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魔王と勇者が死んだ後、俺が世界の主になる  作者: 我妻 ベルリ
第三章 仙船 大千郷の英雄編
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第45話 戦前の凪

 夜宵(やよい)と話したのは…もう300年も前のことになる。

 

 僕ら(えい)の一族には、代々脈々と受け継がれてきた能力があった。

 僕には護神(まもりがみ)の力が。結朝(ゆいちょう)には回復魔法が。そして夜宵には時帝龍(じていりゅう)の時を操る能力が。

 

 世界に存在する三種の龍には、それぞれ神子(みこ)と呼ばれる存在がいる。

 龍に存在を認められ、龍の持つ強大な力を使うことの出来る人間の事だ。

 特に夜宵にはその素質があり、生まれながらにして仙船一の魔力の持ち主だった。

 

 しかし…それが夜宵を苦しめる、生まれながらの呪いになってしまった。


 その呪いはある時暴走してしまった。

 幸い怪我人を出さなかったが、夜宵にとって制御の効かない強大な力は、恐怖以外の何者でもなかった。


 その後、夜宵は姿を消した。勿論、ここは船の上。地上の平均的な国土を持つとはいえ、どこかに行くとしても限界がある。

 それでも探し出せなかった。

 いや、探すことさえ最初は躊躇った。

 彼が背負っているものが、僕にはあまりにも大き過ぎると感じてしまった…。


 この一族に生まれなければ…どれだけ幸せだったのだろう。


 ○ ○ ○


 意識を取り戻した。

 記憶もはっきりしている。夜宵さんが連れて行かれて、それを追いかけようとしたけど……。そこで意識を失ったんだ。

 どこかの施設に運び込まれたのか…。ベットの上であることは目を瞑っていてもわかる。

 意識ははっきりしている。

 けど、目を開けるのが怖い。

 またループしていんじゃないか。その恐怖を拭いきれない。

 怯えながら瞼をゆっくり、そしてうっすらと開ける。


 「ノア?ノア!!僕の事わかる?!大丈夫?!」

 

 まず視界に飛び込んできたのは、安堵と心配が入り混じった顔をしたアスの顔だった。


 「はぁ〜……………。終わった………」


 ようやくだ。

 ようやく繰り返しから抜けられた。

 ループをかけた夜宵さん本人も解除方法がわかっていなかったのだから、正直最悪も想定してたけど……。

 なら…もしかして、ループを解除する方法は…………。


 「ね、ねぇ?ノア。やっと落ち着いて話せたのに…一言目が溜息と「終わった」って………。酷くない?」

 「あ、ごめん………」


 ○ ○ ○


 同時刻。

 別室でノアが目覚めた頃、舵取り塔の会議室では、夕源を始めとした全員が集まり、今後の動きを確認しあっていた。

 アスの暴走、ノアの事前に知っていたかのような行動と変わり過ぎていた戦闘。それに加えて、夜宵さんの拘束。

 突然のことに全員の理解が追いついていなかったのだ。


 「さて…皆さんどこから話し合えば良いものか……」


 夕源は深く息を吐きながら独り言のように会議を始める。

 会議を始めるとは言っても、何から話して良いのか、何を話すべきなのか。それがわからなかった。


 「まず、今回のアスベルくんの暴走についてだけど……クミさん達は何も知らないってことで良いんだね?」

 「え、ええ。私を含め、全員知りませんでした」


 その言葉に同意するように、ボーガス達が頷く。

 共に旅をしてきた筈なのに、彼らの変化に一番驚いているのはクミ達なのだ。


 その時、会議室の扉が叩かれ、話し合いが止まる。


 「?どうぞ」


 ゆっくりと扉が開き、姿を現したのはーー


 「ノア!?」

 「クミさん……皆んなご心配おかけしました」


 アスの肩を借りながらゆっくり歩くノア。2人の無事を見て、先程まで感じていた不安は消えていた。

 席についたところで、アスが机の上にある水を一杯持ってきてくれる。


 「無理に出なくても、ゆっくりで良いのに…。はい、とりあえず飲みなよ」

 「そうもいかないよ…。ありがとうアス」


 アスが持ってきてくれた水を喉に流し込む。

 実際のところ、喉がカラカラで今にも干からびそうだった。

 勢いよく飲むと、まるでドロドロの血液に水が混ざって、さらさらにするみたいに。固まってた絵の具に水を垂らして伸ばすみたいな。そんなイメージが頭に浮かぶ。


 一気に飲み干したところで、全員の目が僕に向けられてることにようやく気づく。

 一回だけ咳払いしてから、僕は皆が聞きたがっているであろう話を始める。


 「では………話します。今回の事件について……」


 僕はゆっくり話し始める。まるで、ぽつりぽつりと小雨が降り始め、やがて土砂降りになるかの様に。


 「僕は…同じ日を繰り返してました」

 

