表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
おとぎ話の悪役令嬢は罪滅ぼしに忙しい  作者: 石狩なべ
九章:正しき偽善よ鐘を鳴らせ(前編)
435/590

第12話 思い出1










「お出かけしましょう」

「やったー!」

「メニーは行かないの?」

「テリー、メニーは行かないのよ。家のことをしなくてはいけないから」

「そう」


 あたしはメニーにきいた。


「ねえ、メニー、お買い物に行くんですって。なにか買ってきてほしいものはある?」

「……」

「あたしはね、ドレスとくつを買うの。メニーはどうする?」

「……だったら」


 メニーが答えた。


「お姉さまの頭にあたった木の枝を、わたしにくれる?」

「木の枝? そんなものでいいの?」

「うん」

「あんた、変わってるわね。わかったわ」


 三人で馬車に乗り、街へと出かける。あたしとアメリが好きなだけお買い物をする。豪華なものを身に着けて、豪華な身なりをする。堂々と胸を張って、貴族と平民の違いを見せつける。


 歩いているときに、あたしの頭に木の枝が降ってきた。痛いと思って見上げたら、空がとってもきれいでね、あたし、足元に落ちた木の枝を拾ったの。メニーが木の枝がほしいって言ってたわ。これでいいや。


「あ、でも」


 あたしがメニーになにかをあげるならいいわよね。あたしはお菓子を指さした。


「ママ、お菓子がほしいの。チョコレートがいいわ」

「お菓子はだめよ。体に悪いもの。ドリーにケーキを作ってもらいましょう」

「はーい」


 でもあたしは悪い子だから、ママとアメリが見てない隙にドリーム・キャンディと看板が書かれたお店に入って、お菓子の棚からチョコレートを持っていった。


「これ、ちょうだい!」

「はいよ。袋はいる?」

「このままでいいわ!」

「はい、どうも! まいどね!」


 にこやかにほほえむおばさんからチョコレートを受け取ったあたしはかわいい鞄のなかにいれて、ママたちのところにそれとない顔でもどっていった。


 屋敷に帰ると、さっそく部屋の掃除をしていたメニーをつかまえて、裏庭につれていった。


「メニー、これ木の枝よ」

「ありがとう。お姉さま」

「ねえ、あんたおなかすいてない?」

「え?」

「あたしはすいたわ」


 あたしはハシバミの木に唱えた。


「ゆすって、ゆすって、若い木さん、銀と金を落としておくれ」


 あたしはロープをとめがねから外し、バスケットを下ろした。そこには、銀と金の袋に包まれたチョコレートが入っていた。


「あら、チョコレートだわ!」


 あたしはそれを手にのせて、メニーに差し出した。


「あたしいらないからあげる!」


 メニーがあたしを見た。あたしは笑顔で言った。


「あげる!」

「……ありがとう。お姉さま」


 メニーがチョコレートを受け取った。


「魔法の木もきっと機嫌が良かったのね。だからチョコレートをだしてくれたんだわ」

「……ありがとう」

「溶けないうちに食べて」

「お姉さまも食べて」

「あたしはいらないわ。お腹いっぱいなの」

「……それじゃあ……」


 メニーがチョコレートを食べた。すると、大きな目がもっと大きくなって、ほおをゆるませた。


「おいしい」

「あたしに感謝して食べてね」

「うん。ありがとう。お姉さま」


 その夜、ママに言われた。


「テリー、メニーにお菓子をあげてはいけません」

「え? どうして? ママ」

「体に悪いからだめよ」


 きっとアメリがチクったんだわ。最悪。


「ちがうわ。あたし、メニーに頼まれたの。だから買ってきてあげただけなのよ」

「まあ、そうだったの?」

「そうなの。あたしは、メニーに言われたから買ってきてあげただけなの」

「テリー、メニーを呼んできて」

「はーい」


 メニーにママが呼んでると言って、ママの部屋につれていった。あたしはどんな話をするのかと思って、好奇心からその場に残って、ドア越しから会話を聞いた。


 そしたらね、


 悪魔の声がきこえたの。


 ――お菓子をねだるなんて、なんてはしたない子なの!

 ――ちがいます! わたし、そんなこと言ってません!

 ――おだまり!!


 なにかを叩く音。あたしがきらいな音。あたしは口をおさえた。叩く音が聞こえる。あたしは顔を青ざめた。悪魔の声がきこえる。あたしは魔法にかけられて動けなくなる。

 そして、こう思ったの。どうしてこんなにメニーが怒られるの? って。


 ママは前までメニーに笑顔だったじゃない。一体、なにがおきたの?


