第28話 ゆく年くる年
『え゛、確かに此処って、NPCにも細かいパラメータとかあるけど…… 』
やや困惑気味な金髪緋眼のAI少女が黒犬と融合した状態で呟くも、第四次攻略戦に参加したプレイヤー達は更に混乱していることだろう。
そんな時に間髪入れず、各械人の仮面内部に備えられた映像を網膜投射する機能が作動して、虚空に浮かんだモーダルウィンドウへ戦績報告が表示された。
何気に直接的な戦闘行為だけが評価される訳でなく、栄えある総合一位に輝くのはエリアボスの討伐を計画立案して、全体的な指揮も執った小さな女王である。
同様に後方待機で生き残っていた宴華のギルドマスターも上位に食い込んでおり、ある程度の痛覚が緩和されるとは謂え、巨獣に噛まれたり、刃翼で切り裂かれたりした者達の苦労が思いやられてしまう。
『ん~、ずっと安全な場所に隠れてた “姿なき狩人” が総合二位なのは微妙ね』
『銃後の連中ばかりじゃなく、俺達も一桁台に入ってるのが救いだな、途中で退場させられた銀拳が評価対象にすら、入ってないのは気の毒だが……』
与ダメージだけで言えば、荒ぶるヴァルバドの利き腕を道連れにした白銀の械人も貢献度は高いずだが、被撃破者の一覧に名前を連ねるのみ。
勝利の礎となった者達に対する配慮の言葉を受け、戦績が納得のいくものだったのか、満足そうに頷いていた断裁乙女が黒鉄の装甲を纏う史郎へ話し掛ける。
『彼、戦いの中で新しい特技に目覚めたみたいだから、別に構わないんじゃない』
『…… うちも手札が増えてるけど、そっちは?』
さらりと言ってのけた琴音の傍、緩慢な動きで近づいていたボス戦に於けるもう一人の生存者であり、ねこ鍋商店街に属する銃器遣いが尋ねると、隠す気のない当人は振り向きながら “まぁね” と素直に事実を認めた。
それに便乗して、“疑似人格との融合及び分離Ⅱ” を獲得した黒犬も首肯すれば、どさくさに紛れてクリムが囁く。
『実は私も… 多分、止めを刺したことの副産物だけど』
若干、ばつの悪そうな小声での言い廻しを挟み、小型ディスプレイも兼ねた黒犬の赫いバイザーに表示された補助ウィンドウでは、あからさまな “刃翼” という名の特技が記載されている。
既に現化量子の燐光となって消えた巨獣の姿が脳裏を掠め、もしや疑似人格の現身に翼が生えて飛べるのかと、史郎が思ったところで巨猿や他の怪物と交戦中の者達に指示を与えていた乃亜より、独自の情報網による通信が入った。
『二人とも、お疲れ様。付近の小型種は第一分隊が片付けてくれたし、退路は第六分隊が押さえたから安全圏まで退きましょう。ねこ鍋の人もくるよね?』
『当然、このまま放置されたら離脱可能な場所に辿り着けず、どうでも良い雑魚に群がられた末、無惨に狩られて死ぬ自信がある!!』
仮想の疑似体験であっても、無数の顎で身体を喰い散らかされるのは嫌だと、最後まで取っておいた自決用の弾丸をチラつかせつつ、何故か堂々と白猫班の械人が薄い胸を張る。
少々呆れながらも黒犬と断裁乙女は踵を返して、屋外変電所の入口で小さな女王らと合流を済ませた後、迷宮区域の外へ足を向けた。
その頃には囮の者達も戦闘を切り上げ、最寄りの離脱地点への移動を始めており、大晦日のお祭り騒ぎは終息を迎えて、鉄樹の森に静寂が戻る。
なお、この攻略戦で強制退場の憂き目に遭った面々《めんめん》はペナルティが課され、一定の時間が経過しなければ再ログインできないため、ねこ鍋商店街や宴華も交えた打ち上げは年明けに持ち越される次第となった。
昔の中編向けコンテスト用に描いた作品故、ここまでで終了となります。
いいプロットや、創作に割ける時間ができたら続きを書きたいものです。
※本業過多なので(´;ω;`)




