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君に届くは竜の声  作者: 月野安積
第二章  竜園
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竜園世話係控え室より(番外)

春の裸祭り・・・。ラギが気を失った後のお話です。

「大変です、ラギ様が倒れられました!」


厨房で夕食の準備で忙しくしていた数人の世話係の手が止まった。

頬を真っ赤に染めて今年から、竜園にに仕える事になった少女はお仕着せの前掛けを両手でキュっと握って、厨房に仕度を中止するように伝えに来たのだ。


「二階の大広間の入り口で意識がなく、今リンシェルン様が運ばれていて・・・」


「それで、ご様子はどうなんだい?」


「先ほど準備された黒竜様のお部屋に運ばれましたが、今は・・分かりません・・・」


「あぁもう、頼りない()だね。気になってしまうじゃないの」

「あら、私だってご様子が気になるわよ! 」

では、私もと数人もが二階への通路に向かってパタパタと出て行った。

皆、今この館に滞在している黒い竜を観たくて仕方ないのだ。



※         ※


『ラギッ! ラギッてば!! 』

ラギのために用意された部屋の寝台の上で、赤竜リンシェルンが黒竜ラギの頬を撫でながら声をかけているが、その真っ青な顔は何の反応も示さない。

リオンがそっとラギの手に触れて指を握ってみた。その氷のような指に、彼の形の良い眉が(ひそ)められた。


『何かあって、力を全部使ってしまったようだね。大丈夫深く眠ってしまっただけだよ、でも体温がすごく下がっている。このままだとあまり良くないね』


「どうされますか?」


世話係り頭フィーナが、宮殿からムギを両手で掴んで、慌てて帰って来たリオンに恐る恐る伺った。


『うーん、温めるのがいいんだけど。どうするかな』


『お風呂で温めちゃえば? 』

リンシェルンがラギの額に手を当てながら、リオンに振り向いた。

『リンシェルン簡単に言わないでよ・・。服のままってことは・・・、無理だよね』


『脱がせるに決まっているでしょうが。気を失っている間に、ぱぱっとやっちゃおう。気が付いたらぜーったい怒るよ。裸見られるの嫌いだからね』


「あの、今、アルファー様がリイラ様と一緒に浴場をお使いなのですが・・・。リイラ様が絵の具用のバケツを頭から被られてしまって」


リンシェルンとリオンが顔を合わせた。

アルファーも竜力の消耗が激しかったようだが、歩けるまでは回復したようだ。

『アルファーったら、姿が見えないと思ったら。リイラをお風呂に入れてたのか。かわいくって仕方ないんだな』

『ちょうどいいじゃない、アルファーにラギを支えさせれば溺れないで済むし。リオンも助けに一緒に入ったら? 』


『・・・僕もかい・・・』


『ラギ、アルファーとあまり身長変わらないよ。ラギの方が細いけど、一人で支えるの大変かも・・・とりあえずお風呂まで連れて行って脱がすか』


そう言ってリンシェルンは軽々とラギを抱え、浴場の方まで連れて行った。

『本当に何があったんだろう、ずっと雨の中に居たみたいに冷たいよ。早く温めよう、フィーナ脱がすの手伝ってよ』

「はっ、ははははい」

リンシェルンがラギを支えて、世話係の女性数人がラギの上下を脱がせにかかった。他の竜の世話で慣れていた者たちだったが、だんだんと(あら)わになっていく素肌に、感嘆のため息が漏れる。

「・・・これはラギ様本人でなくとも、隠したくなりますわ。殿方の裸がこれほど美しいのは・・・、名立たる彫刻家がこぞってモデルにしたがります」


『プリシラが鼻血噴いたからね、・・・ちょっとそこの二人、大丈夫?』


まだ若い世話係の二人が、顔に片手を当てながらぺちゃんとしゃがみ込んでしまった。それを見たフィーナが、二人を脱衣場から連れ出すように指示をする。

「若いお嬢さん方には目の毒ですわね・・・」

『ラギが嫌がる意味が分かったろう? ・・・・やだ、本当に体が冷たい。リオン! 準備できた? 』


『僕、足が厳しいから。リンシェルン湯船に漬けるまで頼むよ、入ったら肩を持つね、先に浴場に入ってるよ』


裸になったリオンは少し足を引きずりながら、片眼鏡を傍に居た世話係りに渡し、アルファーと声を掛けながら浴場に入って行った・・・。



※        ※



『・・・どうした?・・・・あ?、リオン、リンシェルン・・・ラギ? ! 』

アルファーは広い湯船の真ん中辺りで、大きな風呂に興奮したリイラに自分の周りを、水しぶきを上げながら泳がれて、目が普通に開けられず薄目を開けて浴場の入り口を(うかが)った。

