第34話 時は進む
物語は半年前に遡る。
帝国騎士団に護送された最悪の罪人「洗脳」ドロ・ディレティロ。その周囲を帝国宝剣をはじめとする騎士が厳重に警戒していた。まさに逃げ場のない監獄のような状態。
彼らは中央帝国へと続く街道を進んでいた。
「では、我々はここで分かれる。良いか?決して油断することが無いように」
「ハッ!」
帝国宝剣は最上位貴族であり、自身の祖父であるクレアデス・アンストースを護衛するため、極少数の騎士団員と共に別の街道を進む事になった。
中央帝国までは5時間も進めば到着する。この距離ならば、例え逃げ出しても見つけ出し即刻処刑することが出来る。そう判断した。
それが間違いだった。
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最悪の罪人の護送失敗及び襲撃事件の報告書
○帝国宝剣と別れて約2時間後。1人の人影を確認。騎士団員は商人だと判断し、警戒せず。
「ん?おい、前に人が居るぞ」
「あ?商人だろ?近づいたらこの馬車を目にした途端避けるだろ」
○そのまま直進。
近くになっても商人が動こうとしないので団員の1人が声をかける。
「おーーい!護送車が通る!道を開けよ!」
○呼びかけには応じず。更に距離が近まり、団員が商人を不審人物と認定。馬車を止めず、強行突破を試みる。
「退けー!!さもなくば、押し通る!」
「返事がねぇな…。ここまで来て退かないなら、どちらにせよ不審人物だ!轢き殺せ!」
護送馬車 一台
警護馬車 三台
全壊
帝国騎士団員 18名
最悪の罪人ドロ・ディレティロ
以上19名 死亡
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「あらまぁ〜轢き殺そうとしてくるなんて野蛮やな〜?ほんま…堪忍やで」
馬車の車輪が当たる次の瞬間。馬車は粉々に粉砕され、団員と「洗脳」は外へ放り投げ出される。
「がはっ!」
何が起こったのかわからない中、土煙の中から薄気味悪い笑みを浮かべた男が話しかけながらこちらに歩いてくる。
「誰だ貴様!我らが帝国騎士団員と知っての攻撃か!」
「知ってるで〜?だから襲ったんやもん」
「余程の命知らずのようだな!斬り殺してや」
ザシュッ。ボトボトボト。
刃を向けた団員は突然体が崩壊し、肉塊へと姿を変えた。
そこに存在するのは肉塊へと変わり果てた団員と血溜まり。そして、目の前の事実にただ怯える他の団員。
「俺の力で気に入っとる部分は、手を汚さずに済むとこや。大抵の雑魚相手にゃ、これで十分やからな」
「な、へ?ば、化けも!」
ザシュッ。ボトボト。
程なく他の団員も肉塊へと変わる。彼が一目見た相手は全員、人成らざるものへと変貌した。
「さてと……おーい?どこに行ったんや……あ〜〜!おったおった!」
粉々になった馬車の瓦礫の下に埋もれていた「洗脳」を見つけ出し、彼に話しかける。
「おや……私を殺しに来たのですか?」
「もちろ〜ん。雑魚は必要あらへんもん。役割ひとつ果たせないカスは死んどったらええねん」
「はっ。酷い言われようですね」
拘束され、身動きが取れない。ドロ・ディレティロは悟った。ここが舞台の幕引きという事に。
「じゃあ、おやすみちゃん。ドロ・ディレティロ」
彼が目を合わせた瞬間。他の団員同様に体が崩壊し、「洗脳」は死亡した。
「さぁて…報告に戻りますか……。セティヌスに…どんなイレギュラーがおったんやろ……なぁ?」
○ ○ ○
結婚式から数日後、夜鯨の死体が消え、僕達はようやく旅に出ることが出来る。
街を出て行く際には、大通りを大勢の人達が集まり、見送ってくれた。騎士の凱旋パレードのようで少し恥ずかしかったが、僕達がこの都市を守ったと言う事実が何よりも嬉しかった。
門の所にはナバロウさんとヴァロニスさん。その隣にリュウさんと、エルアナさんとヒルマさん。そしてグリクスさんが僕達のことを待っていた。
「寂しくなるのぉ。が!今生のれではあるまい。達者でな」
「ええ。ナバロウさんもお元気で」
クミさんはナバロウさんと最後の挨拶を。僕は、エルアナさんとヒルマさんに改めて挨拶を言った。
「お二人ともお幸せに!」
「ええ。また君と会える日を心待ちにしてますわ」
「君には感謝仕切れないよ。本当にありがとう!」
後ろでは、グリクスさんとヴァロニスさんが何やら話をしていた。
「何を話してるんですか?」
「ノアくん…。実は、ボクも旅に出るんだ。ナバロウ様を守れなかった…。実力不足を痛感したよ。だから、一から鍛え直すのさ」
「そうなんですね。じゃあ一緒に!」
「いや、この旅はボク1人で行こうと思う。せっかくのお誘いありがたいけど、1人で乗り切らなきゃダメなんだ」
それがグリクスさんの覚悟なのだろう。これ以上邪魔しては悪い。僕は手を差し伸べ、握手を求める。
「では、また会いましょうね」
「ああ。必ず」
僕との固い握手を交わした後、グリクスさんは先に旅立った。その羽は大きく、空を力強く掻き分け風を掴んでいた。
「では、私達も行きましょうか」
クミさんの呼びかけでそれぞれ挨拶を済ませ、馬車へと乗り込む。
僕も乗り込もうとした際、ヴァロニスさんから声をかけられる。
「ノアくん。本当に今回は助かった。君が困ったときは呼んでくれ。必ず役に立つと誓おう」
元帝国最強の剣士の言葉は重みが違う。仮に呼んだら、全てを1人で解決してしまいそうだ。
「それと……もし、バンロと会うことがあったら伝えてくれないか?私とリュウはいつでも力になる…と」
「………はい!ヴァロニスさんとリュウさんもお元気で!」
僕は名残惜しいさを胸にしまい、馬車へと乗り込んだ。
窓からは街の人達が見えなくなるまで見送ってくれていた。この半年間。あっという間に時間は過ぎ、気がつけば都市セティヌスはただの通過点ではなくなっていた。
○ ○ ○
馬車が走り出して少しした頃、星座の夜鯨との戦いがあったあの切り株の場所へと来ていた。道は綺麗に整備されているが、切り株から伸びる大地の切り傷は当時の激しさを物語っていた。
そんなは景色を窓からのぞいていると、香薬がテーブルに何かを広げはじめる。
「ん?なにそれ?」
「これはね〜クッキーだよ!リュウさんに習ってたんだ〜」
この半年間で香薬はリュウさんと仲良くなり、料理を習っていたらしい。
クッキーはとてもいい香りがして、可愛らしい形をしている。どれも美味しそうだった。一口頬張ると、香ばしい香りが口いっぱいに広がり、後から上品な甘みが感じられた。なんか…胃袋をがっちり掴まれそうだ。
「おいしいよ!すっごくおいしい!」
「やったー!これからは隣でずっと作ってあげるね!」
「え!?それは…ちょっと違うんじゃ?」
「これは逃げられないね〜ノア」
香薬から熱い視線を感じる。それを面白がるアニーナ。そして、笑い合うボーガスさん、ジン、クミさんと眠るアス。
僕達の旅はまだまだ始まったばかりだ。アスを絶対に治してみせる。
窓から見える景色は僕達が話し込んでいる間に、どんどんと移り変わっていた。




