第16話 あたしの幸福
受話器が取られた音がした。
『はい。こんにちは。ブランド・チェシャ……』
あたしの声を聞いて、受話器の向こうの相手がはっとする。
『やだ。うふふ! ニコラじゃない!』
ハイ。アリス。
『手紙ありがとう! 読んだわ。色々大変だったみたいね!』
ええ。大変だったのよ。色々。本当に。
『何が大変だったの? うふふ! 私に教えてくれる?』
いいわ。まず、どこから話そうかしらね。
屋敷に帰ってきてから、まあ、落ち着くまでは外に出られなかったんだけど、この間、久しぶりに外に散歩に出かけたら、リトルルビィと会ったの。あの子、バイト中だったんだけどね。
あたし達ね、ちょっと色々あって、最近、本当に気まずい雰囲気もあったんだけど、不思議なことに、なんていうかね、前よりも距離が縮まった気がするの。
「はっ! テリーの匂いがする! くんくん! あーーー! いたーーー! テリーーーーー!!」
リトルルビィがぎゅんと飛んできてあたしを全力で抱っこする。
「抱っこしてあげる! ぎゅーーーーーー!!」
苦しいわよって言えば、
「私はテリーの妹なんでしょう? だったら、いっぱい甘えちゃっていいと思うの! ねえ、テリー! だーいすき! テリー! テリー! テリー!」
にこりと笑うリトルルビィを見ると、心からほっとする。
今日もとても元気そう。
「大丈夫。結婚じゃないなら、いつでも取り返せるから」
ん? リトルルビィ、なんか言った?
「テリーが大好きって言ったの! ふふーん!」
あの子、成長しても何も変わらない。いつも、かわいい笑顔をあたしに向けてくれるの。それが、あたし、嬉しくて。頭をなでたら、リトルルビィも嬉しそうに笑ってくれる。あの子、本当に可愛い。色々あったけど、あたしね、これでやっぱりよかったんだわって思うの。
今度、リトルルビィと帽子屋に遊びに行くわね。
それと、突然あたしがいなくなっちゃったもんだから、心配をかけた場所ってたくさんあるでしょう? この間、菓子折りを持って行ったわ。
「テリー様ぁぁああああ! ご無事でーーー!!」
「おい! ディラン! テリー様がいらっしゃったぞ!」
「わお! お菓子だ!」
「紹介所全員で分けましょう! にこ!」
「「じゃんけん大会だ!!」」
みんな元気そうでよかったわ。本当に。
え? 家? ああ、ママはね、泣いてるわ。あたしが残ってくれたことが嬉しいからじゃなくて、王族の親戚になれなかったことが悲しいみたい。
「あともう少しで……! 王族の親戚だったのに……! 私は、諦めません!!」
「奥様! その意気です!」
使用人達は、ママを元気にするために頑張ってるわ。ご苦労なことね。
え? ああ、アメリアヌ? なんかね、姉さんはキッドのファンだったんだけど、あくまでファンらしいわよ。
「私、ダーリンがいるし、キッド様と結ばれるのは夢だけで良いのよね。それにしてもテリー、あんた本当によくあんな大物手玉に取ったわね。放すんじゃないわよ? もしも本当に結婚できたら、うちは王族の仲間入りだわ! やった! うふふ! ダーリンに自慢してこよっと!」
ん? ソフィア? ……ああ、最近、髪を切ったわね。リトルルビィとはまた違う髪型で驚いたわ。秋だし、心機一転って言ってたけど、……ううん。なんでもない。