 ○ ○ ○


 「これが、僕が繰り返していた時に起こっていた事です」

 

 どのくらい話していただろう。

 約一年に及ぶ繰り返しの日々。その全容を話し終わり、僕は一息つく。

 話す前に水を飲んでいたけど、話し続けてすっかり口の中が乾燥してしまった。


 水を飲みながら、皆んなの表情は…一言で言えば混乱、だった。

 クミさん達は特に、僕が知らぬ間に事件に巻き込まれていた事にショックを受けてくれている様だ。

 

 「これは我々栄一族の失態だ。一族を代表して謝罪する。我々は如何なる罰、要求にも応えよう」


 夕源さんと隣に座っていた結朝さんが深々と頭を下げる。その謝罪を全員が静かに見届ける。

 僕は頭を上げる様に促す。


 「謝罪を受け入れます。でも、何か罰を与えたり、要求したりすることはないです」

 「……ねぇ、ノアくん。ちょっと良いかな?」

 「え?」


 話に割って入ってきたのは、意外にも香薬(かやく)だった。

 

 「ノアくんはそう言うと思ってたから、私が言うね?罰が無くて本当に良いの?少なからず何か要求しても…」

 「でも、これは夕源さんが悪いわけじゃありません。それに、別に全てが悪かったわけじゃ…」

 「そうじゃないでしょ?まだ理解できてない所が私にはあるけど、夜宵って人の能力でノアくんは苦しんだんでしょ?」

 「それは………」


 それに関しては否定できない。

 更に香薬の話は続く。


 「誰にも相談できなくて…1人で悩んで苦しんで……。そんな時間を強いたこの人たちにノアくんは、怒りの一つや二つ込み上げないの!?」


 気がつけば、今にも泣き出しそうな目で訴える姿は、僕の心さえもギュッときつく締め付けた。香薬の言ってる事は何も間違っていないし、多分他の皆んなも同じだと思う。

 確かに苦しんだ。泣いたし、折れかけた事も数え切れない。

 でも………。


 「でもね?あのループが無かったら、僕は全てを失ってたんだ……。香薬もジンも、アニーナもボーガスさんも、クミさんもアスも。あの繰り返しがあったから、皆んなを助ける力を得られたんだ。必要なことでもあったんだよ。だから、僕は夕源さん達を恨んだり、何かを要求したりしない」


 僕がそう言い終わると、香薬の目から涙が流れ落ちる。

 泣き出す香薬の元へ行き、控えめな抱擁を交わす。

 香薬は僕より全然大きくて、僕の顔がお腹くらいだ。

 人ってこんなに柔らかくて、温かいんだ…。久しく忘れていた人の温もりに触れ、僕まで泣きそうになってくる。

 

 「それに、今回のアスベルさんの暴走の件。黒幕が居るんですよね?」

 

 脱線した会話を戻してくれたのは、丹玄さんだった。

 

 「そうです。今回、アスが暴走するきっかけになった魔染病。アスに魔物の血を入れた男が居ます。あの強さは異常です。多分相当な実力者です…それこそ、シルヴァト以上……」

 「そんなにか…!?」


 ボーガスさんの驚く声に僕は頷く。

 僕達はその実力がどれ程のものか知っている。あの怪物を余裕で超える怪物。あれはただの悪人じゃない。もっとドス黒い……。


 「恐らく、その人物は俺が追ってた不審人物でしょうね」

 「そうだね…。半年前から不審な動きをしている自称商人の男がいてね。密輸やら様々な違法取引をしていて、丹玄に追ってもらってたんだけど、ここでその尻尾がみてえくるとはね…」


 会議はまだ終わりが見えない。


 ○ ○ ○


 アスを魔物化させた不審人物は、捜索にあたる人員を増やす事で話がまとまった。

 こちらに関しては見つかるまでにそれなりの時間がかかると踏み、真っ先に取り組むものではないと判断した。

 もし仮に見つけ出したとしても、そう簡単に捕まる相手ではない。天護軍が束になっても勝てない、実際に戦って感じた率直な感想だ。

 今、このタイミングで戦力を失う訳にはいかない。

 

