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おとぎ話の悪役令嬢は罪滅ぼしに忙しい  作者: 石狩なべ
十二章:おとぎ話の悪役令嬢は罪滅ぼしに忙しい
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第20話 望んだ呪い



 あたしは、飴を見つめる。


 飴は、とても綺麗に輝いている。


「……」


 この飴は、願いを叶えてくれる飴だ。

 どんな願いでも叶うのだ。


 この世界には、オズがいた。

 けれど、いなくなった。

 でもいたのだ。


 魔法は確かに存在したのだ。


 ドロシーはいない。

 だから最後に手渡した。


 あたしの願いを叶えてくれる、最後の魔法を残した。


「……」


 この飴を舐めたら、あたしはどんな願いでも叶うことがわかった。


 だからね、例えば……そう。例えばの話。



 もうクレアと結婚したから、この世界を終わらせて、新しい世界にすることもできるの。


 そこで新しいクレアと出会って、またオズと戦って、またクレアと恋に落ちることもできる。


 でも、クレアでなくて、相手を変えることもできる。


 例えば、


 リトルルビィとか、

 ソフィアとか、

 メニーとか、

 ニクスとか、

 アリスとか、

 サリアとか、

 ドロシーとか、ね?


 世界をまるっと変えて、歴史を全く別物にして、あたしは自分で選択して戻った世界を壊したことすら全部忘れて、テリーとして別の世界を生きていくの。


 その世界では、あたしは貴族じゃないかもしれない。

 ただのお金持ちのお嬢様かもしれない。

 それで、


 キッドと恋愛するの。

 クレアと恋に落ちるの。

 リトルルビィと愛を楽しむの。

 ソフィアにメロメロなあたしがいるの。

 メニーに振り回されるあたしがいて、

 ニクスに片思いしたり、

 アリスに寄り添ったり、

 サリアといけない関係になったり、

 ドロシーと冒険にいく選択をした世界線に行けたり、


 この飴は、なんでも願いを叶えてくれる。


 これこそが最後の魔法。


 最後の、あたしを幸せな道へ導く光。


「……」


 あたしはよく考える。

 これを今舐めないと、永遠に消えてしまう気がした。


 だから、きっと、これが最後のチャンス。


 ドロシーは最後に狂気を残してくれた。

 あたしにとんでもない爆弾を残した。


 あたしは欲望に満ち溢れている。

 飴はそれを叶えようとしてくれている。

 なんて良い子ちゃんなのかしら。


 さあ、テリー。考えて。

 これが最後の魔法だ。


 呪いを受けよう。


 あたしの両手が上がっていく。


 ゆっくりと、飴が転がった。


 あたしの唇に触れる。


 両手が上がった。


 飴が、あたしの口の中へ入った。



 あたしは願った。









 どうか、これからもずっと、愛しいクレアと共にいられますように。












 飴が、溶けて、消えた。













「……ん……」


 クレアが唸った。


「んー……」


 クレアがもぞもぞ! と動き――あたしの胸に顔を埋めた。


「……ん……」


 落ち着いて、動きを止める。


「……ダーリン……」


 優しくクレアを抱きしめると、クレアもあたしに抱き着いた。


「ダーリン……」

「……クレア、まだ起きる時間じゃないみたい」

「んー……」

「一緒に寝ましょう」


 魔女は、愛しい人に囁く。


「幸せな夢を、共に見ましょう」


 朝が来れば、絶対に遅刻できない結婚式。きっと気が滅入るし、疲れるし、良い事は無い。


 けれど、彼女といる為なら、あたしはきっと胸を張って言える。


 この選択は、正しいのだと。


「……テリー」

「ん?」

「愛してる」

「……」

「むにゃ……」

「……ええ。あたしも愛してる。クレア」





 クレアと一緒なら、あたしはきっと正しい道を歩いていける。


 穏やかな日々を、きっと、過ごしていける――。








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