第21話 10月16日(2)
12時。商店街通り。
リトルルビィとメニーを迎えに行く。小雨は止み、雲の多い青空が広がっている。噴水前に辿り着き、辺りをきょろり。どこにもいない。
「……メニーは?」
「いない」
あたしとリトルルビィが噴水前をきょろり。
「リトルルビィ、匂いは?」
「……んー……」
くんくんと匂いを感じて、――ふと、あたしに振り向く。
「……え? ソフィアの匂い……?」
「そっちじゃない。メニーよ」
「え? テリー、……またソフィアの匂いがする!」
「メニーの」
「またソフィアのにお……!」
だんだん怒り顔になってくるリトルルビィに抱き着き、その体をぎゅっと締め付け、頭をなでなでなでなでと撫でる。
「きゃっ!」
「メニーは?」
「……あ、あっち」
「いるのね。わかった」
もう一度なでなでなでなで。
「……」
もういっちょなでなでなでなで。
「……」
なでなでなでなで。
「おしまい」
手を離す。
「行きましょう」
リトルルビィの手を握ると、リトルルビィが笑顔になった。
「はぁーい!」
ふわふわ微笑み、頬を赤くさせて、あたしの手に引っ張られて歩き出す。
「メニーは?」
「あっちぃー!」
リトルルビィがあたしを優しく引っ張る。
「るんるん!」
リトルルビィが鼻歌を歌った。
「るんるん!」
リトルルビィが私の手を握って、微笑んだ。
「るんるん!」
その方向を見て、はっとした。
「テリー! 大変!」
「何よ。新しいパン屋でも出来たの? どこよ」
「メニーが囲まれてる!」
「……は?」
「男の子達に囲まれてる!」
「……」
あたしは顔をしかめた
「はあ」
大股で歩き出す。
「どこ」
「そっち!」
リトルルビィと大股で歩くと、時計台の前で、小さなパニックが起きている。数人の少年達が、わいのわいのと騒ぎ、その中に顔を青ざめたメニーが立ち尽くしていた。
「君、昨日、歌ってた子だろ! 最高だったよ!」
少年の一人が笑顔でメニーに近づく。メニーは一歩下がった。
「……通してください」
「そんなこと言わずに、一緒にランチでも!」
「用事があるんです。通してください」
「邪魔だ! どけ!」
乱暴そうな背の高い少年が、前にいた少年を押しのけて、再びメニーの壁になる。
「やあ、メニーだっけ? 俺はザック」
「知りません。通してください」
「昨日の歌声、最高だったよ。ちょっと話そうよ。俺とランチでも」
「結構です」
「感心しないな。レディが怖がってるじゃないか」
今度はどこか気取った少年が、乱暴な少年を押しのけ、メニーの壁になった。
「大丈夫?」
「大丈夫です。通してください」
「そう言わずに。どこかに用事があるの? 送っていくから一緒に歩こうよ」
「結構です。一人で大丈夫です」
「そうだ。一緒に花屋に行こう。君の好きな花をプレゼントするよ」
「いりません」
メニーが横を通ろうとすれば、
「ちょっと待って!」
「ううっ」
また別の少年が立ちはだかる。
「僕の家も結構な金持ちなんだ。そんな貧相な奴らと話なんてしないで、僕と話そうよ!」
「結構です」
「メニー、俺と話そうよ!」
「結構です……」
「メニー!」
「ううっ……」
メニーが泣きそうな声でぼそりと呟いた。
「……テリーお姉ちゃん……」
「メニー」
てくてくと歩いていく。周りがあたしを見る。メニーがあたしに顔を上げた。
てくてくと歩いていく。周りを見ず、メニーだけを見て歩いていく。
てくてくと歩いていく。周りが道を開けた。メニーがぽかんとしている。
てくてくと歩いていく。周りを空気に、あたしはメニーの前で立ち止まった。
「お待たせ」
