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おとぎ話の悪役令嬢は罪滅ぼしに忙しい  作者: 石狩なべ
五章:おかしの国のハイ・ジャック(後編)
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第9話 10月23日(3)


 瞼を上げる。雨は止んでいて、暖かい日差しが顔を覗かせている。目の前にはレオが座っていた。にこにこ微笑んで、突っ伏するあたしを見下ろしている。


「お待たせ」


 そっと、優しく、あたしの頭を撫でた。


「お兄ちゃんがいなくて寂しかったか?」

「……お黙り」


 手を払い、すくっと起き上がり、腕を組んでレオを睨んだ。


「昨日、あんたが来なかったから、今日こそはと思って、知り合いの名前を書いてきたわ。感謝して」

「見てもいい?」


 あたしはリュックのチャックを開けて、レオに折り畳んだ紙を渡した。


「ん」

「確かに」


 レオが紙を広げる。上から下まで文字を見て、また上に戻って下に行く。レオが文字を見ながら、うんざりげに目を細めていく。


「……君、母上とも知り合いなの……?」

「偶然ね」


 レオがまた文字を見て、目を留める。


「……ああ、確かに、この間ジェフとも喋ってたな……。うっ……見たことのある名前が多数いる……兄さんの部下達も……ほう……なるほど……」


 レオがテーブル台に紙を置く。


「ニコラ、この中で最近、違和感を感じた人物はいないか?」

「いたらとっくに調べるよう、あんたに言ってる」

「知り合い全員を疑えなんて、そんなことは言わない。違和感でいい。何かずれているとか、そう感じた人物はいないか?」

「……違和感……」


 あたしは紙の文字を見て、呟く。


「一人だけ」

「誰?」

「アリーチェ」

「……ああ、アリーチェ・ラビッツ・クロック? 僕に調べさせた子だろ? この子に違和感があるのかい?」

「違和感というか……」


 あたしは眉をひそめた。


「ジャックとは関係ないんだけど、気になることがあるの」

「気になることって?」

「この子は、数日後、とんでもないことをする」

「……とんでもないこと?」

「そうならないように、様子を見てた。でも三連休を明けてから、この子の体調が崩れた。部屋から出てこないの」

「会いに行った?」

「ええ」

「会えた?」


 レオに言われて、首を振る。


「会えなかった」

「……どうして?」

「扉を叩いたけど返事がなかったの。で、開けてみようとしたら、何かが突っかかって開けれなかった」

「突っかかる?」

「鍵かもしれないし、別の物かもしれないし、よく分からないけど、でも、部屋に入れなかった。アリーチェにも会えなかった」

「……そうか」


 レオが腕を組み、首を傾げる。


「それが、君がアリーチェに違和感を持つ理由?」

「それもだけど、一番は体調のこと。薬を飲んでるらしいんだけど、でも、病気じゃないらしいの」


 レオが顔をしかめた。


「病気じゃないのに薬を飲む? どういうこと?」

「なんていうか、……病気じゃないけど、似たようなものだって」

「……病気じゃないけど、似たようなもの……?」


 レオがアリーチェのじっと名前を見た。そして考えるが、答えは見つからない。


「何それ。そんなの存在する?」

「……詳しいことは、よく分からないけど……」

「薬って、本当に薬?」

「……本人はそう言ってた」

「麻薬とかじゃないよな?」

「家族もそのことを知ってるみたい。だから、違うと思う」

「つまり、アリーチェは病気じゃないけど、皆が同意の上で薬を飲んでる」

「そう」

「一体、何のために?」

「体調が悪くなりやすいんだって。だから飲んでるって。一ヶ月、入院してた時もあるくらい悪くなりやすいって聞いた」

「病気じゃないのに入院するの?」

「実際に8月いっぱい、どこかで入院してたって聞いたわ」

「8月? どこの病院だ?」

「分からない」


 レオが眉をひそめた。あたしも眉をひそめる。


「……その、違和感があるだけで、ジャックとは関係ないわ」

「……」

「……こんな話をしておいてなんだけど、レオ、この子はジャックじゃない」

「そうとも限らない」

「いいえ。違う」

「どうして分かる?」


 アリーチェを殺すのはジャックだ。彼女がジャックなら殺されることはない。


「……お婆様が言ってた。この子は違うって」

「……それ、信用していい情報?」

「レオ」


 あたしとレオの目が合う。


「ここ二日間、国にいる全員が悪夢を見てるそうよ」

「らしいな」

「アリーチェも、それに怯えてるって聞いた。だから体調が悪くなって、引きこもってるのかもしれない」

「……一理あるか」

「明日も会いに行く」

「それがいい」


 レオが名前の紙をもう一度眺めた。


「何かあったら僕に言って。調べてあげるよ」

「……分かった」

「でさ」


 レオが再び、あたしを見る。


「……悪夢、君も見た?」

「見た」

「……見たの?」


 レオが何故か訊き返してきた。あたしはこくこくと頷く。


「何よ? 悪夢でしょ。見たわ」

「……そっか。……君でも悪夢を見るんだな」

「失礼」

「ごめん」


 レオがあたしに微笑む。


「怖かった?」

「ええ。ものすごく」

「……。君、お菓子を渡してないんだろ」

「ええ」

「準備しておいた方がいい。多分、ジャックは今夜も見せにくるよ」

「あたしもそう思う。だけど無駄よ」

「うん? なんで?」

「お菓子を渡しても悪夢を覚えてる人がいた。だから無駄よ」

「……それは、おかしいな」


 レオが再び顔をしかめた。


「お菓子を渡したら悪夢は忘れるはずだ」

「職場の人、渡したのに悪夢を覚えてるって言ってた」

「どういうことだ?」

「あたしが知るはずないでしょう」

「……一旦、まとめよう。違和感を持つのは、今のところアリーチェ・ラビッツ・クロックのみ。だけど、この子はジャックじゃない」

