知性を揺さぶる薊《あざみ》
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「■■■■■■■■■■■―――!!」
巨人が雄叫びを上げ、メイスを振り上げる。
対するリーゼは戦斧の柄を持ったまま動かない、アレは極められてる!
人間は握ってる物に不意に別方向へ力を加えられると離さない様にする為
無条件反射で握りしめてしまう様になっている、それを利用して
相手の獲物を掴んだりして動きを封じる技法があるけど、ドラゴンのリーゼにも
それが通用している、初見な上ダメージも負ってるリーゼだとあの状況から
抜け出すのはほぼ不可能だ、なら!!
「リーゼ御免!!痛いだろうけど背中借りるよ!!」
私はリーゼの背後に回り込み、極められて若干前傾姿勢になっている
リーゼの背中を踏み台にし、巨人の眼前へ肉薄する。
「シッ!!」
目の前に迫る巨人の顔面、狙うはその鼻と唇の間………
所謂「人中」と呼ばれる急所に体重を乗せた中指一本拳を打ち込む!!
ゴッ!!
突起した中指に固い物をぶつけられた衝撃を受ける。
いくら得体の知れない事柄で強化されたとはいえこの巨人は人間だ。
ならば人間である以上急所を鍛えることは出来ない、しかも人中は
物理的なダメージはそう大したものじゃないけど激痛を伴う上
そのまま延髄に衝撃を徹し一時的な機能停止に陥らせる箇所だ。
ここを打たれた人間は例外なく激痛で悶絶し、機能不全による
呼吸困難に陥ってしまう、格闘技では基本反則扱いの危険な攻撃だ。
「■■■■■■■■■■■―――!!」
目論見通り巨人は激痛に襲われ、振り上げたハンマーを下げ
戦斧の柄からも手を離し、その手で打たれた個所を押さえながら悶絶している。
「リーゼ!!一先ず下がって!!
フィル!!リーゼの治療をお願い!!」
そのままリーゼの眼前に着地した私は指示を飛ばす。
「………っ、了解しました」
「分かったわ!!」
2人は素直に指示に従い、後方に下がって治療を始める。
その間数十秒間、巨人が悶絶してくれればいいけど………
「■■■■■■………」
痛みが治まったのか巨人は顔を覆っていた手を戻し
眼前にいる私を睨みつける。
まぁ流石に呼吸困難迄引き起こすことは出来なかったか、いくら空中で
体重を乗せたとはいえ体格差が大きすぎる、今の私では精々この程度だろう。
………けど、貴方が人間である以上打つ手はまだあるんだよね!!
私は身構え意識を集中する――――あの巨人を救う為に
彼女を、■咲する――――
「■咲ノ漆………偽薊」
私がその名前を呟いた瞬間、私の視界全てから色が抜け落ちる。
極度の集中による灰色の世界、その中で私は巨人と対峙する。
「■………■■!?」
右肩を0.2°上昇、それと同時に右足を3㎝前に移動
体幹を右に4°傾斜、左中指を12°開く、視線を5°右側に移動
左肘の位置を2㎝下に降ろす、右腕を11°前に上げる………
私の行う行動、その全てが攻撃の予備動作などに欺瞞され
膨大なフェイントが巨人の視覚情報に入ってくる。
「■、■■………■」
巨人の表情が苦悶に変わり、額から汗が流れ始める。
………やっぱり、この巨人まだ知性が残ってる。
知性も理性も吹き飛んだ狂戦士だとこんな反応はしない、フェイントにかまわず
私にハンマーを叩きつけて来るだろう。
………さて、どうする巨人さん。
とは言え、貴方の取れる選択肢は1つしかないんだけどね。
「■、■■■■■■■■■■■―――!!」
極度の緊張状態に限界が来たのか巨人はことさら大きな咆哮を上げ
そして持っていたハンマーを振りかぶる。
ま…それしかないよね、いつ攻撃が来るか分からないなら相打ち覚悟で
私に攻撃を当てるしかない、至高騎士のロテールさんも
その手でこの不完全な『偽薊』を破ったんだけど………
流石に分かってても予備動作がまるで見えず横薙ぎを受けるしかなかった
あの時と違い今度は予備動作が丸見え、これなら………
――――グオンッ!!
