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魔王と勇者が死んだ後、俺が世界の主になる  作者: 我妻 ベルリ
第一章 ヘルエア島の少年編
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第15話 勇者の弟

 本来なら、まだ水銀の毒で動けないはず。

 体は痛い…筈だけど今は感じない。

 皆んなは?まだ動けないのか?傷の具合は?


 いや、今は全部どうでも良い。

 

 チャックマンが自分の命を使って時間を稼いでくれた。

 皆んなが動けるまであと3分。絶対に、死んでも稼ぎ切る。

 チャックマンの命を繋ぐ!


 「一門!岩砕砲(ストーンキャノン)!三発!」


 三発の岩の砲弾が、シルヴァト…の地面に突き刺さる。

 地面は砕かれ、粉塵が僕のことを匿う。僕は足音を悟られぬ様、すかさず魔法を放ち続ける。


 「一門!岩砕砲五発!」

 「チッ…小賢しい真似を…」


 粉塵と炸裂音で、シルヴァトは僕の事を見失う。背後に立った僕は腰に刺さる鞘に手をかけ、地面を深く踏み込む。


 「水仙(すいせん)流 流水放閃(りゅうすいほうせん)!」


 砂煙の中を一気に駆け抜け、シルヴァトの首目掛けて剣を振り抜く。

 ギィイン!

 僕の剣はあと数センチの所で、シルヴァトの剣に塞がれる。


 「人間の小僧にしては上出来だな」

 「くぅっ!ダメか…!」


 腹部に鈍痛が走り、僕の体を浮遊感が襲う。

 蹴り飛ばされ、宙を舞っていた。

 呼吸の仕方を一瞬忘れた様に息が吸えなくなる。痛みに耐えながら、僕はなんとか地面に着地する。


 「かはっ…!ゴホッゴホ!」

 「おい。人間の子供よ。貴様は先程まで私を恐怖していた筈だ。なのに何故、今私に向かって刃を向ける。何故そんな顔ができる」

 

 深く息を吸って呼吸を整える。そして、顔を上げてシルヴァトを見つめる。

 僕は今どんな顔をしているんだろう。チャックマンを殺された事に対しての怒りの顔?悲しみの顔?それともまだ怯え、恐怖した顔?

 多分どれも違う。

 チャックマンを殺された事に怒ってないわけじゃ無い。悲しいし、憎いし、まだ目の前の悪魔に恐怖している。

 でも、僕は今………こいつを倒したいと思ってる。

 負けたく無い。ここで終わりたく無い。そう感じてる。


 「僕は……お前を…倒す。僕は………ここじゃ終われないんだ!」

 「そんなものが恐怖を克服したのか……。ふっ、人間の中でも子供はもっとわからんな」


 シルヴァトは静かに剣を僕に向ける。冷たい殺気を放つ悪魔に僕も刃を向ける。


 「なんだ…?ありゃ…」

 「あれって私の…構え?」


 バンロと香薬(かやく)はノアの構え方をみて、思わず言葉を漏らす。

 右手で剣を、左手で魔法を使う。バンロさんと香薬さんの二刀流を参考にして、今咄嗟に構えてみた。ぎこちないが、今の僕には丁度いい構え。


 「ふんっ。クミ・ヴィバールと言い、貴様らは剣士なのか、魔法使いなのかわからん構え方をするな…」


 これでいい。今、僕が出来る全てをぶつける。

 右手で水仙流の構えをとりながら、左手の杖で詠唱を始める。


 「仙泉(せんせん)の力。汝の力をここに費やさん。この手から零れ落ちる生も魂も、集め、拾い、固め、ここに呑み込もう…………」


 この1週間で出来ることはした。魔法の勉強も、新しい魔法の習得も。その魔法は結局使いこなすことは出来なかった。

 なら、今ここでやってみれば良い。この場で成功させれば!


