47 セカンドオピニオン
「こ、国王陛下ですか?」
「説明は陛下の寝所に向かいながらします。マリナ先生、お急ぎください」
「あっ、はい」
白髪の医女に促され、私は黒髪の女官長や医女ルチアさんに先導され客室を出た。プラチナブロンドの侍女ロゼッタも慌てて後からついてくる。その姿を横目に通路を歩きながら、白髪の医女は口を開いた。
「まず、国王陛下の病状について説明します。陛下は右の脇腹に腫れがあり、違和感を訴えていました」
「右わき腹に腫れ……」
「そこで宮廷医師たちは腹部の腫れを治癒させるために、回復魔法をかけたのです」
白髪の医女が告げた後、黒髪の女官長が眉をひそめた。
「しかし、その回復魔法をかけた直後に容体が悪化し、陛下は昏睡状態に陥りました」
「そして先ほど目が覚めたと……」
「そうです」
医女と女官長の説明を聞いて私は思考する。右わき腹と言えば、人間なら肝臓の影響が出やすい部位だ。そして、肝臓に腹水がたまったり腫れたりしているということは短期的に腫れるよりも、長期的にじわじわと症状が続き慢性的な状態になっているケースが多い。
人間なら長期間、アルコールを摂取し続けることによって肝機能が徐々に弱る。そして最終的に飲酒が原因の肝硬変になった結果、腹水が腹部にたまるという可能性が真っ先に考えられるが、これが獣人に当てはまるのか現段階では分からない。
「状況は分かりました。ですが、私が同席して良いのでしょうか?」
「マリナ先生は例によって、医女である私の『助手見習い』ということにしておけば立ち会うことに関しては問題ないでしょう。本来なら国王陛下の治療に関しては、陛下の侍医が行っているので、医女である私も範疇外なのです」
「そうなんですか!?」
驚いて聞き返せば、思慮深そうな白髪の医女はゆっくりと頷いた。
「ええ。宮廷における医女の主な役割は産婆として出産の手助けをすること。そして女性特有の病気や性病に関する検査などが主で、国王陛下に呼ばれることはまずありません」
「でも、今回は国王陛下に呼ばれているんですよね?」
「ええ。どうやら前回、侍医たちの判断で回復魔法をかけた直後に容体が急変し、悪化したことから侍医だけでなく医療に携わる者や識者からも、広く意見を聞きたいようです」
「なるほど……」
確かに前回の治療で容態が急変して長い間、昏睡状態だったのなら侍医の説明や判断に従うのは怖いだろう。セカンドオピニオンによって患者が納得できるように最初とは違う医師に診察してもらったり、自分が納得できる説明をしてくれる医師を求めるというのは自然な心理だ。
「マリナ先生は侍女ロゼッタがユリ毒を摂取した際、強制的に毒を排出させる『胃洗浄』でロゼッタの命を救いました。私は医女として、それなりに医療知識を深めてきたつもりでしたが『胃洗浄』なる医療行為は存じませんでした。国王陛下が医療の心得がある者から、広く意見を求めているならマリナ先生にも同席して頂いた方が良いと考えたのです」
「そういうことだったんですね……。分かりました。ただ、私の知識がこの国でどこまで役に立てるか分かりませんが……」
一抹の不安を感じながらも、私は黒髪の女官長や白髪の医女らと共に国王の寝所へと向かった。