あたしはメニーの手を取った。
「行きましょう」
てくてくと歩いていく。周りがあたしとメニーを見る。メニーは黙ってついてくる。
てくてくと歩いていく。周りを見ず、リトルルビィが立っている方に歩いていく。
てくてくと歩いていく。周りが開けた道を真っ直ぐ進む。
てくてくと歩いていく。空気の一人が、あたしとメニーの前に立ち塞がった。
「ちょっとすみません! その子と話を」
あたしは無視して横を通り過ぎた。空気がまた一人、前を塞いだ。
「すまない! 君、俺はその子と話が」
あたしは無視して横を通り過ぎた。空気があたし達を引き止めた。
「ままま、待て! 待つんだ」
あたしは無視して、歩く。
「ちょっと待て!」
あたしの肩を掴んだ。直後、あたしが怒鳴った。
「無礼者!!」
「っ」
あたしの肩を掴んだ少年が、一瞬で手を退けた。あたしは少年を睨んだ。
「レディの肩を掴むなんて、無礼にもほどがある。立場を弁えなさい」
じろりと固まる少年達の集団に振り向くと、少年たちが顔をぞっと青ざめさせ、一歩引いた。
「お前」
あたしは一人に指を差す。少年がびくりと肩を揺らした。
「金持ちだと言っていたわね。苗字は?」
「……アールバッド」
「そんな富豪の名前は聞いたことがないわ。ここら辺にお住まいなら、ライズアマルドさんのお屋敷には招待されたことはありまして?」
「……いいえ」
「あらそう。お呼ばれされてないのね。おかしいわね。ライズアマルドさんなら絶対にお声をかけるはずだけど」
「あまり、パーティーなどには参加しないもので……」
「でしょうね。礼儀知らずだもの。ああ、不快だわ」
あたしは言った。
「消えろ」
あたしは言った。
「散れ」
あたしは言った。
「くたばれ」
掴まれた肩を一度手でほろい、またメニーの手を掴み、引っ張って歩き出す。メニーが呆然とあたしについてくる。あたしはてくてくと歩いていく。リトルルビィの横を通り過ぎた。
「行くわよ」
囁くと、リトルルビィが横をついてきた。後ろをついてくる少年達は一人もいなかった。時計台の通りを抜けて、道を曲がって、曲がって、進んで、曲がって、噴水前に戻ってくる。
「はあ」
ため息をついて、ようやくあたしの足が止まった。リトルルビィが止まり、黙るメニーも止まる。メニーに振り向く。目が合う。
「大丈夫?」
「……ん」
メニーが頷く。
「大丈夫」
「そう」
あたしも頷く。
「だから言ったのよ。ちゃんと断る習慣つけろって」
「……あんなお姉ちゃん、初めて見た」
「しつこい奴にはあれくらいがいいのよ」
少し乱暴だが、位の違いを分からせる必要がある場合もある。
「強気でいかないと、またああやって囲まれるわよ」
「……私も断ってたんだけど」
「あれは断りには見えない。あんなんじゃ、殿方がつけあがる」
「でも、あんな言い方、出来ない」
「もちろん、あんたはしなくていいわ。あんな乱暴な言い方、するべきじゃない」
「……でも、お姉ちゃんはしてた」
「そうよ。だって周りにはあたしよりも年上の、強そうな男の子がいたじゃない。あたし達はたったの女の子三人。あれくらいで行かないと、逃げられなかった」
貴族であることを忘れろと言われたけど、妹を守るためなら、ママも許してくれるでしょ。
「アールバッドって名前、多分どこかの商人の名前だけど、そこまでの富豪者じゃなかったと思う。ほらね、勉強してるとこういうことも分かるのよ」
「……」
「メニー」
じろりと睨む。
「何のためにお金持ちのパーティーに行ってるの。きちんと勉強しなさいと言ってるでしょう」
「……ごめんなさい」
「……怪我は?」
「……無い」