 「長い詠唱…魔力の高まり…完全詠唱か。大技を放とうとしているらしいが、私がそのまま詠唱を見守るとでも?」


 シルヴァトは剣に水銀を纏わり付かせ、その剣を振り下ろした。

 地面を割りながら、僕に向かって水銀の斬撃が迫る。

 右手の剣に全集中を注ぎ、剣を構える。

 深く呼吸し、恐怖を払拭する。

 目の前まで迫った斬撃に剣を合わせて、受け流す。


 「水仙流!仙王(せんのう)(ことわり)の流し!」


 斬撃と剣がぶつかった瞬間、剣をつたって右腕に、体に耐え難い衝撃が襲う。骨が(きし)み、肉が張り裂けそうになる。


 「ぐぅ……ああああっ!」


 ギリギリの所で水銀の斬撃を上後方に受け流す……が、完全には流せなかった。

 斬撃は僕の右肩を掠め、肩と骨を抉り裂いた。傷口から鮮血が吹き出す。


 「ああああっ!ぐっ…がぁああ!!」


 痛みから自然と声が溢れる。右肩から力が無くなり、右手がぶら下がる。

 血が腕を伝い、手のひらから、ぽたりぽたりと血が滴り落ちる。生暖かい感覚が右肩に広がる。

 それでも左手に魔力を注ぎ続ける。自分の海の様にある魔力を限界まで溜め込む。

 シルヴァトは、自身の周りに漂う水銀を一点に集め、それを僕に向かって放った。


 「四門(しもん) 断罪・没収の銀罰(ぎんばつ)

 「源海(げんかい)の雫。我の始まりよ、ここに集い、恵みを与えん。三門!源子圧海(げんしあっかい)の一滴!」


 僕の杖から限界まで圧縮された水の弾が高速で撃ち放たれる。

 二つの魔法は空中で入れ違い、シルヴァトの右胸に、僕の左胸にそれぞれ着弾する。

 放たれた水銀は僕の胸を貫通し、僕の体は後ろに倒れ込む。

 

 視界には迷宮の天井が映り、段々ぼやけてくる。

 呼吸しようとすると、ヒューヒューと変な音が鳴る。空気が入ってこない。まるで穴の空いた風船に息を吹き込んでいる様だ。


 「ヒュー……ヒュー……ゥー………」


 あれ……?…なんか…………眠く…なって………。



 

 いくら潜在能力があるとは言え…今のノアにはここが限界か…。いや、異常なほどか?

 ノアが意識を失った今。ようやく俺の意識を表に出せる。

 ここで死なれる訳には行かない。まだ俺の復讐が残ってるからな。ノア。




 「ノアッ!!」

 「安心しろクミ・ヴィバール。まだ息はある。もう虫の息だがな」

 「お前だけは……ッ!……私が首を落とす!」

 「その震える腕でか?お前達じゃメシア騎士団にはなれない」

 

 3分が経過し、チャックマンの残した回復魔法が体から消える。

 痛みは安らぎ、やっと満足に立ち上がることができる。まだ頼りない脚を奮い立たせ、徐々に力を注ぐ。剣を構え、シルヴァトを睨みつける。

 シルヴァトはノアの魔法を右胸に受け、血こそ吹き出したものの、すぐに止血して立ち上がっていた。


 魔族と人間の違い。それは根本的な体の構造の違い。角や牙、鋭い爪だけで無く、自然治癒力にも絶対的な差がある。

 魔族は回復魔法を使わなくとも、魔力を使い、肉体を変形させて傷を無かったことができる。魔力量にもよるが、魔族は致命的な怪我、毒、魔法でないと死に至らない。

 逆に、人間は擦り傷でさえ自然治癒力で治すのに時間がかかる。

 致命傷で無くても、小さな傷口から菌が入り、傷口を腐らせ、体を蝕み死に至らしめる。

 腕が捥げようと目を潰されようと生きながらえる魔族と、擦り傷や病気、ましてや心が落ち込んでしまうと死んでしまおうとする人間とでは対等に戦うことすら出来ないのだ。


 「おいクミ!感情で動くな!クミしかあいつと渡り合える奴はいないんだぞ!」

 「そうですね………冷静さを欠いていました…。ジンはシルヴァトの攻撃に合わせて防御!アニーナは後方から援護!アスは私の動きに合わせて連撃を加えてください。そこの…えーっと…おじさんと武器屋で会った人」

 「えぇ…おじさん…?名前はバンロだ。あんたと同じ剣士だ」

 「私は香薬(かやく)。私も剣士。ねぇ、私にはあの子を助けさせて。ノア君には借りがある。こんな所で見殺しにさせない」

 

