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おとぎ話の悪役令嬢は罪滅ぼしに忙しい  作者: 石狩なべ
八章:うたかたのセイレーン(前編)
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第5話 リゾートへご招待


 正午、宮殿から迎えが来て、笑顔で手を振りながらリオンが馬車に乗った。おそらく彼はそのまま病院行きだろう。この日のために無理矢理退院したそうだし。


「名残惜しいよ。テリー」


 あたしの頬に手を添わせ、キッドが王子様らしくキラキラのオーラを放つ。メイド達が眩しそうに目を細ませた。


「愛しい君とまた離れてしまうだなんて、ああ、寂しくて仕方ない。抱きしめてもいい?」

「嫌です。殿下」

「そうか。君もそんなに私の事を想ってくれているなんて。それはそれはどうもありがとう」


 キッドがあたしを抱きしめ、耳元で囁いてきた。


「昨晩はお前を想って眠ったんだ。同じ屋根の下にお前がいると思ったら、もう、……とても胸がドキドキした。昨日の夜言えなかった分まで愛を伝えるよ。テリー、俺の姫。心から愛してる」


 ぎろりと睨めば、キッドの口からキッドじゃない声が出た。


「こうでもしないとお前に伝えられない。今だけ許せ」

「……あたしが好きなのはあなただけよ」

「当然だ。……愛してるわ。ダーリン」


 誰にも聞こえないくらいの小さな声で囁かれて、耳にキスをされて、ようやくキッドを演じるクレアが馬車に乗った。ビリーもお辞儀をし、御者席に乗り、馬を動かした。馬車が動き出すと、記者達が一斉に馬車を追いかけた。ママは馬車が消えるまで頭を下げ続ける。


 その時、メニーがひそりとあたしに耳打ち。


「……お姉ちゃん、ごめん。あのね、……耳に虫さんがついてる」

「……」


 馬車が見えなくなった瞬間、あたしは速攻でメニーに振り返った。


「なんですって!!!!?」

「逃がしてあげていい?」

「まだいるの!!??」

「うん」

「取って! メニー! 早く!!」


 メニーがハンカチを出してあたしの耳を包んだ。クレアにキスをされた耳が丁寧に拭かれ、メニーがハンカチを取って、ぱたぱたと振った。


「はい。飛んでいった」

「……助かったわ。流石メニーね。どうもありがとう。あんたは本当に出来た妹だわ。もう、今日もすっごく愛してる」


(虫さんを見つけた時点でてめえが気を遣って取りやがれ! 報告されたって、王族の馬車がまだいなくなってないうちは動けないでしょ! この馬鹿!!! 使えない女ね!!! 全く!!!)


 鷲掴みにしたいところを我慢して頭を撫でてあげれば、メニーが柔らかく微笑んだ。


(……相変わらず美しい笑顔だこと)


 妬みがあたしの胸を食い漁る。


「はあ、終わった。終わった」


 アメリが伸びをした。


「一大イベントが終わったわ」

「みんな、お疲れ様」


 クロシェ先生がにこにこ笑って、ママの隣に立った。そして、ママがこめかみを押さえながら言った。


「早速だけど、全員、屋敷に入りなさい。話があります」

「あら、ママから重大発表なんて何かしら。お小遣いの額が上がるの?」

「どうせろくな話じゃないんでしょ」

「お姉様、お姉ちゃん、ちゃんと聞こうよ」

「話があるのは、私なの」


 クロシェ先生の一言に、三姉妹がきょとんとした。


「実はね、奥様と話し合ったんだけど、……今年で、アメリアヌは16歳、テリーは15歳。二月で、メニーは13歳。私は四年前からあなた達の勉強を見させていただいていたけれど、15歳以上の範囲は、もう私の教えられる範囲ではないの。だから、去年からアメリアヌには専門の先生がついたでしょ。テリーにもマナーの先生が。メニーが15歳になるまで私はここにいるつもりだったのだけど」