恐ろしい風切り音を上げながら私の頭蓋を粉砕しようと迫りくる巨人のハンマー
けど、そんな見え見えの大振りを当たってあげる訳にはいかない。
私は集中状態を維持したままフェイントの嵐を止め、そのまま右に飛んで躱す。
そしてそのままフェイントの嵐を再開、再び巨人にプレッシャーをかける。
「■、■■………■」
再び苦悶の表情で私を睨みつける巨人。
状況は優勢、こちらがイニシアティブをとり続けている。
………けど、こちらの決め手の無いのも事実。
私の攻撃力だとさっきの様に精々急所に攻撃して仰け反らせるのが精いっぱい。
しかもこの『偽薊』は維持するのにとんでもなく体力を消耗する
もってあと1~2分、このままではやがて疲弊し倒されるだろうね。
――――私1人ならばの話だけど
――――轟ッ!!
私の背後から現れた大きな戦斧が、凄まじい刃音を立てながら巨人に向かって
その巨大な刃を突き立てようと迫りくる!!
「■ッ!!」
完全に私に意識を向けていた巨人は完全に反応が遅れ
とっさに防御の為にハンマーを盾にしようとも間に合わず………
ザシュッ!!
「■■■■■■■■■■■―――!!」
巨人は戦斧によって胸部を大きく横に切り裂かれ
血を吹き出しながら咆哮する。
「………ナイスタイミングだよリーゼ
足止めが間に合ってよかった」
私は目の前で戦斧を振り抜いた格好のリーゼに声をかける。
「いえ、我はマスターの作り出した隙を攻撃したまでです
マスターこそ、見事な誘い出しでした」
私の言葉にリーゼはこちらに視線を送って微笑む。
巨人から受けたダメージも完全に治癒されてるみたいだ。
流石フィル、頼りになるね。
「■■■■■■………」
リーゼの攻撃を受け、胸からおびたたしい血を流しながらも
ハンマーを握り締め、憎悪の表情でこちらを睨みつけて来る巨人。
ダメージは受けたけどまだまだやる気の様だね。
「我が全力で振り抜いた攻撃を受けたにもかかわらず
仕留めることは出来ませんでしたか……
あの人間、耐久力もかなりのものですね」
リーゼが真っ向から憎悪の視線を受けつつ、そう呟く。
一体、何をどうしたら人をこんな風に変貌させることが出来るのやら。
………分かってたけど、どこまでこの人達の命を蔑むのか。
出来る事なら、全てを………
「は~いレンお姉ちゃんバーサーカー状態はちょっと抑えてね~
今からマリスがいいものあげるから、いつものクールな状態でお願いするね~」
思考が再び塗りつぶされそうになった瞬間、それを分かってたかの如く
マリスがのんきな声をかけて来る。
「………マリス?」
余りにも暢気すぎる口調に不意を突かれ、黒く塗りつぶされそうだった
思考が毒気を抜けさせられて霧散する。
「何があったか知らないし聞かないけどさ、戦いは冷静に……だよ
今はあの人を何とかしないとね」
マリスは私にそう言いながら笑顔を向け、ウィンクをする。
………参ったねこれは、私ってそこまで分かり易いのかな。
「んじゃま、丁度調節が終わったからいっくよ~ん
リーゼ、今からレンお姉ちゃんを強化させるから
巻き込まれない様に頑張ってね~」
マリスの言葉に反応して、マリスの周囲に幾重もの魔法陣や
幾何学模様が浮かび上がる。
………って、マリス今何言ったの!?
私を強化するから巻き込まれない様にって………マリスまた何かやらかす気!?
「そんな不安な顔しなくても大丈夫だよん、実証は前にやって成功してるし
変えたのは属性だけだから、後はレンお姉ちゃんとリーゼが
気を付けてくれればいいだけだからね~」
「ちょっと待って!?気を付ければいいって何を………」
私の言葉を待たずマリスの魔法は完成し、私の全身に素早い何かが纏わりつき
縦横無尽に駆け巡り始める!!
「ちょっ、まっ!?マリスこれ大丈夫なの!?」
「だいじょーぶだいじょーぶ、レンお姉ちゃんには無害な様に調整したから
んじゃ、いっくよん!!」
慌てる私を意に介せず、マリスはとても楽しそうに魔法を発動させる。
それに伴い私に纏わりついていた何かが光を放ち始め………放電する!!
「名付けて!!【蓮・雷光装填】!!」
ちょっ!!またそんな私の名前をダサ目の魔法名にしないで!!
そんな抗議の言葉も出す間もなく、私の体は雷光に包まれた――――




