苔退治
「んじゃ、初撃いっくよ~、それそれそれ~!!」
私とリーゼがデカスライムに突撃したと同時に、いつの間に準備していたのか
後方からマリスの炎魔法の数々がデカスライムに向かって飛んでいく。
「………何時見てもマリスの魔法制御は凄まじいモノがありますね
人間の魔導士とはこういうものなのでしょうか」
「いや………多分これが出来るのマリスだけだと思うよ」
リーゼはスライムとの距離を詰めながら、私達を追い越していった
マリスの炎魔法を眺めながら呟く。
けど、確かにまだマリス以外の魔導士って会ったこと無いから
これがデフォって可能性も無くは………ってフィルが化け物とか言ってたし
それは無いかな。
そうこうしている内にマリスの炎魔法がデカスライムに着弾し
盛大に燃え上がる。
お~~、何か思ってた以上に燃えてる、えらく引火性高いねあのスライム。
確かにあれなら火を付け続けたら燃え尽きるのも
そんなに時間はかかりそうにないかな。
明確な弱点があるならそこを徹底的に突けばいい、マリスのお陰で
私の左手にはその火を突ける手段がある、ならばこのまま
追撃して相手に行動させないまま倒しきる、それが戦いのセオリーだ。
私はそう判断し、追撃の為にデカスライムに接近しようとした瞬間………
ズウウゥゥゥゥン!!
外壁に張り付いていたデカスライムが剥がれ、そのまま後ろにひっくり返る。
地響きが鳴り、地面が若干振動する。
若干バランスを崩し、思わず足を止めてしまう私とリーゼ。
「マスター、炎が消されています」
リーゼの指摘にデカスライムを確認すると燃え盛っていた炎が
きれいさっぱり消えている。
………本能なんだろうけど自重の圧迫で窒息消火法をやって火を消すとはね。
だけど結果的にデカスライムを外壁から剥がすことに成功した。
マリスの事だからここまで見越してやってそうだけど………
しかし、デカスライムは再び城壁を登り始める。
本能なのか、上に捕食対象の兵隊がいるからそれを狙ってるのか分かんないけど
登り切られると炎で攻撃してもさっきの要領で消されてしまう。
ならまずはそれを食い止めないと。
「リーゼ、デカスライムの注意を私達に引き付けるよ!!」
「了解です、マスター!!」
そう言って再び接近を開始する私とリーゼ、相手の距離まで約100m。
その距離を一気に駆け抜ける。
そんな私達を意に介した様子は無くデカスライムは外壁を登ろうとしている。
………私達の事は知覚できてないのかな?それなら好都合だね。
私はデカスライムを射程距離内に捕らえる、視界いっぱい緑色の粘体が
蠢いていてちょっとキモイ上にかなりカビ臭い、けどそんな感情は
無視し、炎を纏った左手を貫手にして粘体の中に突っ込む!!
ヂュルル…っと気持ち悪い感触が左手を伝わるも次の瞬間、轟っと音を立てて
再び炎がデカスライムを燃やし始める。
「わっ…と!!」
予想外に炎の広がりが早く、私は反射的に飛び退く。
けど、これならどうにかなりそうだね。
「よっ、とっ、はっ!!」
私は次々と粘体の中に左手を突っ込み、発火作業に勤しんでいく。
突っ込んでいく先から盛大に燃え始めるデカスライム。
………なんか、放火してる気分になってきたのは気のせいかな。
けど未だデカスライムは外壁を登っている、まだ火力足りないの!?
これはリーゼのブレスが必要かな………そう思いリーゼの方に振り向くと
リーゼが炎を纏った戦斧でデカスライムを切り裂いていた。
「えっ、ちょっ…リーゼ何それ!?」
余りにも予想外な光景に戦闘中にも拘らず素っ頓狂な声を上げてしまう私。
「マスター!?」
その声に反応し手を止めてしまうリーゼ。
その手に持ってる戦斧の刃は私の左手と同じ様に煌々と炎が揺らめいてる。
えっ?リーゼいつの間にそんな事出来る様になったの?