 クロシェ先生が微笑み、胸に手を当てた。


「先日、お付き合いをしている方にね、婚約してほしいと言われたの」


 あたし達は息を呑んだ。だって、――その報告はあまりにも衝撃的で。


「ということは、先生……」


 アメリが目を輝かせて、両手を握った。


「結婚されるんですか!?」

「婚約指輪は貰ってるの。だから、……そうね。あとは式を挙げて、籍を入れて、……私は彼のパートナーになる」

「素敵! おめでとうございます!」

「おめでとうございます! クロシェ先生!」

「ありがとう。アメリアヌ。メニーも」

「……」


 クロシェ先生があたしを見た。


「テリーは言ってくれないの?」

「……驚いただけです」


 あたしはクロシェ先生を見上げる。


「ご婚約、おめでとうございます」


心から伝える想い。この言葉を言える日が来るとは正直思わなかった。だって一度目の世界で、クロシェ先生は死んでいたから。


「ありがとう。テリー」


 生きているクロシェ先生は、嬉しそうに笑った。


「うふふ。話を続けるわ。……あのね、まずこの報告を、私は奥様にさせていただきました。そしたら奥様が提案をしてくれたの。二年後の三月に、リゾート地がオープンするでしょう? 少し期間は開くけど、そこで挙式を開くのはどうかしらって」


 ……。

 あたしの片目が痙攣した。


「先生」

「はい。テリー」

「それは、つまり」


 詰まる言葉を出す。


「カドリング島で、結婚式をするという事ですか?」

「彼も賛成してくれたわ!」

「カドリング島で結婚式!?」


 流石のアメリも片目を引き攣らせた。


「クロシェ先生、悪い事は言いません。あの島、本当に厄介な島でして、結婚式は首都の教会でやった方が良いと思いますわ」

「カドリング島の歴史については何度も聞いてるわ。この四年間、私も何度も行かせていただいたけど、私はあの島好きよ。空気が美味しくて、自然豊かで、とても美しい場所だわ。あんな所で式を挙げられるなら、ぜひお願いしたくて」