「ええ。それは間違いない」

「ジャックは他にいる可能性が高い。そして、彼は言い伝えに反した行動をしている」


 レオが提案した。


「……ニコラ、ジャックの特徴をもう一度おさらいしてみないか?」

「ジャックの特徴?」


 あたしは知識を言葉に出す。


「ハロウィンのお化けでしょう?」


 レオが知識を言葉に出す。


「人に悪夢を見せる。見せた後は記憶の一部を消す」


 あたしは知識を言葉に出す。


「男か女か区別がつかない。年齢も分からない。ただ、ハロウィンになったら現れる」


 レオが知識を言葉に出す。


「ジャックがやってきたらお菓子を渡す。そうすれば悪夢を忘れ、記憶は消されない」


 あたしは眉をひそめた。


「ジャックが悪夢を見せた後に痣を残すなんて、そんな言い伝えあった?」

「……どうだったかな」


 レオが自分の顎に触れ、考える。


「ジャックの悪夢によって痣が残っている人は、この二日間で悪夢を見ている全員だ。実際のところ、そんな言い伝え、僕は聞いたことがない。……ということは、知らない情報がどこかで追加されているのかもしれない。僕達は小さな子供の頃から聞いてるけど、噂が広がって、誰かが新たな言い伝えを生んで、それをジャックが聞いて行動しているのかも……」


 レオがあたしを見た。


「ニコラ、明日は図書館で待ち合わせしよう」

「図書館?」

「ジャックの本を読んで確認しよう。この間は、ほら、読めなかっただろ? だから、詳しいことを調べに、明日読みに行こう」

「じゃあ、この後寄ってみる? 雨も止んでるし」

「いいや。今日は無駄だよ」

「なんで?」

「なんでも」


 レオが微笑み、肩をすくめた。


「よし、今日はここまでにしよう」

「え?」

「忘れるなよ。図書館で待ち合わせだ。今日はもう、まっすぐ帰って」

「……今日はどこにも出かけないの?」

「うん」


 レオは微笑む。


「明日、また待ってるよ」


 レオはにこりと笑う。


「頼んだよ」













( ˘ω˘ )


(*'ω'*)














 あたしは瞼を上げた。

 はっと、頭を上げる。


 目の間に座っていたはずのレオはいない。


(……あれ……?)


 雨が降っている。


(……あれ?)


 名前の書いてある紙は、あたしの手の下に敷かれている。


(……)


 ちらっと、ここから見える時計台を覗いた。時刻は17時すぎ。


(……あたし、3時間もここにいたの……?)


 でも、今日はレオとそんなに会話をしなかった気がする。雨も止んでいたのに。


(……?)


 あたしは首を傾げる。


「レオ……?」


 呼んでも、レオはいない。


「……」


 あたしは紙を折り畳み、リュックの中にしまった。


(レオにまっすぐ帰るよう言われたし、今日は帰ろう)


 あたしはリュックを背負う。立ち上がる。傘を差した。もう一度、ガゼボに振り返る。


(……何もない)


 ……。


(……帰ろう)


 ガゼボから出た。帰り道を歩き出す。体は氷のように冷えている。だが、先ほどの寒気は嘘のように消えていた。


(雨、止んでたのに)


 止んでなかったように、降り続く。


(いつ止むのかしら)


 雲に包まれた薄暗い空は、どこか不気味だ。



 あたしは帰り道を歩く。








(*'ω'*)



 18時。




 言われた通り、まっすぐ帰ってきた。木だらけの道を歩くと、家が見えてくる。


(……あれ)


 明かりがついてない。


(……いないのかしら)


 家に到着する。あたしは鍵を挿し、捻り、がちゃんという音を聞いて、中に入る。思った通り、昨日と同じ。家の中は暗い。


(寒い)


 あたしは玄関の明かりをつけた。濡れた靴を脱いで、スリッパに履き替える。


(……靴下が濡れてる……)


 傘入れに傘をしまい、濡れた靴を持って、廊下を歩く。リビングの扉を開けた。


「……ただいま」


 誰もいないリビングに声をかける。もちろん返事はない。


「……」


 あたしはリビングの明かりをつけた。暖炉の前に靴を置いて、戻り、玄関の明かりを消す。

 また暗い廊下を渡り、明るくなったリビングに入り、扉を閉める。キッチンに行くと、朝、あたしが置いた皿が置きっぱなしだった。


「……」


 ぼそりと呟く。


「寒いわね」


 あたしはきょろりと探す。


「マッチ、どこだっけ」


 あたしは濡れたリュックをソファーに置いて、暖炉に火をつけるため、マッチを探し始めた。



 じいじは帰ってこない。







( ˘ω˘ )






「ジャック」

「今日は、ニコラが来たわ」

「私の大切なお友達なの」

「ニコラ」

「ノックをしてきたわ」

「声をかけてきた」

「私、会えなかった」

「会うわけにはいかなかった」

「見られてしまうわ」

「ジャック」

「ニコラに見られる」

「これ以上知られるわけにはいかないわ」

「ジャック」

「悪夢を見ないと、忘れられない」

「見せて」

「殺してしまうわ」

「ニコラ」

「明日も来るって言ってた」

「兄さんと二人で帰ったみたい」

「窓から見えたの」

「見てたの」

「ニコラがいるかどうか見てたの」

「ニコラだった」

「兄さんに見つかって、すぐに隠れたけど」

「ニコラが来てた」

「ニコラだった」

「明日も来る」


 ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ。


「来ないで」


 いやああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ。


「来ないで」


 きゃああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ。





「こんな私を見ないで」






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