不信と傲慢の発露
第3章開始です。
「………これは流石に驚いたね
これをアンタ達が討伐したのよね?」
いつも豪放磊落なマイーダさんも今回ばかりは呆気に取られていた。
私達は思わぬ形で住処を手に入れ、それと今回の顛末を
マイーダさんに報告する為にギルドに滞在していた。
夜もそれなりに更けてたけど、流石に討伐したモノがモノだった為に
早めに報告したほうがいいとマリスが提案してきたんだよね。
流石に二つ角の破壊槌の扱いはギルドじゃないと無理だし
マリスのインベントリキューブは大きさや量に制限は無いけど、フィルのと違って
時間の経過があるってのも急いだ理由の1つなんだよね。
けど、予想した通り騒ぎにはなる訳で………
「う…嘘だろおい、こんなガキどもがアレを倒したってのか!?」
「冗談じゃねぇ、アレにはレベル30以上の冒険者が何人も殺されてんだ
何であんなレベルの低い、しかも小娘共に倒されてるんだよ!?」
「有り得ねぇ…こんなの悪い夢に決まってる」
事前に毒がまだ残ってる事を説明し、職員が防毒の魔法を何重もかけた広場で
マリスが死骸をキューブから取り出すと、ギルド内の冒険者達は騒然としてた。
………まぁ気持ちは分からないでもないかな、レベル云々は抜きにしても
こんな小娘達があんな魔物を討伐したなんて普通は信じられないよね。
「これはこれは………ゼーレンは運が無かったねぇ
出発がもう少し遅かったらこんな面白い物が見れたのに
暫くは話のタネに困りそうにないねぇ」
マイーダさんが意地悪そうな笑みを浮かべて言う。
隣で見ているアイシャちゃんは余りの光景に固まっちゃってる。
「流石にリーゼがいないと討伐どころか生きて帰るのも無理でした
今回の1番の功労者は間違いなくリーゼですよ」
報告の最後に私はそう言って締めくくる。
「成程ね~、確かにコイツの討伐はリーゼがいないと無理そうだわ
頑張ったじゃないのリーゼ、後で私のとっておきを開けてあげる」
マイーダさんの言葉にリーゼは一瞬表情を明るくするも即座に首を振り
「いえ、我だけではこれに勝つなど不可能でした
これを討伐出来たのは、フィルミール達の援護と………何より
我に『戦い方』を教えてくれたマスターのお陰です」
一切臆する事無く、胸を張ってリーゼは言葉を紡ぐ。
………いやはや、そうまで真正面に言われるとちょっと照れ臭いものがあるね。
「あははは、いいマスターしてるじゃない
………さて、アンタ達これから忙しくなるわよ
商業ギルドへの連絡、そしてコイツの解体の段取りを急いで頂戴
ほらアイシャ、アンタもいつまでも固まってないで仕事仕事」
「………はっ!!
ママ!?い、いえマスター、了解しました!!」
正気を取り戻したアイシャちゃんをはじめ、マイーダさんの指示を受けた
ギルドの職員たちが慌ただしく動き始める。
「それじゃレン達は私の部屋に来て頂戴
ギルドが管理してた依頼じゃないからちょっと面倒だけど
名在り討伐証明と評価の手続きやるから………」
「あ、有り得ねぇ………こんなデタラメ信じてたまるか!!」
マイーダさんが踵を返そうとした瞬間、そんな叫び声がギルド内に木霊する。
その声にギルド内が静まり返り、声の主に視線が集まる。
そこには、1人の男冒険者が憤怒の表情で私達を睨みつけている。
「有り得ねぇ…有り得ねぇよ!!