「ママ、なんでそんな提案したの?」

「クロシェ先生、あたしも反対です」


 あたしは大好きなクロシェ先生の結婚式だからこそ、強く彼女を見つめた。


「結婚式なら、もっと人の集まりやすい場所でやった方が良いです」

「そうね。でも、私はあの島でやりたいの」

「クロシェ先生」

「テリー、アメリアヌ、……喜んでくれないの?」


 あたしとアメリが目を合わせ、クロシェ先生を見て、アメリが気まずそうに言った。


「いや、そういうわけではなくてですね……」


 アメリの目が言っている。あの島には何もない。あるのは呪いだけ。

 あたしの目は訴える。クロシェ先生、あの島に行くには船に乗らないといけないの。ね、マーメイド号にだけは乗らないで。


 ママが溜め息混じりにクロシェ先生の前に出た。


「クロシェ、娘達の事は気にしないで」

「奥様……」

「アメリアヌ、テリー、お止めなさい。リゾート開発が進んで、あの島も人が入りやすくなりました。あなた達、ついこの間行って見てきたでしょう」

「まだ工事してたもの。ね。テリー」

「ええ。してたわ。工事中って書かれてた。ね。メニー」

「でも、道は綺麗になってた」

「道は綺麗になったって」

「あんな虫の多い所」

「変な魚も多いわ」

「味は保証するけど、魚を捕まえすぎたら呪われるわ」

「食べすぎの食中毒で死んだ人もいたって言うし」

「不気味な島よ」

「お止めなさい!」


 ママが怒鳴った。


「島に人を招き、初めての婚礼イベントをクロシェ先生にやっていただく。これはね、お前達が世話になった恩返しでもあるのよ」

「ママ、恩を返すなら、クロシェ先生に一軒新築を建ててあげたらどう? その方がよっぽど恩返しよ」

「アメリに同意」

「あの島は不思議な島だけど、ベックス家の財産よ。私達が目を光らせていれば、呪われる事は絶対にありません」

「そうかしら」

「アメリに同意」

「お前達がなんと言っても、挙式は島で行います。貴族たるもの、お世話になった先生が望んでいるんだから、喜んで頷きなさい」

「そうは言ってもね」

「アメリに同意」

「先生、悪い事は言いませんわ」

「先生、もっと良い所があるかと」

「いいえ」


 クロシェ先生が確信づいたように首を振った。


「あの島で結婚式が出来たら、私、この先幸せになれる気がするの。だったらするべきだわ。不思議な島というだけで、危険な所ではないもの」

「……あそこは」


 メニーが声を上げた。


「とても良い場所だと、わたしも、思います」

「ええ。そうよね。メニー、私もそう思う」


 クロシェ先生がメガネの位置を直した。


「楽しみだわ」


(……まずい事になったわね)


 クロシェ先生が船に乗る事になったら、余計にリスクは高まる。クロシェ先生は死ぬはずだった。しかし、代わりに使用人のデヴィッドが亡くなり、その影響で先生の死が無効化されたように思えたが、そうじゃないのかもしれない。


(この船が沈めば、クロシェ先生にまた死の気配が近付くかもしれない)


「というわけで、私は結婚式を最後に、みんなの先生を辞めてしまいます。それまで、みんな、もう少しだけお世話をさせてね」

「……なんだか信じられないわ。クロシェ先生が屋敷からいなくなるなんて」

「そうね。アメリアヌ。でも、アメリアヌだって、いずれは結婚して、この屋敷から巣立っていくのよ。テリーだって王子様が婚約者だから、将来は王妃様よ? メニーだって、好きな人がこの先現れるわ。そしたら、みんなこの屋敷から出て行かなくてはいけなくなる。いつだって別れは付きものよ」

「テリー、メニー、今のうちに抱きしめておきましょう」

「……今だけアメリに同意」

「わたしも、お姉様とお姉ちゃんに同意!」


 三人でクロシェ先生を抱きしめ、クロシェ先生も笑顔であたし達を抱きしめ返した。


「三人とも大好きよ」

「それと、先に伝えておくわ。式には王族の方々もいらっしゃいます。丁重にもてなすように」


 ――ママの言葉に、あたしは真顔で振り返った。


「……キッド様とリオン様が来るんでしょ? ママ」

「いいえ。ゴーテル様とスノウ様も来てくださいます」


 あたしの眉間に皺が出来た。


「は?」

「外国から使いの方が来るそうよ。その方をぜひおもてなししたいそうで、島の話をされたの。もちろん、お受けしたわ」

「……ママ、何言ってるの?」

「これはチャンスよ!」


 ママが拳を握りしめた。


「ベックス家は散々落ちぶれたと言われてきたけれど、これで貴族の座を死守出来る! テリー! しっかりするのよ! なんとしても、キッド殿下のハートを射止めるのよ!」

「ママ、今一度確認するわ。カドリング島がどんな島か知ってる?」

「もちろん知ってるわ。あの島は」


 ベックス家の財産。


「宝島よ!!」


 呪われた島よ!! ママの馬鹿!! あたしは顔を青くし、ママに怒鳴った。


「ママ! あんな変な島にゴーテル様とスノウ様を呼ぶなんて、何考えてるの!?」

「島には使用人が何十人といる。不足はないわ」

「ママ、本気なの!?」


 スノウ様は死ぬはずだった。一度目の世界で、彼女は心を病ませて自殺をしたのだ。だが、クロシェ先生と同じ。スノウ様は死を回避した。だが、しかし、けれど、船に乗るという事は、また死が回ってくる可能性が高くなるということ。ママの馬鹿! なんで断らなかったのよ! あたしの背負うリスクが、どんどん重たくなっていくじゃない!


(大丈夫よ、あたし。キッドもリオンもいる。絶対大丈夫……!)