「お腹空いた。今日は水溜まりも多いし、三月の兎喫茶に行きましょう」
「……ん」
メニーがこくりと頷いた。
「……今日、雨が降ってたからそうなると思って、お弁当持ってこなかったの」
「正しい判断ね」
「お昼代もあるよ。……ギルエドがくれたの」
「そう。なら……」
あたしはリトルルビィに目を向けた。
「メニーに奢ってもらいましょう。行くわよ」
「うん」
リトルルビィが頷く。
「お姉ちゃん」
あたしはまたメニーに振り向く。
「何?」
「ありがとう」
メニーがあたしの手を、きゅっと握り締める。
「助けてくれてありがとう」
その手は、どこか震えている気がした。
「どういたしまして」
返事をして、くるりと前を見て、歩き出す。
「サガンさんに昨日のこと謝らないと。リトルルビィ、あのヴァイオリン、壊れてない?」
「大丈夫! 拾ってサガンさんに渡したら、ちょっと傷がついただけで、へこみも無いって言ってたから! 傷はついてたけど!」
「……謝らないと……」
うなだれて、喫茶店に向かって歩き出す。震える手を握って歩き出す。メニーは強く、あたしの手を握った。
だ い す き 。
誰かの声が後ろから聞こえた気がしたが、振り向いても、顔を俯かせるメニーしかいなかった。
(*'ω'*)
三月の兎喫茶。
扉を開けると、何人か店の中でくつろいでいて、それでも暇そうなサガンはつまらなそうな顔をして、皿をとにかく磨いていた。あたし達が入ると、ちらっとあたし達を見て、あたしを見て、視線を皿に戻した。
「こんにちは! サガンさん!」
「おう」
リトルルビィが挨拶し、あたしも挨拶をする。
「……こんにちは」
「おう」
返事をされて、一言。
「……楽器、すみません……」
「傷だけで済んで運が良かったな」
「……本当にすみません……」
「……適当に座ってろ」
サガンに言われ、三人で窓際のテーブル席に行く。リトルルビィとメニーが隣同士で座り、向かいにはあたし。座ってようやく安心したのか、メニーが深い息を吐いた。
「はーあ……」
「災難だったね。メニー」
リトルルビィに背中を撫でられて、メニーが胸を撫で下ろす。
「たまたま時計台の近くを通ったら、いきなり声をかけられたの。気が付いたらあんなに囲まれてて……」
「レディ一人を囲むなんて、紳士として失格よ。メニー、そういう時はさっきのテリーみたいに、ばっこんばっこん倒しちゃえばいいのよ!」
「それが出来たら苦労しないんだけどね……」
メニーが苦く笑い、あたしを見た。
「本当にありがとう。お姉ちゃん」
「ん」
頷くと、サガンが水を運んできた。あたし達の前に水が置かれる。
「注文」
言われて、メニュー表を見て、あたしはサガンに顔を上げる。
「ランチセット。珈琲付きで」
「ん」
リトルルビィがサガンに顔を上げた。
「同じので! トマトジュース!」
「ん」
メニーがサガンに顔を上げた。
「……ホットケーキをお願いします。……ホットミルク……」
「ん」
サガンが頷き、カウンターに戻った。また三人に戻ると、メニーが自分の鞄に手を入れる。
「お姉ちゃん、これ」
「ん?」
少し大きめのポーチを渡される。
「お裁縫セット。少しだけど使えそうな素材も入れておいた」
「ああ」
(ブローチの件ね)
頼んだよ、とさわやかな笑みで言ったドロシーの憎たらしい顔を思い出す。
「ありがとう」
「時間ある時でいいからね」
「あまり上手くいかなくても文句言わないでね」
「大丈夫」
メニーが微笑んだ。
「お姉ちゃんなら何とかしてくれるって分かってるから!」
(分かってないじゃないのよ……)
やめてよ! またプレッシャーが落ちてくるじゃないのよ!
