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魔王と勇者が死んだ後、俺が世界の主になる  作者: 我妻 ベルリ
第三章 仙船 大千郷の英雄編
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第44話 夢廻り〜ヨアケ〜

 戦いの全貌を目の当たりにした全員は、炎の立ち昇る中で瓦礫の山の頂点に立つノアを仰ぎ見る。

 目の前に現れた彼は敵か味方か。

 クミ達に限っては本当に旅を共にして来たノアなのか。甚だ疑問だった。


 「あれは……ノアくん…だよね?」

 「……」


 香薬の呟きにも聞こえる疑問に、クミは言葉を返すことができなかった。

 目の前に居る少年は明らかに風格も魔力の練度も違う。しかし、見た目は今日の朝も見かけたノアそのものだ。


 「ノア…ノアなんですよね?」


 そう問いかけるクミさんはどこか不安げな表情をする。


 ここ最近、みんなの顔も見てなかったな。

 同じ会話、同じ出来事、同じ反応。全て同じでみんなの事を、風景にしか思ってなかったんだ。

 みんな…そんな顔をしていたんだ。クミさんの声、みんなの眼差しを感じるのも1年ぶりかな…。

 僕は改めてみんなの事を見てから返答しようとした。

 しかし、そのタイミングで見知らぬ組織が僕らの周囲を囲む。

 その服装は見たことが無く、黒づくめの武装した集団によってその場は騒然とする。

 その中きら1人の男が前へ出て、僕に対して言葉を投げかけた。


 「我々は仙船の戦闘員『鉤爪(かぎづめ)』である。貴様はたった今戦闘していた魔法使いだな?」

 「(魔力を限りなくゼロにして隠れていたのか)何者ですか、あなた達は」

 「……鳳老院か…。厄介な所が動き出したね」

 「っ!それって……」


 夕源さんのその言葉には聞き覚えがある。

 確か仙船の権力者で、羅刹の封印を解こうとしてる仙人のトップ。この人達の狙いは…。


 「そこの貴様。先程の魔物はどうした。お前とその魔物を拘束させてもらう」

 「は?」

 「これほどの被害を出したのだ。当然であろう?大人しく連行されろ!」

 

 その言葉を皮切りに雰囲気が変わる。全員が殺気立ち、明らかな敵意を見せた。

 アスは僕の後ろで瓦礫に埋もれているはず。ここでアスを捉えられてしまっては、僕の全てが水泡と化してしまう。


 「では、戦闘ですね……」


 戦闘の際、基本的に魔法使いは魔力を抑えるものだ。

 相手に魔力の総量、練度などありとあらゆる情報を開示してしまうからだ。

 それに、魔法使いは近接は圧倒的に不利になる。その為、体から溢れ出す魔力を限りなくゼロにする事で不意打ちを狙う事がセオリーになる。


 しかし、ノアはここであえて魔力を立ち昇らせる。魔力をわざと溢れさせ、覇気のようにして相手を脅した。

 その場の全員に背筋が凍るような殺気と、途方もない威圧感で震え上がった。


 「抵抗するか!恐るな!一斉にかかれ!」

 

 周囲を囲んでいた全員が刀を取り、一斉に向かってくる。

 僕も反応しようと魔眼を発動させる…が。


 「ぐっ…!?」


 突然目に激痛が走り、目の前の景色が赤く染まる。

 涙…ではない。これは血涙…?

 そのうち頭痛までしてきて、その場に跪いてしまう。

 慣れない魔眼の戦闘で酷使し過ぎたんだ。


 「よし、相手は弱っている!捕えろ!最悪生死は問わん!」


 まずい。

 目の前に敵が迫ってるってのに、体が全く反応しない。

 遠くの方から声だけが聞こえる。

 クミさん達が叫んでる…?なんで言ってるんだろう。 

 ここまで来たのに……また繰り返すのか…?

 また戻るなら……

 もう

 なにをしたって…良いじゃないか。


 「よし、完全に動かねーな!腕に手錠をーー」


 ザク。


 この音は僕が相手の腹に剣を突き刺した音だ。

 ゆっくりと体を起こすと同時に、腹に刺した剣をゆっくりと押し込む。

 痛みに苦しみ歪んだ顔でこちらを見ている。

 ゆっくり血が滴り落ち、僕の手元も赤く染まっていく。

 でも、すでに僕の中ではこの人はどうでも良い。

 一気に剣を引き抜くと血が飛び散り、相手は意識を失う。

 力無く倒れる敵を見ることもなく、跨いで僕は次に来る相手を見渡す。


 「どうしました?捕えるのでは?」

 「くっ…!怯むな!行」

 「第一門 魔法連射銃(マジックマシンガン)


 相手の命など考えず、ただ均等に魔力弾を浴びせる。

 どれだけ叫び、苦しんでいようと関係ない。

 僕は…ここまで何回死んだ?

 何回苦しみ、何回泣いた?

 こんな奴らにそれを水の泡にさせられるのだけは、絶対に有り得ない。

 ここまで来たんだ。こんなんじゃ終われない。

 焦りと怒りが突然溢れ出す。


 でも、なんでだろう。ようやくループから抜け出せそうな気がしているから?アスを止められたからか?

