表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
おとぎ話の悪役令嬢は罪滅ぼしに忙しい  作者: 石狩なべ
十二章:おとぎ話の悪役令嬢は罪滅ぼしに忙しい
581/590

第14話 魔法を打ち砕く記録書


 あたし、余計なことだけは覚えていることが多いの。

 あの時、ドロシーは確かに言っていた。



「これがもしおとぎ話で、ボクが物語の作者ならば、二度目の世界にする時点で、オズの歴史を変える救世主を使わすね」

「これはおとぎ話じゃないわ。現実よ」

「そうさ。だから……」


 彼女はあたしに近づいた。秘密の話をするために。


「伝えておくよ」

「……何を?」

「知られちゃいけないこと」

「何の話?」

「君も知ってる魔法使いのルールがあるだろ? あれの類さ。知られちゃいけないんだ。でも、今の君は魔法使いもどきで、一応、枠に入ってるから知ってもいい」

「……誰かに言ったらどうなるの?」

「それ相当の罰を受けるだろうね。君も、知った相手も」

「……」

「だから、ある魔力を操ることしかできないクレアにも伝えてはいけない。リオンにも、リトルルビィにも、ソフィアにも」


 ドロシーが手を動かした。


「一度しか言わないよ。よく聞いて」


 あたしは耳を向けた。


「実はね」


 ドロシーが教えてくれた。


「オズは、自分の手で人間を殺すことが出来ないんだ。やらないんじゃない。やれないんだ」

「……」

「だから、オズは呪いの飴をみんなに配った」


 あたしは眉をひそめた。


「あいつは元々精霊の元から生まれた天使だ。当然さ」

「……」

「この情報をどう利用するのも君の自由さ。ただし、口には出してはいけない」


 オズは、天使であるがゆえに、人間を殺すことが出来なかった。

 オズは、だから人間を呪った。

 オズは、人間を信じていた。


 裏切ったのは、人間だ。


 オズは、絶望した。

 オズは、この世界に囚われた。

 オズは、この世界を壊せば家に帰れた。

 オズは、この世界を壊せば大罪を背負うことを知っていた。

 オズは、堕天使となり、二度と家に帰れないことをわかっていた。

 オズは、絶望の淵にいた。


 オズは止められない。

 どんなに手を尽くそうとも、あの魔法使いを止める術は一つだけ。

 この世界に、いなかった前提の世界を作り出すこと。


 それはすなわち、オズが帰った世界である。

 それはすなわち、オズがいなかった世界である。

 それはすなわち、オズを救出した世界である。


 なぜ、精霊は救世主を創ったのか。

 それは世界を続ける為。

 オズを家に帰すため。

 我が子を救うため。


 今のオズは、責任という名の鎖に囚われてしまっている。

 囚われる前ならば、帰すことが出来る。


 それはすなわち、救世主を創り出した理由。


 大丈夫よ。これは助言。




 全てを書き終えたあたしは、『覚えている範囲で出来事を書き綴ったノート』を見つめた。


「大丈夫よ。クレア」


 全てを知ったあたしは、笑みを浮かべる。


「ドロシーを信じて」


 ノートを落とした。





 ノートは――八年前の、レッドの眠るゴミ捨て場へと、落ちていった。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