「テリー、いらっしゃい。今日は何を借りていくの? ……お勧め? うーん。そうだな。……歴史なんてどうかな? くすす。そんな顔しないの。歴史って面白いよ。王族にも色んな歴史がある。勉強すれば、今後、君の役に立つんじゃないかな」
ああ、そうそう。テリー。
「一夫多妻制って知ってる?」
昔の国王様には、お嫁さんがたくさんいたんだって。
「この制度、実は廃止されてないから残ってるんだって。キッド殿下と結婚したら、君は第一夫人になるね。ということは、私がキッド殿下と結婚したら、私は第二夫人だね」
くすす。
「夫人同士が仲が良くて、悪いことはないよね?」
最近ソフィアが魅力的になったって? ……そうね。確かに、なんか目が据わった気がする。今度一緒に図書館? ……うーん……。そうね。また、……今度ね。
……ニクス? ああ、元気にやってるみたいよ。最近ちょっと腕を怪我してしまってね。おまけに、家に工事が入ったんですって。ニクスの住んでる家が、前よりも広くなったらしいわよ。
「ねえ、ニクス、どうして急に家が大きくなったの? しかも、無料でしょう!? ねえ、私、思うの。ニクス、夏休みの間に、大冒険をしてきたんでしょ。魔王を倒しにいったんだわ。そこで、お姫様と出会って、腕を犠牲に助けてくれたご褒美に、家を大きくして、ドレスがたくさん送られてきたんでしょ! それを、私にくれたんでしょ! 私、わかってるんだから!」
「ゲルダ、ドレスまだいる?」
「これがいい!」
「うん。どうぞ。好きなだけ」
今度ね、あたしのほうから遊びに行くの。ニクスの友達を紹介してもらえるんですって。でも、あたし、ちょっと怖いわ。アリス、あたし、大丈夫かしら。目つきが悪いって泣かれたりしないかしら。ニクスの迷惑になるようなことだけはしたくないの。
『大丈夫よ! 怖がりな私も、目の鋭いニコラと仲良くなれたんだから!』
……それ、喜んで良いのかしら……。
……リオン殿下。ああ、彼ね。色々仕事頑張ってるそうよ。王子様だもの。忙しいわよね。
「我らが主、またしばらく闘病生活ですね」
「何かがあればお申し付けください!」
「くれぐれも逃げ出さないこと」
「くれぐれもいなくならないこと!」
「大人しくしていれば、テリー様だってお見舞いに来てくれます」
「その通り! 最近ようやく落ち着いて……」
「あれ!? グレタ!」
「あれ!? 兄さん!」
「「またリオン様がいない!!」」
そういえばアリス、もう少しでハロウィンね。またジャックが町に現れるわよ。もしかしたら、もうジャックは町に来ていて、誰かの体に乗り移って、お菓子を食べてたりして。
「ジャック、近いうちに祭があるらしいぞ。ニコラをつれてこよう」
「ヒヒヒヒヒ!」
「楽しみだな」
秋って色々あるわよね。芸術の秋。読書の秋。メニーったら、この機会にピアノをよく弾いてるの。最近、セッションするようになったのよ。
「お姉ちゃん、アメリお姉様が歌を合わせてみたいって言ってたよ。今度、三人で合わせない?」
アリス、あたしの部屋に、最近耳栓が置かれるようになったの。なんでか? それはね、アリス、……今度会った時に話すわ。アメリがどこで聞いてるかわかりゃしない。
うん。そんな感じかな。アリス、あたしは元気よ。アリスはどう? 最近、困ったこととかなかった? アリスの幸せはあたしの幸せよ。今度、お菓子を持っていくわ。その時に、新作の帽子も見せてよ。またアリスの帽子が買いたいの。
……ん? キッドとは、その後どうなったか?
