■■させちゃったのは失敗だったかな?
「その男を倒したのはレンお姉ちゃんだよ
そっちの筋肉だるまごと瞬殺したんだよね~、あははははは」
「何ですって?」
レティツィアさんは驚いた表情で私を見る。
「確かこの男はレベル50越えの元冒険者で、ファングベアを1人で倒した
逸話を筆頭に結構な強さで名が知れ渡っていた筈
それを瞬殺………ですか
ロティの剣を躱した事と言い、只者ではないとは思っていましたが………」
いや、そんなに強かったのその人?
隙だらけの上判断も遅かったからそんな感じは全然しなかったんだけど………
正直言ってレティツィアさんの方がよっぽど強そうだと思うよ?
「成程、ロティが興味を持つ訳です
中々に底知れませんね、貴方は」
そう言いながらレティツィアさんは微笑むも………目が笑ってない。
あらら、警戒されちゃったかなぁ………
「仕方ありません、そこの男と外で気絶している男達を本国に連行して
取り調べをさせて貰いましょうか、ですがその前に………」
レティツィアさんそう呟きながらつかつかと歩き、未だ仰向けで倒れている
ガティのおっさんに近づき、腰の剣を抜いて鼻先に突きつける。
「1度だけ聞きます、攫った我が国民は何処にいるのですか?」
今までの和らげな声色とはうって変わり、氷のような冷たさと
鋭さを感じさせる声でレティツィアさんは質問する。
「おっちゃん、意地張らずに素直に答えた方がいいよ~
この人王国の至高騎士だよ、おっちゃんも
聞いた事あるでしょ?」
「なっ!?至高騎士だと!?」
間髪入れず続けたマリスの説明にガディのおっさんは驚愕する。
「馬鹿な………至高騎士が態々女共を
救いに来たというのか!?」
「何言ってんのさ、そんなの当然じゃん
ましてやレティツィアお姉ちゃんは同じ女性だよ、それなら
なおさら来ない理由が無いよね~」
「馬鹿な………馬鹿な………」
目の前の現実が受け入れられないのか、ガディのおっさんはうわごとの様に
馬鹿な………と繰り替えす。
「現実逃避もいいけどさ、ガディのおっちゃんが詰んでるのはもう明白だし
ここらで覚悟決めて白状したほうがいいと思うよん
その方が余計な怪我しないからお勧めだよ」
そこからさらに追い打ちをかけるマリス。
とは言えそれは事実だろう、仮に強がって答えなかったりしたら
レティツィアさんは即座に手足あたりの致命傷にならない箇所に
剣を突き立てるだろうね、今のレティツィアさんの目はそういう目だ。
重苦しい雰囲気が数秒経過する、そろそろ答えないと
最初の一刺しが来そうだけど………
「………あそこの奥に牢屋がある、捕らえた女共はそこに一まとめにしてある
だが全員は生きちゃいねぇ、病気や『遊び』でおっ死にやがった
奴らも結構いる」
心が折れたのか、投げ槍な口調でガディのおっさんが口にする。
………やっぱりそれなりの犠牲者はいたみたいだね、分かっていたけど
やりきれない気分になる。
「鍵の場所は知らねぇ、そいつが持ってなければどっかに隠してあるんだろうさ
まぁ、そこの怪力女ならぶち破ることは出来そうだがな」
ガディのおっさんが顎で覆面の男を指した後リーゼを見る。
直ぐにマリスが覆面の男の死体をごそごそと調べるけど………直ぐに首を振る。
どうやらリーゼに頼る事になりそうだ。
「フン、精々喜んでいやがれ
だがそれも今の内だ、すぐに………………ぐっ!?」
侮蔑の笑みを浮かべ、負け惜しみじみた科白を吐いていたガディのおっさんが
突然苦しみ始める。
「がっ………な、なん………」
ガディのおっさんの体がいきなり膨張し始め、まるで風船の様に
膨らみ始める。
「ぐべげぎゅりあがぁぁぁぁぁ!!」
声にならない悲鳴を上げるガディのおっさん、そして次の瞬間
ベギョグシャアアアァァァァ!!
形容しがたい音を立て盛大に血の花を咲かせながら
風船が割れる様に全身を四散させた。