 大丈夫と思いながらも、悪夢で見た沈没船を思い出す。


(……ぐうう……みんな、くたばっちまえ……)


 あたしの震える体に気付かないママが、アメリに命令した。


「アメリアヌ! 公子も招待なさい!」

「言われなくともそのつもりよ。ダーリンと一緒に肩を並べて、クロシェ先生の結婚式が見られるなんて最高。わたしのロード。ああ、会いたいわ。今すぐ手紙を書かなきゃ」

「その前に」


 クロシェ先生の目がぎらりと光った。


「まずは勉強よ」

「え」

「げっ」

「へ!」

「三人とも、せっかく王子様達が来てくださったのに、まるで上の空だったじゃないの。接待していたのは奥様だけだったわ。ああいう時こそ、時事の話題でも話して、利口なところを見せないと!」


 アメリとあたしとメニーが目を合わせ、三人でクロシェ先生を見た。


「だって、急な訪問だったわ」

「そうよ。急だったわ。メニーもそう思うでしょ」

「わたし、ドロシーのお世話しないと!」

「ちょっと待ってよ。わたしもダーリンに」

「先生、あたし、なんだか具合悪くなってきた!」

「駄目よ。三人とも。いつものお部屋でお勉強しましょう。時事問題を出します」


 笑顔のクロシェ先生に顔を濁らせるあたし達。見ていたギルエドを含めた使用人達がクスクス笑い、ママが呆れた溜め息を吐いた。


(……笑顔の多い屋敷になったわね)


 未来が変わったのは良い事だ。だけど、


(厄介な事になりそう)


 再来年の三月。マーメイド号が沈む年。そこに、隣国の大使。ゴーテル様とスノウ様。クロシェ先生に、先生の父親? それと婚約者。ってことは、式を担当する神父様も?


(ああ! プレッシャーが落ちてくる!)


 というか、その前に、


(あたし、勉強、大嫌い!)


 教科書を開いて、アメリとあたしとメニーが苦い顔で肩を落とした。



(*'ω'*)



 ある日、大親友から連絡が来た。


『テリー、あのね、おじさんとおばさんが、あたしと旅行したいって、お金を貯めててくれたの。それでね、その旅行先、どこだと思う? もうチケットは取ったんだ!』

「……ニクス、まさか……」

『カドリング島だよ!』

「わかった! 今すぐにキャンセル料を払うわ!」

『あはは! キャンセルなんてしないよ。ほら、あたし、高校受かったから三人の時間が減っちゃうんだ。だから、少し遅くなるけど、三月にお祝いがてらって』


 ニクスは死ぬはずだった。中毒者であった父親の暴走を止められず、そのまま凍死するはずだったが、生き残り、遠くの田舎にいた遠縁の親戚の元でお世話になっている。そう。死と隣り合わせのニクスが船に乗る。ニクスが来れば、死がついてくるのだ。


「ニクス、あのね、実はね、あの……」

『テリーともしばらく会えなくなるかもしれないから、沢山船で遊ぼうね!』

「っ」

『スケートしようよ』


 ニクスが笑った。


『ちゃんとリードするから』

「……もう、仕方ないわね。船如きではしゃぐなんて、ニクスったらお子様なんだから」

『だって、楽しみなんだもん』

「……ニクス」

『ん? なあに? テリー』

「……楽しみね。船の旅」


(そんな嬉しそうな声で言われたら、断れるわけないじゃない!!)


 いいわよ。ニクスの事はあたしが守る!


 ――そんなある日、大親友が働く帽子屋で言われた。


「帽子コンテストの関係者付き合いで、チケットを貰ったの。うふふ。ニコラ、なんのチケットかわかる?」

「……まさか、アリス……」

「じゃじゃーん! カドリング島の旅ー!」


 アリスは死ぬはずだった。姉の婚約者の、中毒者であった男に大量殺人の罪をなすりつけられて、牢屋でジャックの迎えが来て、静かに息を引き取るはずだった。しかし彼女は生き残り、夢であった帽子屋のデザイナー見習いとして働き始めている。そう。死と隣り合わせのアリスが船に乗る。アリスが来れば、死がついてくるのだ。


「あのね、アリス、あの、実は、あの……」

「三月の島って、結構暑いんでしょう?」


 アリスが帽子をあたしに被せた。


「ニコラに似合う、日差しに強い帽子を考えないとね」

「……アリスの帽子なら、なんだって被るわ。全部、可愛いもの」

「ありがとう。……大好きよ。ニコラ」

「……アリス、あのね」

「ん? なあに?」

「……あたしも大好き」


(そんな嬉しそうな声で言われたら、断れるわけないじゃない!!)