「テリー、長電話は駄目ですよ」
サリアに時計を見せられる。あたしは苦い顔をして、アリスに言った。
「悪いわね。アリス。時間みたい」
『あら、残念! 一番聞きたかった話を聞けなかったわ!』
「今度まとめて話すわ。じゃあね。アリス」
『じゃあね、ニコラ!』
受話器を置く。どうよ。残り3秒。
「ぎりぎりですね」
「でも、間に合ったわ」
「この後、お出かけされると伺いましたが、馬車はどうします?」
「……途中まで乗っててもいい?」
「もちろん」
さん、に、いち。サリアがあたしの目的地を推測した。
「裏口に準備させます」
「……表は危ない?」
「家の前にはいなくても、どこかに記者様がいらっしゃるようですから」
「わかった。ありがとう」
あたしはドレスをなびかせて、鞄を持ち、帽子を被り、上着を羽織って外へと出かける。使用人のロイが待っている馬車へ乗り、伝える。
「城下町までお願い」
「かしこまりました!」
馬車が走り出す。あっという間に城下町。この間まではテリー様キャンペーンが行われていたようだが、今はもうやっていないようだ。代わりに、王子様お帰りなさいキャンペーンをやっている。
(ハロウィン際が近いわね)
噴水前のベンチに座り、少女達が休憩している。
(どこのお店の従業員かしら)
子供達がお菓子を持って走っている。
(またジャックの悪夢が始まりそうね)
あたしは人気の無い道へと歩いていく。畑があり、森があり、そこをしばらく歩くと、果樹園に繋がった一軒家がある。
あたしは家の前で立ち止まる。
(ん)
扉に紙が貼られている。御用のある方は、果樹園へどうぞ。
(……そっか。リンゴの取れる時期だものね)
あたしは裏に回って、果樹園へ歩いていく。
広い広い果樹園。木に囲まれた森の中。
リンゴが綺麗に彩られ、そろそろ取ってくれ! と言っているよう。
背の高いビリーが木を見上げている。木に登ったキッドが歯を見せて笑い、籠をビリーに渡した。
「じいや、大量だよ。これは売れると思うぞ」
「ああ。明日、市場に持っていかなくてはな」
「今夜アップルパイ作るんだろ?」
「ああ。作るよ」
「残念だな。テリーのやつ、今日泊まって行けばじいやのアップルパイが食べられるのに」
「テリーにはまた今度作るさ」
「取立てのリンゴのアップルパイは味が違うんだよなー。くくっ。お腹いっぱい食べないと」
風が吹く。籠からリンゴが落ちて転がった。
「あ」
キッドが目で追いかける。あたしの足に、リンゴが止まった。
「……おやおや、こいつは」
あたしは結んだ髪の毛をなびかせる。顔を上げると、キッドが木から下りた。
「じいや! 野暮用が出来た!」
「これ、危ないぞ!」
キッドが華麗に着地し、あたしに向かって全速力で走ってくる。両手を広げて、目を輝かせた。
「テッ……!」
リー、という前に、あたしは屈んで避けた。キッドの両腕が空振る。
「……」
あたしはきりっと背を伸ばし、キッドが振り向いた。またあたしに近づく。あたしはふらりと避けた。キッドが抱きしめようとまた腕を振った。あたしはまたすらりと避けた。キッドがあたしを睨んだ。
「おい」
「近づかないで」
「なに怒ってるの?」
「怒ってないわ。あたし、浮気をしない質なだけ」
「どういうこと?」
「お前に抱きしめられるわけにはいかないのよ」
「テリー、何言ってるの?」
「あたしとお前の契約はもう終わったわ。婚約届けもないし。おそれるものは何もない。退け」
あたしはキッドを押しのけて、ビリーへと歩いていく。
「じいじ」
「おお、テリーや、来たか」
「うん」
「冷蔵庫にアイスが入ってるぞ。リンゴ味だが食べれるかい?」
「ええ。じいじのアイス大好き」
「フォッフォッフォッ。嬉しいことを言うの」
じいじが優しくあたしの頭をなでる。あたしはにっこりと笑って、また口角を下げて、後ろに下がった。さあ、あたしはこれからアイスを食べに行かないと。
待ってるキッドを肩でどかす。
「退け」
「おい!」
「お前に用はない」
「おい、ハニー。どうしてそんなにそっけないんだよ。俺達、れっきとした恋人同士なのに」
「はっ!」
鼻で笑う。
「あたしがいつお前のハニーになったって?」
笑わせないで。
「いいこと。あたしに近づくな。あたしはアイスを食べるのよ。お前なんか知らない」
「テリー」
「ああ、アイスが楽しみだわ」
手首を掴まれる。
(んっ)
無理矢理振り向かされる。
「おい」
――そこには、キッドではなくクレアがいた。
「無視するな」
髪が短いけれど、見た目はキッドだけど、わかる。これはクレアだ。
……あたしの目元が、自然と緩んでいくのを感じる。
「……無視されたくなかったら、あたしの前でキッドなんか演じないことね」
「リンゴのアイスを食べるんだろ? あたくしも食べる」
「ええ」
その手を握り締める。
「一緒に行きましょう」
「っ」
クレアが目を見開いた。あたしはとことこ歩いていく。クレアが黙った。あたしはとことこ歩いていく。家の中へ入っていく。先に手を洗わないと。手にはね、たくさんの菌がついてるのよ。ソーシャルディスタンス。
洗面所で手を洗って、リビングに入る。
(さて、アイス、アイス……)
「テリー」
「ん?」
手を引っ張られる。
(うん?)
