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君に届くは竜の声  作者: 月野安積
第一章 麓の村
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俺、あずかる

 何とか落ち着いてきた俺は、見つめてくる瞳を逸らしながら、早口で言った。


「村までご案内するように、頼まれました、もう少し峠を降りるのに時間が掛かりますが付いてきてください」


 先ほど真近で迫られた時に、俺はのど仏が無いのを確認した。

この、アンジェラ様は女性のようだ。

 何か言いたげに、眉を寄せているルフォーと違い、俺を新しい玩具を見つけた子供のように微笑んでいる。俺はくるりと背を向けて村の方へ足を向けた。


「名前、教えてくれない?」


 いきなり、ガッと髪の毛を捕まれた。捕まれて痛かったが、アンジェラ様を引っぱったまま、俺はズンズンと進んだ。


「私はアンジェラと言う、帝国で騎士のような事をやっているよ、本業は違うんだけど、今年で21歳独身です、よろしくね」


 はい、次、君と合コンの紹介みたいな展開になってきた。


「うれしいな、私は光竜としか通じ合った事が無いんだよ、それも、はい、かいいえ、だけだった」


 フフフフと彼女は笑いながら、カッコいいなぁと呟いた。俺は竜とバレた段階で、ただの村人ですと誤魔化すのは諦めたが、このアンジェラ様から変な今まで感じた事の無い威圧感がして、どう対処したものか悩んでいた。


 ツンツンと髪を引っ張ってくる。


「な、ま、え、教えて?」


 一瞬スルっと実名が口から出そうになったが、ジジババの教えちゃいけないよ、という言葉が頭の奥に響いた。


「……ラギです」

「ラギ、ラぁーギ、止まって、竜体になりなさい」  


「はあっ?」


 急に何を言い出すのかこの人は。俺は思わず彼女に振り向いた、髪の毛は引っ張られたまんまだったから、その動きでぱらりと髪を結んでいた皮ひもが解けてしまった。

 さっと紐を拾われる。


「これ、貰っておくね」


 そのまま紐は懐の中に入れられてしまった。


「契約名では無いようですね……」

 ルフォーが眉を寄せたまま、アンジェラと顔を見合わせた。


「賢い仔だね、誰かに言われたんだろうがちゃんと好い環境で育っているようだ。賢いのは手に入れるのが難しいと言うけれど、姿も美しいし竜力も高そうだ、みんな欲しがるだろうから苦労しそうだな……」


 一度全員立ち止まったが、またもくもくと歩き出した。

 何か俺、言われたい放題だ。


「竜園に連れて帰られますか?、懐くまで傍に置かれては……」


「今はここの方が安全であろう、それに生まれたてではあるまいし、すぐに飛んで逃げてしまうだろうよ、鎖で繋いでおかない限りはね……」


 そういうやり方は私は好かないよ、とアンジェラは呟き、そのまま俺たちは村まで帰ったのだった。


 村の近くまで来たので俺は竜力を抑えて、一般人になった。

 村人の間ではこれで通しているからな、唯一の例外はガリムさんで、再会した時アレッ?って顔されたけど、いゃあ、髪の毛切ると雰囲気変わるね、ガハハハハと豪快に笑われそれですんなり収まった。


「ラギちゃ、ラギにいちゃ」


 村の中を騎士様達と歩いていると、そのガリムさんの子供たちが転ぶように走ってきた。

 小さな村だから、子供の数は10人前後しか居ないのだが、今では全員とすっかり仲良しだ。

 白竜亭で以前、試しにホットケーキを作ってみたのだが、こちらの人はあまり、甘いお菓子類を食べ慣れて無いらしく、砂糖を煮詰めてカラメルソースと一緒に出してみると大絶賛され、それ以来子供たちの好物となって、よく食べに来る。

 5歳から9歳までの年子で総勢5人、一番下の女の子が腕の中に飛び込んだ。

 鼻から青い鼻水が、両方の鼻の穴から出ていたので、俺は苦笑しながら女の子のエプロンでふいてやった。

「ラギちゃ、また作ってくれる?甘くてフワフワ、ミリーあれ大好き」


「ミリーだめだぞ、今月はもうお小遣い使っちまったからな、来月だ」


 あぁ和む、俺は何だかやっと、肩の力が抜けた。


 一番上のしっかりものの男の子が、俺からミリーをひっぺがした。


「お金はいらないよ、そうだな、お代の変わりに今度お店に飾るお花摘んできてくれるかな」


 子供達が全員コクコクと首を縦にふった。


 ブハッ

 突然後ろで音がした。  


「クックククククッ、ウッ あぁ可笑しい、み、みんな、みんな顔が一緒!!」


 あぁ俺、和みすぎてこの人達の存在を忘れていた……。

 始終無表情だった、ルフォーまでプルプル震えて片手で口を押さえていた。


「明日お店においで、俺今日は用事があるから」


 子供たちは、あいっ、あいっと可愛らしい返事をして、また転ぶように去っていった。


「いい村だね、君はここで大切にされているんだ」


「俺、貴女に着いては行きません……」


「大丈夫、その気持ちきっと変えてみせるから」


 何が大丈夫なのか、俺は憮然としながらジジババが待つ家へと足を進めた。


 家の傍まで来ると、玄関先のベンチにジジババが2人仲良くちょこんと座って、俺の帰りを待っていた。

 ばあさんは俺を見つけると、トコトコと走りよって、両手で俺の手を取りポンポンと叩いた。


「さぁ、遠いところ、お疲れになったでしょう、家に入ってください」


「お初にお目にかかる、私はアンジェラ、それは私の身辺警護をさせているルフォー、丁寧なお手紙のお返事ありがたく受け取った。この度は願いを聞き遂げて下さり、厚かましくもこの地へ参りました」


 アンジェラとルフォーが騎士の礼をとった。


 ここじゃ何だからとみんなで家の中に入る、ウチの居間は5人入いってもうキュウキュウだ。

 ハイジの家といい勝負なのに、というか、床が抜けそうで怖い。


「ワシがお世話係じゃったのは、もう50年も前じゃ、お役に立てるか分からんのに」


「光竜と青竜とが神山から竜力がすると言うので、それならばと思いました、でも……」


 チラリとアンジェラがこちらに目を向けた。


「ある意味、正解だったようで、ルフォー出してくれ」


 ルフォーは背中に背負っていた、大きなリュックから慎重にそれを取り出した。


 人の頭くらいある大きさの固まりが、きれいな布でグルグル巻きにされて小さな籠に入っている。

 俺は何だか、急に背中がムズムズしてきた。ルフォーが恐る恐る布をはがしていく、そしてそれはコロンと籠の中にもう一度納まった。


「後、一週間か10日ほどで孵るそうです」


 卵だし……。


「一年ほど前に、ルクレール火山の麓の洞穴で見つかって、成体では無く、卵で見つかる事は史上初めてだそうで」


「ワシも初めてみたぁ……こりゃびっくらこいた」


「初めてなので竜達もどうしたらいいか、分からなかった様で、とりあえず本能のおもむくまま、竜力を注いで温めてきたのですが」


 俺は超、嫌な予感がしてきた。


「光竜は、冬の間、姉について隣国に行く事になり、青竜は先日の国境沿いのいざこざで負傷して、頼みの赤竜は性格的に無理で……」


 全員の目が、キラキラと俺に向いた。


「ラギや、ばあちゃん手伝うから、がんばってみれ」


 そして俺は、竜卵をあずかる事になったのだった。

























次回、卵騒動です。次こそ温めます、そしてチラッと登場したあの生き物が・・・。

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