 いいわよ。アリスの事はあたしが守る!


(くそ! くそくそくそくそ! リスクが、でかすぎて重たすぎて高すぎて、あたし、もう駄目! このままじゃ……踏み潰されちゃう!)


 あたしは図書館に泣きついた。


「お願い! 無料で招待するから来て! せっかくだもの! ね! あんたには色々お世話になってるし! ほら、無料よ!? 無料! 来るでしょう!? 来るわよね!? お前なら大丈夫よ! お前も死ぬはずの人間だったけど、お前ならきらっきらな金ぴかのおめめちゃんでなんとかするでしょ! ね! だから! ぜひおいで!!」

「カドリング島なら、社員旅行で行くよ」

「……社員旅行って、なに?」

「図書館の社員旅行。せっかくだし、図書館を閉めて、たまには南の島で体の疲れを癒そうってなったんだ」

「……癒しになるかはわからないけどね」

「くすす。なあに? まるで一悶着あるような言い方だね」

「……実はね……」


 あたしはばあばを召喚した。


「おばあ様の助言が下りてきたの! あたし、前々から死んだおばあ様のお声を聴けるんだけど、バカンスに油断はつきものじゃない? だから気をつけなさいって! とくに! 新しい船には! ただでさえこの間の紫の魔法使いの件だってあるわ! しばらくしてからとはいえ、船で動くなんて危ないじゃない。ね? しかも造りたてほやほやの船なのよ!?」

「ミステリアスな船の旅なんて素敵。それに、世界最大規模の豪華客船。そそられるね」

「……泣きを見ても知らないから」

「テリー、……私は行った方がいいの? 行かない方がいいの?」

「……来てくれたら助かる」

「そう」

「……」

「……。このこと、誰かに伝えた方がいい?」

「……もう相談してるから」

「ふーん」

「……」

「じゃ、楽しみにしてるね」


 それ以上は聞かず、大人である彼女は今日も美しい笑顔を浮かべる。


「ところでテリー、南の島は三月でも暑いって本当?」

「……そうね。冬は寒いけど、三月なら暑くなってると思う」

「くすす。水着を買わなきゃ。今度、一緒に買いにいこうよ。他にも色々必要なもの揃えなきゃ」

「水鉄砲と浮き輪とパラソルなら心配ないわ。バカンスの必須品は島で準備する予定だから」


 ……。

 あたしは小さな声で訊いてみた。


「……リトルルビィは?」

「来るでしょ。どんな時でも、殿下の言葉には忠実だから」


 黄金の瞳があたしから逸れた。


「……ま、知らないけど」


 少し問題のあるあの子を思い出す。最近会えてないけど、……大丈夫かしら。


(……リトルルビィの事は、後から考えよう。とりあえずは今のことよ)


 閉鎖病棟で、あたしは祈る。


「レオ、今回はあまりにもリスクが大きすぎわ。死の運命から免れた人が何人もいる。死は誰にでも訪れる。船の上ならなおのこと。いいこと。頼むわよ。沈没事故を回避出来たら、あたしはミックスマックス春季イベントにだって、喜んで足を運んであげる」

「交渉成立」


 鉄格子のドアの前で、リオンがにやりとした。


「この場で誓おう。必ず君の絶望の未来を回避させてみせると」

「……どうなるかしらね」

「どうにかするのさ」

「……沈没事故なんて、クソくらえよ……」



 こうして三月は訪れる。


 あたしは16歳。そして、メニーは14歳になった。



「にゃーーーーーー!!!!!」


 猫の悲鳴が鳴り響いたのは、当日のことだった。



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