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おとぎ話の悪役令嬢は罪滅ぼしに忙しい  作者: 石狩なべ
八章:うたかたのセイレーン(後編)
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第18話 スラム街の少女


 アマンダは、スラム街で生まれた。

 アマンダは、すぐ暴力を選択する両親の元に産まれた。

 アマンダは、妹の世話を任された。

 アマンダは、妹の顔を見る。妹だけは自分に笑ってくれた。

 アマンダは、妹が大好きだった。

 アマンダは、妹といつも一緒にいた。


 アマンダは、ある日木の実を取りに行った。

 アマンダは、危ないから地面に妹を置いた。

 アマンダは、暴動に巻き込まれた妹が、為す術もなく踏み殺されるのを木の上から見つめていた。

 アマンダは、絶望した。大好きな妹が死んでしまった。

 アマンダは、絶望した。両親に殴られるのが嫌だった。

 アマンダは、死んだ女の腕に抱かれていた赤ん坊を見つけた。

 アマンダは、その赤ん坊を、妹の名前で呼んだ。


 イザベラ。


 アマンダは、親から罪をバレることは無かった。

 アマンダは、今まで通りイザベラを育ててきた。

 アマンダは、イザベラを見る度に大好きだった妹を思い出した。

 アマンダは、思った。なんで死んだのは妹だったのだろうと。

 アマンダは、イザベラに連れられてスラム街を出た。

 アマンダは、過去から解放された。

 アマンダは、イザベラと二度と会わない事を決めた。

 アマンダは、第二の人生を歩もうと思った。真面目に働いて、全てを忘れるのだ。

 アマンダは、働いた。成人すれば、就職も出来た。

 アマンダは、恋人が出来た。

 アマンダは、何もかもが順調だった。


 イザベラが壊した。

 

 アマンダは、驚いた。部屋にイザベラが逃げ込んできたから。

 アマンダは、警察を呼んだ。イザベラのストーカーが逮捕された。

 アマンダは、イザベラが契約している事務所から、どうかマネージャーとして彼女を支えてほしいと言われた。給料も倍となる。

 アマンダは、雇用条件が良かったので、YESと返事をした。

 アマンダは、イザベラのマネージャーになった。

 アマンダは、就職先で培ってきたスケジュール管理と営業をこなした。

 アマンダは、これならイザベラの側にいてもいいと思った。


 恋人がイザベラを好きになった。


 アマンダは、人生が崩れていくのを感じた。

 アマンダは、恋人と別れた。

 アマンダは、一人で考える。イザベラは輝いている。

 アマンダは、思う。本当は暴動で死ぬはずだったイザベラは、何も知らずに、のうのうと天狗になって歌を歌っている。


 妹を思い出す。

 大好きだった妹を思い出す。 


 イザベラが壊した。


 イザベラさえいなければ、妹は死んだと認知され、墓を作ってもらえた。

 イザベラさえいなければ、自分は妹を忘れ、前を向くことが出来た。

 イザベラさえいなければ、自分は自らの足でスラム街から出たかもしれない。

 イザベラさえいなければ、自分の人生は上手くいったのだ。


 全部イザベラが悪いのだ。

 イザベラが妹を殺したのだ。

 イザベラがワタシの人生を壊したのだ。


 だったら、ワタシも壊してやる。

 お前の人生を壊してやる。


 そんな時に現れたのだ。紫の魔法使いが。


「可哀想に。これを舐めてごらんなさい。たちまち幸せが訪れる。けれど、まあ、よく考えてお舐めなさい。あなたはまだ地面に立つ足を持っている。これを舐めるか否か、それはあなたに任せましょう。けれど、本当に助けが必要と思った時には、舐めてごらんなさい。あなたに幸せが訪れる」


 アマンダは考えた。まだやれるか。

 アマンダは考えた。まだ自分で立ち直せるか。

 アマンダは時計を見た。あと五分で仕事だ。

 アマンダは思った。あと五分で、イザベラと顔を合わせなくては。


 アマンダは飴を口に入れようとした――直後、助言者が現れた。


「ただ仕返しするだけなんて、つまらないわ。苦しめるならずっと苦しめ続けないと」


 それは、青の魔法使い。


「そっちの方が楽しいでしょう?」


 アマンダは頷いた。


「だったら、こうしましょう。イザベラに永遠の命を与えてやるの」

「そしてあなたも」

「二人は不老不死」

「あなたはイザベラに良い顔をし続ける」

「その裏で、あなたはイザベラを苦しめ続ける」

「イザベラには直接手を下さず、イザベラの周りの人達に手を下す」

「イザベラの好きな人を殺したら、あいつどんな顔をすると思う?」

「イザベラに家族が出来て、その家族を皆殺しにしたら、あいつどんな顔すると思う?」

「楽しみよね」

「不老不死のなり方はわたくしが教えてあげる」

「これをあげるわ」

「魔法のハープって言うの」

「これさえあれば、何があっても大丈夫よ」

「うふふ!」

「さあ、あなたの幸せが待っているわ!」


 アマンダは思った。神は、まだワタシを見捨ててはいない。


「永遠の命を求めて!」


 青の魔法使いの声と共に、アマンダは飴を舐めた。




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