 初対面の冒険者にノアの救出を任せる事に抵抗はあったが、今はそんな事を言ってはいられない。

 見た目だけでも、2人の実力は低く無いことはわかる。

 バンロと言うおじさんも、身につけている防具からも長年の冒険者だとわかる。

 香薬と言う女性は…目が一般人じゃない。それに、服の上からでもわかる逞しい肉体。

 2人に任せても問題はない。そう判断した。


 「貴方達は協力してくれるんですよね?」

 

 シルヴァトに視線を向けながらも、問いかける。その問いに2人のリーダーはそれぞれ返事する。


 「当然です。このフリンケル・シュタイン!クミ・ヴィバール様に僅かながら助力いたします!他の冒険者、騎士は下がって待機!多すぎても庇いきれない!」

 「俺に命令してんじゃねぇ………って言いてぇ所だが、仕方がねぇ。俺は銃で後ろから助けてやるからよぉ〜。射線に入ってきても俺は躊躇(ためら)わねぇからな?」

 「では、行きます!」


 それぞれの役割を与えられた冒険者が、目の前の敵に身構える。


 しかし、シルヴァトは全員を眺めてもメシア騎士団の面影を感じることはなかった。

 自身の乱れた服装を簡単に整え、右胸元に空いた穴を見つめる。

 それからペリースを外し、視線をクミに向ける。


 「そろそろ終いだ。5年間の戦いを終わらせようか…クミ・ヴィバール」


 シルヴァトは冒険者全員を目の前にして、恐怖しなかった。つまらない。そう感じてすら居た。


 しかし、シルヴァトも…クミ達も…この場にいた全員が止まる。

 次の瞬間、驚きと不気味さを感じざるを得なかった。



 クミ達の前、シルヴァトの背後で1人の男が立ち上がる。

 

 服を鮮血に染め、左胸には穴が開き、右肩は切り裂かれ生々しい傷が見える。


 起き上がるとすら思ってなかった人物が、剣だけを握りしめシルヴァトを見つめている。


 その光景に全員驚き、何故立ち上がれるのか。皆底知れない不気味さを感じ取っていた。

 

 「貴様…何故立ち上がっている。その出血……子供の貴様が意識を保てるはずが…」

 「あぁ〜これ?魔力で傷口を無理矢理塞いでいるんだ……です。長くは持ちませんが…その少しの間で十分です」


 魔力での止血は、俺が昔から使ってる応急処置方法だ。

 回復魔法は簡単に身につけられるものじゃない。体の構造を学び、傷の状態、適切な魔力操作が必要になる。

 その為、俺はよく無理矢理止血してその場を乗り切っていた。


 10歳の子供の体。流石に感覚の違いは感じるが、まぁなんとかなるか。

 それにしても、弟の体で戦う事になるとはな。未熟ながらも鍛え上げられた肉体。俺を超える魔力量。俺の仇を本気で討とうとしてくれる事が伝わってくる。

 そんな弟をここで死なせるのは勿体無いよな。


 「そんな荒技を…。それに先程までとは雰囲気も、目もまるで違う」


 シルヴァトは先ほどまでとは別人の様な子供を見て、自分よりも百年近く歳下の人間の子を(いぶか)しむ。


 「貴様………誰だ?」

 「マリ………勇者マリス・ファトリィブの弟。ノア・ファトリィブです」


 俺は剣を構える。

 俺が使っていた剣は、水仙流でも刀神流でも無い。ノアが身につけたはずのない剣流。白夜流だ。

 しかし、ここでそれを見せつけては怪しまれる。ぎこちない2つで頑張るか…。


 「勇者の………成程な」

 

 シルヴァトは剣に水銀を纏わせ、ノア(勇者マリス)に向かって、斬り下ろす。

 先程、ノアの肩を切り裂いた斬撃。ノアは受け流そうとしたが、同じ体でも剣の使い方と感覚でどうとでもなる。


 「刀神流 冥廷閃(めいていせん)


 水銀の斬撃…そして、その奥にあるシルヴァト諸共、(くう)を切る。

 シルヴァトの腹部から赤黒い血が溢れる。


 「がはっ…!?貴様…どこから」

 「そんな力が出るのかって?」


 俺は地面を勢いよく蹴り、シルヴァトの頭上で舞う。空中で体を(ひね)ると同時に技を繰り出す。


 「水仙流 渦竜(うずりゅう)