一瞬思考が混乱する。けどすぐさま戦闘中という事を思い出し
「ゴメンリーゼ!!何でもないからそのまま攻撃を続行して!!」
「了解です、マスター!!」
リーゼは素直に従ってくれ、攻撃を再開する。
戦斧が斬音を走らせるごとにデカスライムは大きく切断され
その切断面から炎が吹き荒れる。
………うわぁ、リーゼの攻撃力に炎まで追加されてる。
味方ながらその光景に驚嘆する、あんな攻撃絶対喰らいたくないよね。
けど、いつの間にあの戦斧って火が出るようになったんだろ
ケジンさんに強化出した時になんか変な機能つけられでもしたかな。
………考えても仕方ない、真相は後で聞くとして今は目の前の事に集中だ。
「ふっ!!」
次々と貫手で粘体の中に炎を送り込み発火させていく、少しづつだけど
炎は延焼し始め、デカスライムを包み込んでいく。
リーゼも負けじと戦斧を鳴らし、炎上箇所を増やしていく。
けど、相手の大きさに対して炎上面積がまだまだ少なすぎて効果はまだ出ていない
いくら延焼してると言ってもこのままでは時間がかかり過ぎる。
マリスに第2波の指示をと思い、後方の仲間達の方へ振り向いた瞬間
視界の隅に何かが映り、即座に私の勘が警鐘を鳴らす。
「っ!!」
反射的にその場から飛び退く、それとほぼ同時に
上からその場に何かが叩きつけられる。
私は飛び退きながらその攻撃の正体を見る。
それは粘体を触手の様に細長く伸ばして叩きつけてきた攻撃だった。
「うわ、あのスライムこんな攻撃もするの!?」
思わず言葉に出てしまう、スライムの粘体が延びるなんて
聞いて無いんですけど!!
私は着地した瞬間すぐさま再び後方に飛び退く。
あの巨体なら伸縮の射程がいくらあっても不思議じゃない、足を止めたらマズい。
その予想通りデカスライムはさらに触手を伸ばして
私のいた場所を叩きつけて来る。
私は高速戦闘に切り替え、触手の動向を見ながら足を止めずに動き回る。
………こちらを攻撃してきたという事はやっと私達の事を
外敵と認識してくれたようだね、そのまま私達に気を取られて
外壁を離れてくれればいいんだけど………粘体の大部分は未だ
外壁をよじ登ってる状態のままだ、ならまだ攻撃を続けるしかない。
私は周囲の動向を気にしつつも一撃離脱の方針で攻撃を加え、延焼を増やしていく。
あの体の大きさから粘体触手は1本しか生やせないという事はあり得ない
むしろ四方八方からの攻撃を想定するべきだね。
そう予想した次の瞬間、本体からもう1本触手が私の方へ直接伸びて来る。
私は体幹を横に向ける事で回避、すぐさま前の触手が叩きつけに来る!!
「ほっ!!」
再び後方に飛んで回避する私、少しづつ本体との距離が離されていく。
私を本体から離してこれ以上発火させないつもりみたいだね
でも、ここに導火線がある事を忘れちゃいけないよ!!
私はすぐさま叩きつけられた触手に向かい、そこに左手を差し込む。
触手はあっという間に燃え上がり、そのまま導火線の様に
本体へと延焼していく。
「!!」
慌てて2本の触手を引っ込めるデカスライム、危険察知能力は流石に高いね。
ちらとリーゼの様子を窺うも、リーゼも迫りくる触手達を戦斧で切り払い
戦斧に生じている炎で触手を導火線の様にし、延焼させていた。
「………さて、どうするのかなスライムさん
さっきの様に消化する程には登れてないし、このままだと燃えつきちゃうよ?」
言葉が通じる訳は無いけど、私は挑発気味に呟いてみる。
「………」
するとデカスライムはピタッと外壁のぼりを止める。
あれ?もしかして言葉が理解できるのかな?
一瞬そんな考えがよぎるも、直ぐにデカスライムの様子が変わり霧散する。
デカスライムは延焼したまま外壁の粘体を剥がし密度を高めたと思うと
急にピストンの様に延び縮みを始める。
………何か様子がおかしい、私は警戒しながらその様子を眺める。
「!!」
次の瞬間デカスライムは破裂し、粘体が四方八方に飛び散る。
「なっ、自爆!?」
避けられない!!そう判断した私はとっさに腕で顔をガードする。
それと同時に、私の視界は緑色一緒にで埋まっていった。




