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君に届くは竜の声  作者: 月野安積
第一章 麓の村
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竜の庭 (番外)

時系列的には、卵が盗まれかけた後、青竜が怪我をする前です。

 王宮の最奥にその離宮はひっそりと建っている。


 建物の手前には広い芝生と、それを囲む様に花園が広がっていた。


『リン、リンシェルン』


 花園の中には、一頭、赤い竜が寝そべって尻尾をユラユラ動かしながら、目の前を飛び交う蝶を目で追っていた。


『蝶は食べれないよ』


 赤い竜は、横から歩み寄ってきた人物に眼差しを向けた。

 青年は濃い青い髪と、同じ瞳を持ち、片目にはモノクルと呼ばれる片眼鏡をかけている。

 宮廷の文官の制服である、茶色の膝丈までの上着を着ており、片手にはピンクのワンピースと布製の靴を持っていた。


『人型になったら?』

 

 竜はふぁぁと大きな欠伸を一つして、小さな風を一つ巻き上げて人の形を取ると、青年の手から衣服を受け取った。

 髪は赤なのだが、その色は深く落ち着いた色合いをしている、そしてその瞳も髪と同色だった。

 彼女は素早く着替えると、青年に向き直った。


『臭いを辿って追い詰めたんだが、自害されてしまった。すまない、証拠を手に入れる事はできなかったよ……』


『いや、こちらこそ悪かった、僕とアルファーは調停式典の真っ最中で動けなかったからね』


 青年はフッと微笑んで、リンシェルンと呼んだ赤竜の少女の手を取った。

 右の手の甲には、青い爪の先ほどの鱗がきらめいている。


『休憩時間を抜けてきたんだ、ちょっとお茶にしよう。詳しい話を聞かせて、アルと殿下方と相談したいから』


 少女は一瞬、自分にも同じものがあった場所に手を触れたが、そこはツルンとした人間の皮膚しかなかった。

『契約者がいるヤツは便利でいいな、意思の疎通が簡単で。王族をアゴで使いまくっているリオン殿、ご尊敬申し上げるよ』


『リン姫、契約者の事、まだ後悔してるの? 自分のせいで……』


 宰相補佐をしている青年は、リンの手をきゅっと握った。

 彼女があの時、錯乱して慟哭し、アルファーと自分で押さえつけて慰めた。

 真面目な堅物で喜怒哀楽の薄いアルファーが、まさかのもらい泣きしてしまい、阿鼻叫喚とはこの事かと、リオンは思ったのだった。


『もう、懲りた』


 彼女の心から発する〔声〕は、じんわりとリオンに沁み、そのまま二人は何も語らずに、屋敷の中に入っていった……。


 竜達の庭には、今日も穏やかな風が吹いている……。











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