 今、凄く体が軽くて何も考えずにいられる。


 「ノア!何やってんだよ!」

 「ノア…やめて!」


 ジンとクミさんの声さえも、今や遠く感じる。


 もうどうでもいい。


 誰がどうなろうと……もう…。





 「ノア………」


 その声を。一度でも忘れたことはなかった。

 その声を聞いて、むしゃくしゃした気持ちが嘘のように晴れて、一方的な攻撃を止める。


 気が付けば空に浮かび星が薄くなり、日が差し込んでいた。

 もう夜明けだ……。

 崩れた街並みの隙間から光が差し込み、僕の周囲をやさしく包み込む。

 瓦礫の上に伸びる二つの影。その影と、背後から聞こえた声の正体を僕は知っている。いや、これを求めていた。

 後ろを振り向き、陽だまりの中にたたずむ彼に僕は目を奪われる。

 

 「ア……ス………?」

 「そうだよ、ノア。ただいま」


 〇   ○   ○


 「アス………。本当に……?」


 困惑していたのはクミさんだけじゃない。

 だが、一番ノアとアスを…あの2人を心配していたのはクミさんだ。


 魔物として破壊を尽くした魔物が、小柄な少年の姿で現れ、捕える任務を与えられた『鉤爪』や夕源を含めた天護軍。それ他、全員が困惑と驚きで静止する。

 さっきまで激しい戦闘が繰り広げられていたとは到底思えない程、綺麗で優しい朝日が、崩れた繁華街と全員を優しく照らす。

 

 「アス、アス…!!」


 「永久(とこしえ)のエルダ」から8ヶ月。ノアの体感時間も含めると約1年半。

 引き裂かれていた時間を埋めるように、彼に近づく。

 しかし、負ったダメージは予想以上で、流血と疲労から満足に歩くことすらできない。

 足元がふらつき、遂には瓦礫に足を取られ、倒れそうになる。


 「おっと。大丈夫?ノア。……話したいことは色々あるけど。………ようやく会えたね」

 「うんっ……。うんっ…!!」

 

 アスに支えられ、ようやくアスを感じられた。

 何故だろう。自然と泣いていた。声が震えて、涙が止まらない。

 アスの温もり、久しぶりに聞く声。それが、ただただ安心した。

 

 ノアとアス。

 2人が抱き合い、再開を喜び合う姿を皆が見ている。

 しかし、その感動が理解できるのは共に旅をしてきたクミ達のみ。

 

 『鉤爪』は目の前で起きたことを理解出来ず、立ち尽くしていたが、我慢の限界となり2人を捕らえようとする。

 が、行動する前に彼らは頭を垂れてつくばう事となる。


 「チッ…。まさか現場にまで出てくるとはね」


 夕源の視線の先には5人の仙人の姿があった。


 「あれはっ!?」

 「お、おい!早く頭下げろ!」

 

 たちまち夕源を始め、夜宵に丹玄、飛将や仙船に住まう住人が5人の仙人に対して頭をできる限り下げ、地面に這う。

 クミ達以外の全員が最大限の礼儀を払う相手。

 仙船最高議会「鳳老院」その5人である。


 「夕源よ。貴様が居ながらこの体たらく…。この船を任すには些か目も当たられぬ状況よの?」

 「申し訳ございません。不徳上帝(ふとくじょうてい)


 5人のうち、一番大柄で中年男性のような見た目の「不徳上帝」という仙人が夕源さんに厳しい言葉を浴びせる。

 

 「それで?この状況どう落とし前をつけるつもりだ?そこの、礼儀もならん子供の二つだけの命で済むと……思うまいな?」

 「……」


 夕源さんは言葉を返さない。

 当然だ。鳳老院は僕とアスだけではなく、クミさん達にも責任を取らせようとしている。

 クミさんとボーガスさんはこの仙船において英雄だ。夕源さんの口からその英雄を差し出す言葉が言えるはずもない。


 沈黙が続き、答えを出さなければならない。

 夕源さんが重く、苦しい決断を口にしようとしたその時。


 「お待ちください。全ての責任はこの私にあります」

 「っ!?夜宵?何を…」


 突然面を上げて話し始める夜宵に、夕源さんは戸惑う。

 それを見て、不徳上帝は不敵な笑みを浮かべながら、夜宵の話に耳を貸す。

 

 「おお、貴様は(えい)一族の面汚しではないか。久方ぶりにその顔を見せたかと思えば、その口からは、出任せしか出てこぬようよの?」

 「いえ、出任せなどではございません。この私の身に余る力は、鳳老院の御方々(おんか

たがた)の方がよくご存知かと存じ上げます」


 僕にとっては話が見えてこない。しかし、夕源さんの顔を見れば、ことの重大さが理解出来た。

 夜宵さんは何かしている。それは恐らく僕達を守る為に。

 

 「よし。そこまで言うのなら貴様に事情を聞くとしよう。『鉤爪』!子供はもうよい…(えい)夜宵(やよい)を捕えよ」

 「お、お待ちください!夜宵!どうなってるんだ!」


 夕源さんの言葉も虚しく、夜宵さんは縄で縛られ、そのまま鳳老院と共に歩いていってしまう。


 まだ話したいことは山ほどある。その背中を追おうとするも、僕の意識は限界に達する。

 やがて視界が狭まり、完全に闇へと葬られる。


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