交渉の基本
「ふわ~、これはまた大勢で押し掛けたねぇ
何と言うか、商人魂の苛烈さを見てる気分だよ、あはははは」
ギルドの様子を見るなりマリスが楽しそうに口にする。
マリスの言う通り、ギルド内は人がごった返していて
その大半が普段ギルド内では見ない商人たちの姿だった。
「おい、いつまで待たせるんだ!!」
「こっちは次の取引先を待たせてるんだ、早くしてくれ!!」
「今まで誰も狩れ無かった二つ角の破壊槌の素材だ
うまいこと仕入れればひと儲けのチャンスだ!!」
「規定でギルドも確保してんだろ?それを先に売ってくれよ!!」
「これ狩ったのって何かすんげーいい体の女だって話だろ?
しかも人前で平気で裸になるって………ウェヘヘヘ」
………何か若干1名変態さんがいるようだけど、商人達は
少しでも早くレア素材を手に入れようと殺気立ちながらカウンターに詰め掛けてる。
成程ね、マイーダさんはこんな修羅場になるって分かってたから
アイシャちゃんを私の所に伝令役として行かせたんだね。
後、リーゼには人前で裸にならないようお説教しておかないと………
「だからそんな殺気立つんじゃないよ、今持ち主を呼びに行ってるって
言ってるだろう、なら大人しく待ちな!!
帝国にも素材買取りの打診は来てるんだ、言う事を聞かないと
全部帝国に売っちまう様持ち主に言うよ!!」
「おい、そりゃねぇぞギルドマスター!!」
商人達の矢面に立ってるマイーダさんが鋭い眼付きでがなり立てる。
しかし商人達も負けじと反論をして一触即発の気配だ。
いやはや何というか………中に入った途端注目を浴びそうだね
しかも私達が持ち主だって言ったら一斉に飛びかかってきそうな勢いだ
マイーダさんには悪いけどこれはこの熱気が収まるまで行かない方がいいかな?
そんな風に躊躇っていたらマリスが1歩踏み出し
パァン!!
と、ギルド内に響く様に頭上で手を叩く。
「ああ?」
当然ながらギルド中の視線を一身に集めるマリス、敵意にも似た鋭い視線を
集中的に向けられながらも意に介した気配は無く、何時もの様に
飄々とした雰囲気で商人達の前に歩いていく。
「ちょっ、ちょっとマリス!?」
私が慌てて駆け付けようとするも、マリスは私をちらっと見てにっと笑う。
まるで「面白い事が起こるからそこで見てて」と言わんばかりの表情だ。
………正直私はこの世界の物価に疎い、となればこの場にいるマリスに
頼るしかないんだけど、商人って結構したたかなイメージがあるんだよね。
そんな商人達にマリスはどう交渉していくんだろ。
「強欲な商人の皆さ~ん、待たせちゃって悪いね~
いや~形振り構わず商売敵を出し抜こうとするその姿勢
ある意味尊敬に値するね、あははははは♪」
ちょっ、マリス!?何ていきなり喧嘩売る様な事言ってるの!?
商人達の雰囲気がさらに悪くなる、これは不味いんじゃないの?
「何だガキ、ここはお前の来る場所じゃないんだ
とっとと帰ってママから小遣いでも貰ってろ」
マリスに1番近い所にいた商人が敵意も隠さずそう言い放つ。
まぁマリスの外見からしてそんな風に言われるのは当然なんだろうけど………
「おやま、商人とあろう人達が見た目で判断するなんて
そんな目利きしかできないとお先真っ暗だよん?」
「なっ!!」
さらに煽って火に油を注いで行くマリス。
マリスの事だから何か意図があるんだろうけど、ちょっと
やり過ぎじゃないのかな?
