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46話 シラヌイママ

 ポルカを保護して、今日で五日目になった。

 私ことシラヌイは、ポルカを抱きかかえてディックの見送りをしていた。


「なるべく早く帰るよ、ポルカの面倒はよろしくね」

「任せといて。あんたこそしっかり仕事しなさいよ」


 今日は、私が休暇日だ。って事でディックが留守の間、しっかりポルカの面倒を見てあげないとね。

 最近、ポルカの相手をするのが楽しくて仕方ない。だって単純に可愛いし、素直な子だから反応が面白いし。こう言っちゃあれだけど、子育てするのがすごく楽しいの。

 それに今の状況だと、私とディックが夫婦みたいだし……それも照れ臭いながら嬉しいようなで、とても幸せな気分になれた。


「さてポルカ! とっとと家事を済ませますか!」

「はーい!」


 でもってポルカも大分慣れてきたのか、笑顔を見せる事が多くなっていた。

 まずは洗濯から済ませましょう。でかい桶に水張って、洗剤ぶち込んで、汚れた服を入れたら、


「はい踏み込めー!」

「踏み込めー!」


 ポルカと二人で桶の中で足踏みする。手でこするより、こうした方が沢山の服を洗えて楽なのよ。

 んでもって軽く伸ばして干していく。脱水してないから水が滴ってるけど、別に問題なし。

 篝火を出して、一気に蒸発させちゃえばいいんだもん。


「わぁ! お洗濯ものから雲が出て来た!」

「私の火力ならこれくらい楽勝よ。洗濯物はこれでおしまい、次は掃除!」

「掃除ーっ!」


 ディックから教わったけど、まずは高い所から埃を落として、しっかり水拭きした後、乾拭きをして仕上げる。ただこれだけの事で、部屋が見違えるように綺麗になっていく。

 後は棚の整理をして、ごみを片付けて……昼近くになる頃には、すっかり見違えた部屋になっていた。これならディックも驚くこと間違いなし!


「やりぃ!」

「やりー!」


 ポルカとハイタッチ。面倒なはずの家事が、すっごく楽しく感じられたわ。

 ってところで、ポルカのお腹が鳴った。食べ盛りだものね、そんじゃあ。


「なんか作ってあげる。あいつにゃ負けるけど、最近教えて貰ってるから色々作れるようになってきたんだから。食べたいものなんでも作ってあげる」

「じゃあポルカ、オムライス食べたい!」

「……うん、頑張ってみる(冷汗)」


 ……オムライスなんてすっげー難しくない?

 けどがんばれ私、ポルカにがっかりなんてさせられない!

 とりあえずチキンライスは簡単だからすぐ作るとして、問題は卵か……うーん、ごめんポルカ! ディックならふんわり出来るんだけど、私固い薄焼き卵しか作れないの!

