第25話 勇敢なものほど早死にする法則
『取り敢えず、四体いるヴァナラと標的の距離は十分かな?』
定位反射の技能で半径約1㎞ほどの戦況を把握したドレス型装甲の械人が呟き、自身の麾下にある第一分隊の皆に端的な指示を与えて、主戦場に存在する小型怪物の駆逐へ向かわせる。
因みに本人はこの場に残り、ギルド全体の指揮を執るとの事で… 護りの薄さを気にした銀拳が言及すると、小さな女王は隣に寄り添う大鹿を優しく撫ぜた。
『まぁ、そいつが居るなら、盤上のクイーンを殺られることは無いか』
『相当な数のビギナー狩りを返り討ちにしてるからね。他にも此処がエアポケット化するように計算尽くだし、こっちは気にしなくて良いよ』
寧ろ、有象無象の雑魚にそっちの邪魔はさせないから、遠慮なく暴れてきなさいと第二分隊の精鋭らに言い返す。
やんわりと老婆心からの指摘を受け流され、白銀の械人が行き場のない視線を断裁乙女に投げると、彼女は仕切り直すかのように戦斧を軽々と取り廻して、その石突で地面を穿った。
『以後、私達は協力関係にあるギルドと協調しながら、“刃翼持つ人型の巨獣” を討つわけだが、出し抜かれないための注意も必要となる。準備は良いか?』
『先日のリベンジといくか』
『大丈夫だ、いつでも動ける』
再戦に挑む大剣遣いの械人 “速断” や、皆の遣り取りを一歩引いた位置から眺めていた黒犬も頷いたところで、女王の情報網を使った第三者からの通信が各自に繋げられる。
それと同時に其々《それぞれ》の仮面へ備わっている内部スピーカーを経由して、他ギルドに属する年若い娘の声が届けられた。
『ねこ鍋商店街の白猫班、宴華の攻略組と合流したのさ~』
『先に仕掛けるから、お前らも早く来い』
『ん… わかった、すぐに向かう』
手短に応じた断裁乙女に続き、黒鉄の械人らが突入した変圧器の付近では寸刻の言葉通り、もう戦端が切られていて…… 人型なれど、四つん這いとなった体高 5~6 mに及ぶ有翼の巨獣が垣間見える。
刹那、硬い外骨格と毛皮で覆われた竜人のようにも思える怪物は四肢を撓め、漸進しつつも無数の銃弾を浴びせていたサブマシンガン装備の械人目掛け、大きく開けた咢を傾けて吶喊した。
『にぎゃあぁああ!?』
『うぁ、ねこ隊長がまた初っ端に!』
『だから、突っ込み過ぎはダメって言ったよね!?』
“だって、近づかないとAP弾が通らないんだよぅ” という叫びも虚しく、鋭い牙に挟まれた身体を上下に割断されて現化量子の燐光となり、獣人系の械人がログアウトさせられていく。
何やらミリオタ系の装備を持つ、ねこ鍋商店街の面々《めんめん》は噛みつき攻撃の隙に乗じて複数の手榴弾を投げるものの、悉く刃翼で叩き返されて更なる悲鳴を上げた。
『あの人達、当てになるの?』
『さあな……』
呆れ混じりのクリムに黒犬は曖昧な言葉を告げて、速度を上げた騎士の械人に遅れないよう追い縋る。
斜め背後より迫る新手を察知した巨獣が振り向きざま、低い姿勢と成りながら繰り出した掬い上げるような剛撃に巻き込まれて、また一人の犠牲者が強制的に退場させられた。