「マリス、商人達で遊んでるんじゃないよ
……待たせたようだね、ソイツが二つ角の破壊槌を討伐したパーティの1人だよ
アンタが来たって事は、素材を商人達に売るって事でいいのかい?」
今にもマリスに飛びかからんとする商人達の後ろでマイーダさんがそう言い放つ。
一瞬だけ私の事をちらっと見たけど私の事は何も言わない、という事は
マイーダさんもここはマリスに任せとく方がいいと判断したんだろうか。
「嘘だろ?こんな小娘が今まで誰も倒せなかったって言う二つ角の破壊槌を
討伐したって言うのか!?」
信じがたい事実を突きつけられて商人達に動揺が走る。
マリスはその様子を見てにやりと意地の悪い笑みを浮かべ
「信じられないなら信じなくてもいいよん。けど、少なくとも素材を売る権利を
持ってるのはマリスだけだから、信じられない人は帰っちゃってね~」
マリスの言葉に殺気立っていた商人達が嘘のように静まり返る。
いまだに信じられないと言った表情の商人達だが誰1人帰ろうとする者はいない。
「ふむむ、折角ギルマスのマイーダお姉ちゃんがマリスの事紹介してくれたのに
まだ信じないんだ……ならもういいや、マイーダお姉ちゃん、素材全部
帝国に売っ払ってちょうだ………」
「ま、待て!!待ってくれ!!」
マリスの宣言を商人達が慌てて止める。
………何と言うか凄いね、あの状況であっという間にマリスが会話の主導権を
握っちゃってる、立場をうまく生かして商人達を手玉に取ってしまってるね。
これはマリスに全部任せて正解かな、私が下手に口を出すべきじゃないね。
その意図が伝わったのか、マリスは一瞬だけ私を見ると
自信ありげに笑みを浮かべ、商人達に向きなおす。
「ん~?待てってなんでかな?
商売の基本は『信用』でしょ~?マリスを信用してくれないおっちゃん達と
何でマリスが商売の話をしないといけないのさ」
「わ、悪かった!!
アンタが二つ角の破壊槌を討伐したと信じる、この通りだ!!」
商人達が一斉に頭を下げる、流石にこの状況で認めないの
は不味いと悟ったんだろう。
まぁマイーダさんがそう言ってる以上認めざるを得ないんだけどね。
「ん~、ちょっと遅かった気もするけどまいっか
で、それなら商売の話をするけど、勿論帝国の提示した値段より
高く買ってくれるんだよね?」
「そ、それは勿論!!」
「了解了解、んじゃ帝国が提示した値段の………」
商人に言葉にうんうんと頷くマリス、そして顔を上げにやりと歯を見せて笑うと
「2割り増しぐらいからスタートでオークションと行こうか!!
マイーダお姉ちゃん、場所代払うからここオークション会場にするよ~
後、見本の素材も持ってきて頂戴~」
いきなりとんでもない事を言い出すマリス、一瞬ギルドに静けさが支配するも
「………ぶっ、あっはっはっはっは!!」
マイーダさんの大爆笑が響き渡る。
「いいじゃないマリス、なら少し待ってなさい
今から帝国の担当も呼んでオークションに参加させるから
それと、手数料含めての場所代は売り上げの20%でどう?」
「それはちょっと暴利かな~、せめて5%にしてよ」
「なら15で」
「8かな」
「わかった、10%で手を打ちましょ
ギルド員も動かさないといけないから、それ以下だとちょっと厳しいわね」
「りょうか~い、勿論オークションの進行も手伝ってくれるんだよね?」
「当たり前でしょ?値が上がれば上がる程ウチの取り分も増えるんだもの
張り切っていかせて貰うわよ!!」
「心強い言葉ありがとね~、んじゃ開催は1時間後って所で」
「分かったわ、ほらアンタ達もぼさっとしてないで金の準備だよ!!
帝国の提示額は1番安い毛皮でも5000ルクル、なら最低でも
7000ルクル以上の金は必要だから今のうちに掻き集めて来な!!」
マイーダさんが商人達に檄を飛ばす、その声に我に返った商人達が我先にと
ギルドを飛び出して金策に走っていく。
それを呆気に取られて見守る私とアイシャちゃん。
「という訳でゴメンねレンお姉ちゃん、マリスちょーっと手が離せなくなったから
一緒に遊んであげられなくなっちゃった」
「ああ…うん、それは全然かまわないんだけど………」
「あ、リーゼの武器強化に使う分と装備が数個作れる位の素材は残しとくからね~
さてさて、どんな高値が飛び出すかな~っと」
マリスはそう言うとニコニコしながら会場を設営し始めた
ギルド員達に指示を飛ばす。
何と言うか………また底知れない部分が出て来たねあの子。
「マリスさんって、本当に何者なんでしょうか
あれで私と同じぐらいの年だなんてとても信じられないんですが………」
「私も同感
ホント、味方でよかったとつくづく思うよ」
私とアイシャちゃんは楽しそうに動き回るマリスを見ながらそう呟いていた。
少しリアルが忙しいので日刊ペースはここまでになりそうです。
次話は2~3日後の予定。