俺達が手も足も出なかった名在りを何でこんなレベルの低い
しかも小娘共が倒せたって言うんだ、おかしいだろ!?」
彼の言葉に、周りの冒険者はざわつき始める。
「きっと何か裏があるに違いねぇ、恐らくギルドマスターとつるんで
汚ねぇ真似をしてやがるんだ、何せ同じ女だからな!!」
………ちょっと酷いね。
信じられないだろうから多少の罵倒や因縁は受けるだろうと思ってたけど
流石に今の発言は見過ごせないかな。
ちらっとフィルの方を見ると無機質な目で男を見つめてる。
………あ~、あれは相当怒ってるね。
とは言えこんな喧騒の火種をフィルに付けさせる訳にはいかない
そう思って口を開こうとしたその瞬間
「………………………黙りな」
酷く重く、そして冷たい声がギルド内に響く。
前方にいたマイーダさんが振り返り、鋭い眼付きで冒険者を睨みつける。
熱いようで一片の慈悲もなく冷たい、そんな矛盾した表現が相応しい
恐ろしいまでの視線。
「………まぁ、確かに信じられないのも無理はないさ
けど、この子達はこうやって二つ角の破壊槌の死骸を持ってきた
これが何よりの証拠じゃないかねぇ?」
マイーダさんは視線を外さずに冒険者に問いかける、冒険者はマイーダさんの
雰囲気に飲み込まれそうになりつつも反論する。
「そ…それがギルドとグルじゃねぇかって言ってんだ!!
どうせ他の奴が討伐したのをギルドの権限で掻っ攫って
この小娘共にくれてやったに違いねぇ!!」
「そんな事やって、ギルドの何が得するって言うのさ」
男の論調は滅茶苦茶だ、恐らく前から私達の事が気に入らなかったんだろう。
それで今回の事で爆発したって感じかな。
「大体おかしいんだ、冒険者は男の仕事なのに何で女なんかが
ギルドマスターになってんだ、ここは男の仕事場だろうが
女がしゃしゃり出てくんじゃねぇ!!」
………成程、よくある女性を下に見る亭主関白タイプをこじらせた男だね。
面倒だからこの手の輩は相手にしないのが得策なんだけど。
「そうは言うけどね、『女はギルドマスターになってはいけない』
なんて決まりはどこの国にも無いんだよ、そうしたければお上に物申すか
あんた自身がお偉いさんかギルドマスターになる事だね」
「むっ…ぐっ………」
マイーダさんに正論を言われて黙り込む冒険者。
「それが出来ないのなら冒険者なんてやめて他の仕事でもすればいいさ
別にこっちは『冒険者をやって下さい』って頼んでる訳じゃないんだ
仕事してくれるなら重宝するけど、不満なら辞めて貰っても一向に
構わないよ。その代わり、今までの評価や冒険者証は全部なくなるけどね」
マイーダさんがさらに追い打ちをかける、そう言われると
冒険者達は黙り込むしかない。
ぶっちゃけ冒険者は国に保護して貰っている立場だ、危険な仕事を依頼される
代わりに、収入の保証や身の証など様々な恩恵を受けている。
私なんかその最たる例だ、異世界人なんて胡散臭い人間でも
そのお陰で生きていけている。それを忘れちゃいけないよね。
「この子達に関してもそうだよ、アンタはレベルや性別しか見てないだろうけど
正直言ってレベルしか上げてないアンタよりよっぽど腕が立つよ
私はそれを間近で見せて貰ったし報告も受けてる
別に特別扱いもしちゃいない、この子達は私に結果を見せているから
私はそれに応じた評価をしているだけ、何ら後ろ暗い所はないよ」
マイーダさんは冷たい視線のまま冒険者に語り続ける。
形としては文句を言った冒険者個人に言ってる様だけど
これ、この場にいる冒険者達に言ってるようなモノだよね。
「それが納得いかないならさっきも言った通り冒険者を辞めればいいし
それも嫌ならこの子達以上の結果を私に突きつければいい
それが出来ない以上、何言っても妬みにしか聞こえないよ」
マイーダさんはそう吐き捨てると視線を外し、自分の部屋へと向かっていく。
冒険者達は完全にマイーダさんの雰囲気に圧倒され、沈黙したままだ。
「はぁ~、カッコいいねマイーダお姉ちゃん
流石冒険者達を取り仕切る立場にいるってだけはあるよ」
「そうね………流石に感服したわ
ただの飲んだくれじゃないって所を存分に見せてくれたわね」
フィルとマリスがマイーダさんの後姿を見ながら感心したように呟く。
けどフィル、飲んだくれってのはちょっと酷いと思うよ?
その声が聞こえたのか、マイーダさんは振り向いてにやりと笑い
「アンタ達、何してんだい
手続きしたいからさっさと来て頂戴」
そう言って部屋の中に入っていった。
10000PV突破しました。
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