だが、リンシェルンの肩に担がれた素っ裸の男を確認して、今まで彼を知っている誰もが見たことも無いほど目が見開かれた。


『わぁっ、おとうもおふろだおふろだ!! あれ? 寝てるよ? 』


先にリオンが湯船に入り、ラギを受け取り。アルファーがジャバジャバと湯の中を歩いて、慌てて腰を掴んだ。


「ぁんっ・・・・」


アルファーが腰を掴んだ瞬間に、ラギからため息のような声が聞こえ、

その場に居た全員が固まった・・・。

脱衣所の方で何かが倒れるような音が聞こえ、騒がしくなり、フィーナの「退場!!」という声が響いた。


『お、起きて無いようだけど・・・。何と言う悩ましい声だい・・・』



『おとう、腰こちょこちょしたら、ギャーッて叫んで怒るよ。触ったらリイラでもペンするって。じゃくてん、何だって。だから触っちゃダメなのよ』


『ほぉ、それは良いことを聞いた・・・って違うだろう。何だ、この冷たい体は!  何故目覚めない 』


『アルファー、腕持って、僕反対の腕持つよ・・・弱いところは触らないでおこうよ。・・・変な声出るし・・・。ラギ、急に倒れちゃって体温が低下しちゃったんだよ、お風呂で温めてみようってなった』


『そうなのか、よし、しゃがむぞ・・・』『いいよー』


リオンとアルファーが何とかラギを湯の中に入れ、ほっと一息付いて前を見ると、リンシェルンが手を顎に置き、屈みながらその様子をじーっと見ていた。


『・・・何か、面白い・・・。美形の素っ裸の男三人、絶景だね。リイラァーおいで先に上がっちゃおう、体を拭いてもらおうね。リイラ、ラギの着替えってカバンの中にあるの?一緒に出すの手伝って』


『あーい』


『『・・・・・・・・・・』』


しばらく、脱衣所の方でリイラの世話をする人たちのざわめきが聞こえ、その後は静かになった・・・。いや、世話係が数人残っているようだったが、身を潜めて浴場の中を窺っているようだ。


『・・・・体温戻ってきたんじゃないか? しかし、ここまで気が付かないとは・・・』


『僕だって分からないよ、目が覚めなかったらどうしよう・・・』


『どこかで、野垂れ死にしているより、ここで倒れてよかったのかもな・・・。どんな生活をしていたのだ、ずっと腹を空かせているような気がするのだが』


『さぁ・・・、でもそんなに痩せているようでは無いけれども・・・。凄い田舎で一人ぼっちで生きてきたのかな・・・。ユリアンの手紙にあったんだけど、文字も世の中の事も何も知らなかったんだって、自分の事もあまり分かってなかったって』


『そうか、田舎に居たから今まで穏やかに暮らしていけたのかも知れないな。だがこの容姿にあの竜力だ、この先、暮らしにくいのでは無いだろうか。我らはあまり市井では暮らしにくい・・・』


アルファーがそっとラギの顔に掛かった髪を避けた。


『うん、それなんだけど。ほぼ丸一日竜力を抑えられるらしいよ、眠るときだけ普通になっていたらしい。僕は三時間ほどが限界だなぁ、それも重たい石をずっと背中に持っているような気がして、疲れ切ってしまうよ』


『自分も半日が限界だ、シャイナの(とも)をしてたまに街中を買い物に付き合うが。精神的にもぐったりする・・・。ラギは凄いのだな』


『僕らの王だものね、やさしくて警戒心の強い王様だ。・・・どんな人がラギを好きになってくれるんだろうね、いや、誰を好きになるんだろうね』


『それは・・・、きっと女神だけがご存知だ。ラギが自分に願ってくれたように願おう・・・』


(寂しい想いをしませんように・・・と)


『そろそろ上がろう、もう大丈夫そうだ』『僕足が無理だから・・・あ、あれ?』

『どうした? 』『足が治癒してる・・・・・・』



※         ※



この後、脱衣所に運ばれたラギは、丁寧に世話係のお姉様方に体を拭かれ。髪を綺麗な組紐で結われた。

また数人うら若き女性が腰砕け脱力し。

生き残ったフィーナとラギの素っ裸に何も思わないリンシェルンが、風呂を入れた事がバレないようにと同じ服を着させて、足が治ったリオンがそっと寝台に横たえた・・・。その隣にリイラが潜り込み、三秒で寝入ってしまったが。もう少し一緒に居たかったアルファーにだっこされて、通称レースとリボンの部屋でアルファーと一緒に朝まで眠る事になる。




朝が来て、ラギがそっと目を覚ますまであと少し・・・。







ラギ、風呂で煮出されたようです・・・。ラギ汁恐るべし(テヘ

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