 そして会議は今一番大きな問題へと移り変わっていた。


 「じゃあ、夜宵に対して下された鳳老院の通達を読み上げるよ」


 夕源さんは巻物を広げ、その内容を読み上げる。身内の刑罰を読み上げる事がどれだけ屈辱なことか。声色と表情がそれを物語っていた。


 「『一、繁華街が壊滅した事件の主犯を栄・夜宵とし、此度の騒ぎの全責任を負うものとする。また、以後この者を甲と呼称する。

 二、鳳老院(以後は(おつ)と呼称)は甲と魔法契約を結び、今回の事件に対する処罰を甲一人(こうひとり)とする代わりに、乙は龍の神子の力、権限を管理する。

 三、実行犯である異国人 アスベル・ジャック・シュベルトとノア・ファトリィブの罪並びに処罰を、甲との魔法契約により無罪放免とする。

 四、この判決を仙船に住まう者の総意とし、これに反抗する者は極刑とする。』……これが鳳老院の通達だよ」


 内容を聞かされた全員が、目の前の理不尽に怒り震える。


 つまり、鳳老院は今回の事件の責任を夜宵さんにして、龍の神子の力と権限を我が物にしたことになる。

 これで、吾妻さんの予想していた通り、鳳老院は時帝龍の復活を目論んでいる説が濃厚になった。


 「大型僕の予想通りってとこかな。まさかこんな手を使ってくるとは思ってなかったけど…」

 「上手く利用したもんだよ。これで奴らは一応公的に時帝龍を手にした訳だ。無理矢理でも理不尽でも、魔法契約は契約。一度結ばれてしまえば、そう簡単に破れるもんじゃない。厄介なことしかしないな…あいつらは…」


 吾妻さんと飛将さんは冷静に今後の出方を考えている。

 しかし、現状は良くない。

 飛将さんの言う通り、魔法契約は結ばれて仕舞えばそれを無かったことにするのは難しい。

 しかも、夕源さん達は動けない。四つ目の決定に仙人は従わなきゃ……。

 いや。

 これなら。


 「いける。これなら救えるかも」

 『え?』


 ○ ○ ○

 

 2日後。鳳老院本殿。


 仙船の市街地から離れた場所に立つ神々しい宮殿。

 鳳老院の本拠地にして、仙船の規則などを決めている機関である。

 宮殿の地下。危険な武器や貴重な書類などを保管する「宝庫」に、鳳老院の5人と1人の青年がいた。


 「貴様の力は我々の管理下にある。勝手に使われては危ないからのぉ。貴様をこの宝庫に監禁させてもらう」

 「好きにしてください。既に魔法契約は交わされてるのですから、反抗も何もできないでしょ」


 その言葉を聞いてニヤリと笑う老人ども。

 しかし、どこか安心している自分がいる。もうこれ以上迷惑をかけないからだろうか…。

 これで良かったんだ…。


 宝庫の扉がゆっくりと開き、暗闇の中へ進もうとした時、外が騒がしいことに気がつく。

 その事に鳳老院たちも気がついたようで、全員が周囲を警戒する。

 次の瞬間ーー


 バーーーン!!!


 激しい爆発音と共に壁が崩れ、砂塵から彼の姿が現れる。


 「な、なんで…?」

 「助けに来ましたよ。夜宵さん」


 彼の後ろには彼の仲間達が並ぶ。

 こんな事をしても意味は無い。それどころか、反逆罪で極刑にされてしまう。


 「な、なんで来たんだ!反逆罪で極刑に…!」

 「それは……仙船に住む人達の話ですよね?」

 「っ!?」


 そう。僕達はそこに目をつけた。

 反逆罪が適応されるのは、あくまで仙船で暮らす人たち。僕達や吾妻さんはそれに該当しない。

 

 「小童共が!そんな屁理屈通用するとでも思ったか!我々鳳老院に逆らう事自体が不敬である!おい!天護軍(てんごぐん)はどうした!?」


 不徳大帝(ふとくたいてい)が叫ぶも、その声は広いだけの宮殿に静かに反響して消える。


 「来れませんよ?ここがどこかお忘れのようで?」

 「くっ…!餓鬼…!!」


 ここは鳳老院の本拠地。限られた人物しか立ち入れぬ場所。

 これを言い訳に夕源さん達は外で待機している。

 無論、鳳老院を逃さない為だが、「外で鳳老院の警護をしている」という事にしてある。


 「ふっ、良かろう。我々鳳老院の仙人たる力をとくと味合わせてやる。後悔するなよ?そこの小僧。貴様で血の雨を降らせてくれる」

 「それはこっちのセリフだよ」

 

 僕達は武器を構える。

 僕の目は鋭い眼光を放ち、ありったけの魔力を解放する。


 「なっ!?この魔力…!!」

 「血の雨ですか……。あなた達を吊し上げて、てるてる坊主にしたら雨も晴れますかね?」


 今、仙船の未来を決める戦いの火蓋が切って落とされた。

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