クレアに抱きしめられる。動けない。むぎゅ。
「……」
クレアがあたしをきつく抱きしめる。動けない。むぎゅ。
「……」
すりすりしてくる。動けない。むぎゅ。
「……」
あたしはそっと髪の毛に触れる。今日は寝癖が無い。めずらしい。
「……テリー」
「ん」
「唄の謎は解けた?」
「ああ、……なんだっけ?」
「仕方ないな。特別にもう一度だけ唄ってやる」
クレアがすっと息を吸って――唄った。
さあ 謎を出そう
魔力のあるお姫様
高い塔に 住んでるよ
長い間の 引きこもり
体力ないのよ 彼女には
風邪を引いたら 大慌て
でも 心配なんて ご無用よ
彼女はとっても強いから
彼女はとっても脆いから
彼女はとっても弱いから
彼女はとっても怖いから
彼女の 心は ガラスのハート
彼女は一体弱いのかしら
彼女は一体強いのかしら
彼女は一体誰なのかしら
彼女は歩くわ 持ってきて
さすれば答えてあげるから
「……今なら簡単に答えられるわね」
何が体力ないよ。
「ばりばりあるじゃない」
「あたくし、病弱なお姫様なの」
「どこがよ」
頭をなでる。
「魔力持ちというのを隠すために、病弱だなんて噂を誰かが立てたんでしょ。じいじ?」
「ビリーの兄弟全員で立てた」
「何が愛されてないよ。ばりばり愛されてるじゃない」
「お前はあたくしの立場になったことがないから、そんなことが言えるんだ」
「愛されてなかったら、わざわざスノウ様だって、ここには来ないでしょ」
「彼女は歩くわ。持ってきて」
「ガラスの靴?」
「今日はスニーカーなんだ。キッドにならなくてはいけないからな。似合うか? 当然だろうな。似合うだろうな。ほれ、褒めろ」
「スニーカーよりも、あたしはアイスが食べたい」
「『アイス』の前に、あたくしを『愛す』ほうが先だ」
「お前ね、上手いこと言ったと思ってるでしょ。全然上手くないわよ」
髪の毛を引っ張ってみる。クレアの顔が歪んだ。
「いたっ」
「……あの長い髪の毛、どこ行ったの?」
「あれ、エクステ。テープでくっつけてたんだ」
「……」
「あたくしに戻る時に、よくやる。美容師の部下がいてだな」
「……」
「……テリー?」
髪の毛を弄る。青い髪は短い。
「伸ばさないの?」
「伸ばさないよ」
「どうして?」
「俺はキッドでもあるから」
むっとすれば、クレアに戻る。
「そんな顔するな」
「キッドは嫌い」
「……あたくしは?」
あたしの手がクレアの髪の毛からうなじに移動する。両手を結び、離れないように。顔を向ければクレアがほくそ笑んでいる。むかつく笑顔ね。
「あたし、お前のその顔嫌い」
「ほう。そうか」
「……でも」
かかとを上げる。
「クレアは好き」
クレアが上体を少し屈ませる。あたしは背伸びをして、やっと近づく。
唇が重なる。
(……やわらかい)
ずっとキッドとしてキスされてたはずなのに。
(もっと)
離れたくなくて。
(もっと)
重なっていたくて、
(もっと)
「……はっ……」
「テリー」
クレアがあたしの顔を覗く。
「過呼吸になるから」
「……落ち着いてやれば平気」
「くくっ。そんなにあたくしとキスしたいか?」
「お黙り」
また重なる。顔を傾けて、また近づく。唇がくっつく。
「テリー、アイスは?」
「……もう少しだけ」
「……」
むちゅ、とキスをすれば、クレアがあたしを抱き上げた。
(うわっ)