(ドロシーめ……。帰ったら覚えてなさい……)
内の心を押さえて、深い息を吐きながらポーチをリュックにしまう。それを見たメニーが、背筋を伸ばした。
「お姉ちゃん」
「ん? 何?」
「……昨日」
メニーの目が、心配そうにあたしを見た。
「大丈夫だった?」
その目を、あたしは見つめる。
その目を、恨めしく思う。
その目を、何度も憎んだ。
その目を、今朝見た気がした。
その目には、もう、うんざりする。
あたしは微笑んで頷いた。
「心配かけたわね。平気よ」
あたしはメニーを見つめる。
「あんたは?」
「……私は大丈夫」
「そう」
「……キッドさんが……お姉ちゃんを連れて行ったって」
「宿泊先まで送ってもらっただけよ」
「……それだけ?」
「ええ」
「何もされてない?」
「リトルルビィと同じこと言うのね」
「だって」
「大丈夫」
水を飲む。
「色々あったけど、あんたにもいい経験になったんじゃない?」
「……いい経験?」
「王妃様、会えたの初めてでしょ」
「……うん。生で初めて見た」
「美しかったわね」
「うん。スノウ様、美しかった」
「王妃様に褒められたんだもの。メニー、ピアノじゃなくて歌でやっていけば? あんたならプロにもなれるわ」
「……歌はいい。ピアノの方が楽しいもん」
メニーもそう言って、水を飲んだ。
「でも、上手だったよ。メニー」
リトルルビィがメニーの隣で微笑んだ。
「ニコラの演奏もすごかった」
「そう。ありがとう」
「お姉ちゃん、あの、やっぱり、もったいないんじゃない?」
「もったいない?」
「ヴァイオリン」
メニーが眉をへこませて、あたしを見つめる。
「屋敷に帰ってきたら、一緒にやろうよ。アメリお姉様は歌で、私はピアノ。お姉ちゃんはヴァイオリンで、一緒に合奏しよう?」
お前はまた、同じことを言うのね。
あるはずのない記憶のメニーがあたしに微笑む。
今、目の前にいるメニーがあたしに微笑む。
「お姉ちゃん」
その声が重なる。
『お姉様』
その声が重なる。
「私、またあの曲聴きたいの。お姉ちゃんが弾いてまた聴かせて? 課題曲もね、アメリお姉様と相談したんだよ。今日、先生が思い出したように課題曲の話をしてくれて、お姉様と、皆が知ってそうな、有名な、楽しい曲にしようって話になって」
メニーが微笑む。
「お姉ちゃんのお陰だよ。お姉ちゃんのヴァイオリンの音に、私、すごく元気貰ったの。だから、また、もう一回聴きたいなって思って。……ね? いいでしょう? お願い」
メニーが言った。
「また聴かせて? お姉ちゃん」
『また聴かせて? お姉様』
その声が、重なる。
あるはずのない記憶のメニーがあたしに微笑む。
今、目の前にいるメニーがあたしに微笑む。
「……今は考えてる余裕無いわ。仕事で精いっぱいよ」
あたしの視線が窓に移る。
「でも、……」
息を吸って、吐く。
「考えてみる」
「うん」
メニーが頷く。
「もしやるなら、一緒に練習しよう? それで、私とお姉ちゃんが曲を弾いて、リトルルビィに歌ってもらおうよ」
「私、歌下手だよ。メニー!」
あ、
「じゃあこうしよう! 私は笛を吹く!」
「リトルルビィ、笛はソフィアさんでしょう?」
「じゃあ、踊る! お花を風に乗せて踊るの!」
「リトルルビィ、踊れるの?」
「うん!」
「じゃあ、リトルルビィはダンス担当ね!」
「うん! ふふっ!」
「ふふっ!」
メニーとリトルルビィが楽しそうに笑い合った。あたしはそれを見て、思い出す。
(ニクス)
あたしに、的確なアドバイスをくれる親友。
(ニクスだったら、なんて言うかしら)
ニクスにだったら、言える気がする。
(傷ついたこと)
(痛い思いをしたこと)
(拍手が怖いこと)
(人前でヴァイオリンを弾けなくなった、あたしのこと)
ニクスにだったら、言える気がする。
(……時間のある時に電話しよう)
ニクスの声が聞きたい。
「ところでお姉ちゃん、私、ずっと気になってたんだけど」
「ん?」
メニーは不思議そうな表情で、あたしに訊いた。