 「くっ…!」


 高速で振り抜いた剣を、シルヴァトは首を傾げて躱す。シルヴァトの片方の角が切り落とされ、地面にカランと音が響く。


 「あれ?首を狙ったのにな」

 「…貴様ッ!」


 シルヴァトの剣が着地した俺を捉える。

 が、俺はその剣ごとシルヴァトの肩から胸部を叩き斬る。

 剣が折れ、シルヴァトは後ろに飛び、俺と距離をとる。

 そんな戦闘をクミ達は呆然としながら見つめている。


 「クミさん…あれ、本当にノアですか?」

 「ノア………いや、まるで彼の様な」


 クミはかつての戦友、マリス・ゴールドとノアを重ねていた。

 目の前では、シルヴァトの水銀を捌きながら斬り詰めていくノアの姿。その剣捌き、動き方、雰囲気に至るまで、全てがマリスに酷似していた。

 気がつけば、あんなに苦しめられたシルヴァトは血汚れ、ノアとの立場は逆転していた。


 「あれ?もう終わりですか?」

 「ノア・ファトリィブ………貴様…手を抜いていたのか?」

 「いいえ。手を抜いていた…と言うより、何かに目覚めたって感じですかね?さぁそろそろ…ゴホッ…」


 俺の口の中に生々しい鉄の味が広がる。少し咳き込んだ後、血痰(けったん)を吐き出す。

 そろそろ限界が………。


 「ちょっと限界みたいですね………クミさん」

 「………え?」

 「後は頼んだぞ」

 「マリ……ス?」


 俺の意識と身体中の力は失われ、地に倒れ込む。

 クミも含め、その場の全員が困惑し、シルヴァトに意識を向けつつ、倒れたノアを心配する。

 シルヴァトはゆっくりと立ち上がりノアに視線を落とす。


 「なんなのだ…この子供は。ここまで追い詰められたのは久しぶりだな。そう………5年ぶりだな。いや?角を切り落とされ、これほど血で汚され、ここまで侮辱されるとは………。私も舐められたものだな」


 そう言うと、シルヴァトの周囲に水銀が舞い始める。しかし、先ほどと同じ全体攻撃を仕掛ける様な素振りもない。


 ただ。今まで感じたこともない魔力の高まりを感じ取っていた。


 「バンロさん!香薬さん!ノアを頼みます!全員戦闘体制!来ますよ!」


 クミの言葉に意識を目の前の敵に全集中させる。


 「七門(しちもん) 断罪・死刑の溶鉄殺(ようてっさつ)


 辺りに浮遊する水銀が熱を持ち始め、光と熱を放ち始める。

 どろっとした鉄が周囲を熱し、煌々と光る中、シルヴァトは平然としながら語り始める。


 「5年前ですら見せなかった私の最終の魔法だ。とくと見ると良い…」

 「まだ本気じゃねぇよかよ!あいつ!」

 「ジン!口を塞ぎなさい。熱気で喉が焼けますよ」


 肌が乾燥し、唇が裂けて血が滲む。呼吸すると、熱気が入り込み、喉の渇きを通り越して焼けそうになる。

 握っている(つか)が熱され、握れなくなりそうになる。

 

 「シルヴァト…ここで終わりにします!」

 「出来るものなら!」

 

 シルヴァトは義手を振りかざすと、溶けた鉄が波の様に押し寄せる。


 「ジンッ!」

 「天壁不動(てんへきふどう)!!」


 ジンは斧を振りかざし、壁を作り出す。これまで何度も助けられてきた強固な魔法の壁。

 そんな壁を、鉄の波は簡単に溶かし、打ち破る。

 体を焼き殺さんとする鉄の波がすぐそこまで迫る。

 間に合わない。この場で目の前の攻撃を防げる手段は無い。

 

 視界の片隅で、気絶したノアを運ぶ2人と皆んなの顔が映る。誰も目の前の敵になす術が……………。

 

 その瞬間、目の前に魔法の壁が築き上げられる。ジンじゃない。この壁を私は知っている。


 「天壁不動!!」

 「し、師匠!?」


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