 って事で、チキンライスの上に薄焼き卵を乗せただけの、あっさりしたオムライスの完成……後でディックに教えて貰わないと……。

 せめてケチャップでハートマークだけは作って、ポルカに出してみる。そしたらポルカは喜んで食べてくれた。


「美味しいよ! お姉ちゃんも料理上手なんだね」

「ポルカぁ……あんたって子は、良い子過ぎる……!」


 くそぅ、可愛すぎて涙が出てきちゃう。この子のためならなんだってやってあげたくなる。

 これが母親の気持ちなんだろうか……胸からあったかい物が湧き出て止まらない。

 以前までそんなに子供は好きじゃなかったのに、ポルカと一緒に過ごす内に、好きで好きでたまらなくなってくる。と言うか、好きが溢れて止まらない。

 ……着床薬を飲みたくなってきた。きっとディックと子供が出来たら、ポルカみたいに可愛い子が生まれるでしょうね……。


「お姉ちゃん、変な顔してる」

「へぇっ!? いやいや何でもないから、はは……」


 やっば、妄想にふけってだらしない顔になってた……ポルカの前だとガードが甘くなってしまう。

 案外子煩悩だったのかしら、私……多分際限なく甘やかしてしまうタイプねこれは……。

 食後、お腹がいっぱいになって眠くなったのか、ポルカはウトウトし始める。ベッドに運んで寝かせてやると、私の手を握って甘えてくる。


「おやしゅみなさい……」


 眠気で舌足らずになってる。ポルカの手は暖かくて、私まで眠くなってきた。

 ……なんだか、返したくないなぁ。

 ずっとこの子と一緒に居たい。でもポルカには、帰るべき居場所があるのよね……。


「ん……おと……さん……おかあ……さん……」


 寝言で両親を求め、苦しい寝顔になる。フェイスに縛られた心を解き放つには、やっぱりウィンディア人を助けないと。

 私だけが幸せになったって駄目。この子が幸せになる事こそが、私にとっての幸せよ。


「安心して、ポルカ。私達が必ず、貴方の幸せを取り戻すから」


 その後私は、ポルカが目を覚ますまで傍で見守っていた。


  ◇◇◇


 ポルカが目を覚ました後は、夕飯の買い出しに行く。ディックが帰ってくる前に、晩御飯作って待ってあげないと。

 トマトが安かったから、ズッキーニとかの野菜も合わせて買っていく。これだけじゃ味気ないからパスタも買って、ラタトゥイユでも用意してみましょうか。

 メイライトから聞いたんだけど、ラタトゥイユはパスタソースにしてもおいしいらしい。ディックにゃ足りないでしょうし、ついでにハンバーグでも作っといてあげよかな。

 夕飯の献立を考えるのって面倒だけど、うきうきしちゃうな。ディックが美味いって言ってくれるのを想像するだけで笑顔が出てきちゃう。

 なんだろ、あいつと早く結婚したくなってきた。なんの他愛ない日常のはずなのに、凄く幸せでどうにかなりそう。


「ポルカも手伝ってみる? 一緒にディックを驚かせてみようよ」

「うん! ポルカも作るー!」


 って事で一緒に調理開始。野菜を慎重に切って、ハンバーグはしっかり空気を抜いてタネを作る。ディックが帰ってきた後にでも焼き始めればいいでしょ。

 ラタトゥイユは中火でゆっくり煮込んでいく。ポルカと一緒に出来上がる様子を見ていたら、ノックの音が。


「ディック? 帰ってきた?」

「正解。丁度夕飯時かな?」

「その通り! ポルカと一緒に作ってたのよ、ねっ」

「ねっ!」

「そっか。すっかり仲良しになっちゃったね」


 そう言い、ディックは私とポルカの頭を撫でてくる。未来の旦那に褒められたと思うと、ついつい笑ってしまった。


「って違う違う違う! ポルカの前ならともかく、こいつの前でんな事考えるな!」

「どうしたんだろ、お姉ちゃん」

「幸せ慣れしてないせいでオーバーフローしたんだと思う、大丈夫だよ」


 そりゃ、こんだけ幸せ感じた事ないんだもの。仕事以外に自分の居場所が出来るのがこれだけ嬉しい事なんて、思ってもなかったな。

 ディックに今日一日の事を伝えながらの夕飯は、いつものご飯以上に美味しく思えた。最後まではしゃぎながら過ごして、疲れたポルカを寝かしつける頃には、私もちょっとへばっていた。


「お疲れ。お茶でも入れようか?」

「タイムサワーのお茶でお願い」


 ディックが最初に送ってくれた物だから、思い入れのあるお茶だ。飲むと胸がすく香りがして、気分が落ち着いてくる。


「ウィンディア人の動向は?」

「ほぼ全部つかめてきた。魔王やリージョン達と作戦の確認もしてきたし、あと三日もあれば行動に移せるよ」

「凄いスピードで進んでるわね。やっぱりあの人の協力は大きいわ」


 今作戦に当たっては、バックにある人物の協力も含まれている。人間達に一泡吹かせる作戦にゃ、強力な援軍だわ。


「大規模かつギャンブルの要素もある作戦だけど、分のいい賭けだ。エンディミオンの影響下にある人間達なら、必ず飛びつくはず」

「あとの問題はフェイスか。あいつの所在さえわかればいいんだけど……」

「今の所目撃情報が無くてね。フェイスの位置が分からないだけで途端に不利になる作戦だ、ジョーカーを早く見つけないとな」

「そうね……ポルカのためにも、なんとしてもね」


 ポルカと別れる事になるのは寂しいけど、それがあの子にとって一番だものね。


「そうだ。シラヌイ、明日の夜、ポルカをちょっと連れ出そう。あの行事があるんだろ?」

「あ、いいかもしれない。年に一度の行事だし、あの子も喜ぶと思う」


 作戦前の壮行会としてもぴったりだわ。きちんと準備してあげないとね。

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