「お姉ちゃん、今、どこに住んでるの?」
……。
……。……。
……。……。……。
……。……。……。……。
あたしはにっこりと、今日一番の笑みを浮かべた。
「城下町よ」
メニーは笑顔で頷いた。
「うん。だから、城下町のどこ?」
「え?」
リトルルビィが瞬きした。
「テリー、言ってないの?」
「ルビィ、テリーって誰?」
「ニコラ、言ってないの?」
リトルルビィが言い直して、あたしはまた微笑んだ。
「何を言ってないのかしら?」
「……えっと……」
「リトルルビィ、あたしは城下町に住んでる。そうよね?」
リトルルビィが、メニーを見て、あたしを見て、何かを察して、こくりと頷いた。
メニーがそんなリトルルビィを横目に見て、リトルルビィが黙ったのを見て、その青い目を、静かにあたしに向けた。
「お姉ちゃん」
「なあに?」
あたしはにこりと微笑む。メニーもにこりと微笑む。
「今度遊びに行ってもいい?」
「駄目」
「どうして?」
「宿泊先なのよ。あたしの事情で、あんたが上がり込んだら駄目でしょう?」
「ホテルではないんだね?」
「宿泊してるの」
「寮でもないんだ」
「お姉ちゃんが無事に生きてるんだからいいじゃない。もうおしまい」
「お姉ちゃん、私、分かってるよ。お姉ちゃんがそうやって満面の笑顔を浮かべる時は、大抵お姉ちゃんが隠し事してる時なんだよ。それもすごく悪い隠し事」
「悪い隠し事だなんて人聞きの悪い。メニー、あんた、悪い顔するようになったわね。人の詮索はね、時間の無駄よ。やめなさい」
「確かに人には事情があると思うけど、家族なんだから、家族に宿泊先くらい教えてくれてもいいと思うの。しかも、リトルルビィは知ってるみたい」
メニーがリトルルビィを見る。
「でしょ?」
リトルルビィは黙って水を飲む。メニーの視線がまたあたしに戻る。
「ねえ、お姉ちゃん、今度泊まりに行ってもいい?」
「駄目」
「なんで?」
「あんたそんな暇ないでしょう。ピアノのレッスンは? ほらほら弱音吐かずに頑張りなさい。課題曲のネタも教えたんだし、ファイト一発よ。ファイト」
「お姉ちゃんがファイト、なんて言葉を使うなんて、よっぽどこの話題を切り上げたんだね。お姉ちゃん、今、どこに住んでるの?」
「メニー、飴ちゃんいる?」
「いらない」
「アメリから貰ったお小遣いでお菓子買ってあげるわ。何がいい?」
「いらない」
「おほほ。あんたはあたしに似て貧欲ね」
「お姉ちゃん、話を逸らさないで。今、どこに住んでるの?」
「ブローチなら任せて。最高のものを作ってあげるから」
「お姉ちゃん」
「メニー、前髪切った?」
「お姉ちゃん」
「メニー、身長伸びた?」
「お姉ちゃん」
「メニー、髪の毛伸びた?」
「お姉ちゃん」
その瞬間、皿がテーブルに置かれた。あたしとメニーが黙った。
「ランチセット」
サガンがあたしとリトルルビィの前に、皿を置いた。
「ホットケーキ」
サガンがメニーの前に皿を置いた。サービスワゴンに置かれた飲み物を持つ。
「珈琲」
あたしの前に。
「トマト」
リトルルビィの前に。
「ミルク」
メニーの前に。
「ごゆっくり」
追加の一言。
「他の客もいる。姉妹喧嘩なら外でやれ。今日もお前達のせいでうちは赤字だ」
「「……」」
あたしとメニーが睨み合う。ばちばちと睨み合う。無言で、目で、会話が続く。
(お姉ちゃん、今どこに住んでるの)
(メニー、詮索するんじゃないの)
(お姉ちゃん)
(メニー、やめなさい)
(お姉ちゃん)
(メニー、悪い子ね)
(お姉ちゃん)
(メニー)
(お姉ちゃん)
(メニーメニーメニーメニーメニー)
(お姉ちゃん)
(メニーメニーメニーメニーメニーメニーメニーメニーメニーメニー)
サガンが静かに去っていく。リトルルビィはそっと、両手を握った。
「……我らが母の祈りに感謝して、いただきます」
リトルルビィが静かにトマトジュースを飲み、
「うん。美味しい」
気まずそうに、呟いた。