ソファーにクレアが座った。あたしはクレアの膝の上で、横向きになって座らされる。
「ちょ」
クレアが唇を重ねてきた。
「……クレア……」
「んー?」
唇が重なる。クレアの手があたしの腰と顎を掴む。
「……あたしは、クレアが好きよ」
「……うん。嬉しい」
鼻と鼻がくっついて、キスをする。
「パンツもいいけど、ドレスを着てるほうが似合ってると思う」
「……お前がそう言うなら、今度変装して、デートするか?」
唇同士が触れ合う。
「……変装?」
「あたくしがドレスを着て、お前は男装。ちゅ」
「んっ、……あたしが男装するの?」
「テリーになら似合いそう」
「どういう意味よ」
「キッドの帽子を被せて、大きめのパーカーを着て、パンツを穿けば、いい男になりそう」
「髪は切らないわよ」
「だから帽子で隠すんだ」
「隠せるの?」
「ポニーテールにして、帽子の中に」
「……ふーん」
「この後やってみる?」
ふにゅ。唇が重なる。
「そしたらあたくしはお前をダーリンと呼ぼう」
「あたしはハニーなんて呼ばないわよ」
「ああ。そうだろうな。あたくしは呼ぶほうだからな。ああ、あたくしは一生ハニーなんて呼ばれないんだろうな。仕方ない。こうなったのも、全部自分のせいなのだから」
「……」
「……」
「……ハニー」
「くくっ。結構」
ぷちゅ。唇がくっつく。
「テリー、今日ね?」
「んっ」
「ビリーがアップルパイを作ってくれるんだって。夜に。んむ」
「……っ」
「テリーが泊まったら一緒に食べれるよ。ちゅっ。……じいやのアップルパイ、すごく美味しいんだ」
「……泊まりはなしよ。……はあ。……あたし、まだ15歳だもの」
「だめ?」
「だめ」
「……じゃあ」
クレアがあたしの頬に手を添えた。
「今、お前を堪能しないとな」
今までとは違う。クレアと唇を重ねるたびに、鼓動が静かに揺れ動く。とくとく、音が聞こえる。体が熱くなる。額を重ねる。鼻と鼻がくっつく。目の前には、キッドではなく、クレアがいる。
「……クレア」
「なぁーに? ……ダーリン」
あたし達は静かに、でも濃厚に、唇同士を重ねあう。手を握り締めて、抱きしめあって、くっついて、くっついて、くっついて、そうして、また、鼓動が早くなって、どんどん、恋が溢れていく。
クレアは青い薔薇みたい。存在しないはずなのに、美しく咲き誇り、願いを叶えていく。
あたしを幸せに満たしていく。
クレアの唇をもっと堪能したくて、あたしは目を閉じた。
(*'ω'*)
開かずの間。
ドロシーはソファーに座る。
手に持つ日記を開いてみた。
この字が色あせることはないだろう。強力な魔法がかけられているから。
ドロシーはページを開く。
トゥエリーの叫び声が聞こえてくるようだ。
ドロシーはくすくす笑う。
まるで思い出してくるようだ。
みんながいるようだ。
ここにはみんながいた。
ドロシーがくすくす笑う。
あっという間に最後まで見てしまう。
最後のページを見つめる。
――ドロシー。ずっとアイしてる。
なぜだろう。この言葉が、頭から離れないのは。
ドロシーはまぶたを閉じる。
なんだか、思い出せそうだ。
そうそう。最初は、そうだ。
南と北の風がぶつかって、竜巻が起きるんだ。
僕達は逃げ道がなくなって、家にいることしかできなかった。
やがて竜巻が家を吹き飛ばした。
……ああ……、……懐かしいな……。
ドロシーが、涙を流した。
高い塔のブルーローズ(後編) END