 メニーの泣きながら謝る声がきこえてくる。

 あたしはそっとママの部屋から離れた。

 それから、あたし、メニーと少し話しづらくなっちゃって。


 だって、なんて声をかけていいかわからない。


(でも、家族なのにいつまでもこんなんじゃだめよね)


 謝らなきゃ。

 メニーは今日も階段を掃除している。

 あたしはひらめいた。……メニーをおどろかせよう! 部屋からびっくり箱をもってきた。気付かれないように抜き足差し足忍び足で近付いた。そして、メニーを呼んだ。


「ねえ、メニー」

「え?」


 メニーがふり向いた。あたしはしめしめと思って、箱をあけた。なかからクモのおもちゃがメニーに向かって飛び出した。


「きゃっ……!!」


 メニーがおどろいて、後ろに下がった。


(やった!)


 やーい。メニーの間抜け面! うふふ! って笑おうとしたら、――メニーが階段から転げ落ちた。


「あっ!」


 あたしは手を伸ばしたけど間に合わない。メニーがごろごろと転がっていく。


「あっ、っ、あっ……」


 あたしが声を出すうちに、メニーが一番下まで無様に落ちた。呆然として動けないでいると、廊下からメイドが駆け込んできた。


「メニーお嬢さま! ああ、なんてこと!」


 メイドがあたしを見上げた。


「大丈夫です……」


 メニーが言った。


「わたし……大丈夫ですから……」

「手当をしましょう!」


 メイドが一瞬あたしを軽蔑するまなざしで見上げ、すぐにメニーに視線をもどした。


「さあ、こちらへ!」


 メイドがメニーをそそくさと連れていった。まるであたしからメニーを離れさせようとしているみたいに。


(あ、あたしも、行かなきゃ……)


「テリー!」


 うれしそうなアメリが向こうから歩いてきた。


「ママがお買い物に行くんですって! 支度して!」

「あ、あたし、行かない……」

「え?」

「め、メニーが、階段から落ちたの、だから、あたしも行かなきゃ……」

「え! 階段から落ちたの? どんなふうに? いいな! わたしも見たかった!」

「え?」


 あたしは顔をこわばらせた。


「なに言ってるの。アメリ。メニーが階段から落ちたのよ。あれはきっと、ケガしてるわ」

「わたしには関係ないもん」

「な、なんでそんなこと言うの! ひどい!」


 あたしはなみだを落とした。


「ぐすん! ぐすん!」

「ママー! テリーがまた泣いたー!」

「ふええん! うええん!」


 ママが来たからあたしは事情を説明した。あたし、ママにすごく叱られると思ったの。妹になんてことするのって言われると思って。でも、ママはこう言った。


「テリー、今後は気をつけなさい」


 ……。


「それだけ?」

「さあ、お買い物に行きましょう。好きなものを買ってあげるわ」

「ママ、メニーにお医者さまを呼んであげて。お願い」

「くすりがあるから大丈夫よ」

「階段から落ちたのよ。きっとケガしてるわ」

「テリー、大丈夫よ。メニーはね、大げさなところがあるの。だからくすりで大丈夫なのよ」

「でも」

「テリー」


 はっとした。ママが悪魔になってあたしを見下ろしている。


「お買い物に行くわよ」

「……はい。ママ」


 あたしはママに従った。


 いつもの道を馬車が歩く。

 ドリーム・キャンディと書かれた看板が掲げられたお菓子屋が、あたしの視界に入った。チョコレートを買ったお店だ。


 でも、あたしは目をそらした。


 ママはときどき悪魔になるの。

 あたし、ママがこわいの。

 叱られたくないの。


 だから、あたしは目の前だけを見た。

 

 ママの言うことが正しいの。

 きっとそうなの。

 あたしは従うわ。


 はい、ママ。










「やあ、テリー。ボクが見えるかい?」

「……」

「ふうむ」

「……」

「こら、ジャック、やめるんだ。手を出したら痛い目にあわせるよ」

「……」

「はあ……。……ジャックはいいカモがもどってきて興奮状態だし、テリーはこんな調子だし、……またこの村にもどってきてしまうし……。……城下町ならともかく、ここで大きな魔法は使えない。ふうむ。……しばらくは様子見だな」



 ――ケケケケ!!



「ジャック、もどるんだ。さあ、行って。いい加減にしないとボクも怒るよ」




 オオカミの遠吠えがきこえる。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