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クリスマスツリーの冒険2でしゅ!

 リュークと名乗った美形はぐるりと私達を見回し、突っ込み隊の面々をみて眉根を寄せ、さらにメロンちゃんをじっと見つめて首を傾げた。


「どこかで」


 ナンパですか? 古典的ナンパですね? 

 カルさんの足を壁に見立ててちらりと顔を出し、ここから始まるめくるめくドラマを堪能しようとワクワクしていると、パシンッと小気味良い音が響き渡り、めくるめくドラマは皆が我に返ったことであっさりと終わりを告げたようである。

 ちらりと周りを見れば、音の主はどうやら突っ込み隊のハリセンちゃんだ。


「未来と過去が混じっておるのぅ」


 はて、なんのことですかね?


 ハリセンちゃんは時折不思議なものを感じることができる。例えば、私のへそくりという名の美形絵姿コレクションの在処だったり、次に出てくるルーレットの目だったり。

 いつぞやは学園立て直しの資金を塔に頼らずにと集める為、北へ南へと連れまわした記憶がある。   うっはうはに稼ぎましたが、一獲千金を経験してみたいという不純な動機がばれて、夫からもハリセンちゃんからも怒られました…。


 とまぁ、そんな過去はなかったことにして!


 首を傾げてリュークをじっと見つめていると、彼はほんの少し驚いたかのように目を見開いた後、何故か笑みを浮かべた。

 

「なるほど? 尋常じゃない魔力の持ち主の集団は、はっきりとはわからんが、俺に起きている何かを感じ取ることができるらしい」

 

 これまた謎の言葉だが、リュークには何かを言い当てられたことが面白かったらしく、クックッと笑いをかみ殺している。

 ふむ。ハリセンちゃんの言う未来と過去というのは、ましゃか…


「そこのエルフは皆の祖先でしゅね!?」

「「「俺らのどこにもエルフ要素まじっとらんわー!」」」


 なぜ全力で否定するのだ我が学友達よ…。

 エルフといえば、優美で華麗で、海をその恐ろしき脚力で沈むことなく渡り、可愛いものをこよなく愛するというか、溺愛してこねくり回して、時には浚いそうになる恐ろしき変態集団。祖先と言われて喜びこそすれ…て、あり?


「エルフって恐ろしい生き物でしゅね」

「今頃!?」


 なるほど、皆が否定したがる気持ちも分かるような、わからないような…。

 目の前の美貌集団のエルフと、黙っていればエルフらしく完璧に美しいカルストを交互に見た後、アルフレッドに視線を映して首を傾げる。


「顔が良いので恋人できるカモでしゅよ?」

「余計なお世話だ!」


 性格のいい人は捕まらないかもしれないけれど・・・。

 まぁ、アルフレッドは一人の人を不毛なまでに追い続けているので、顔はともかく心は立派なエルフの血筋なのかもしれませんね。


「今、失礼なこと考えただろ」

「考えてましぇんよ」


 首を横にぶんぶんと振って、しれっとした顔で否定しておきました。


「そちらのエルフがどんな生き物かは知らんが…」


 黙って話を聞いていたリュークが、ちらりとカルストに視線をやった後、軽く首を横に振って視線を離し、シャンティの方へと視線を向けた。

 シャンティはといえば、いつも通り自分は巻き込まれてますという気構えだったので、突然の視線にびくっと体を震わせた後、慌てて余裕を見せるかのように胸を張って腕を組み、髪を片手で払って笑みを浮かべて見せた。


「何かしら?」

「リーダー…ではなさそうだな」

「ちょっと! 何をもって判断したのよ!」


 動きが漫画でもアニメでもよくあるような小物系だったのですよシャンティさん…。

 とは、優しい美少女シャナちゃまは申しませんとも。代わりにシャンティと突っ込み隊、学友達の何歩も前に躍り出て、リュークの背後に向けて宣言した。

 そう、リーダーらしく!


「その木を貰い受けるのでしゅ!」

「なるほど? 子供は正直だな。目的は世界樹か」


 子ども扱いされました! 子供だけども…。


 小さくショックを受けている間に後れを取ったようだ。リュークの背後のエルフ達が一糸乱れず弓を構え、リュークからも不穏な魔力の広がりを感じる。


 が、それくらいで怯む私達ではありません! 


 こちらは魔王とも戦った実力派集団。まともそうなエルフごときに負ける気はしないのです!


「愚かな人間どもが!」


 何を弁解する暇もなく、警戒心たっぷりだったエルフの一人がリュークの諫めも聞かずに弓を放ち、それに続いて一斉にエルフ全員から矢が放たれる!

 

「嫌ですねぇ、長く生きているはずのエルフが、これほど短気などとは」


 のんびり声のカルストがゆったりとした動きで私達全員の前に出たかと思うと、その手に赤く黒く輝く何やらおどろおどろしい鞭を取り出し、ひゅううんっと風を切って一閃させた。

 まるでスローモーションのように見えたのは、その動きが無駄なく洗練されていたせいだろうか。


「おぉぉぉ!」


 思わず歓声を上げて拍手を送る。

 矢という矢が撃ち落され、地面に落とされたのだ。

 そういえば、カルさんが戦う姿はほとんど見たことがないので知らなかったけれど、とっても強かったのですね!


「うおぉぉぉぉ・・・・」


 何故か、背後の男達からうめき声が聞かれて振り返れば、男限定で矢が反らされることがなかったらしく、彼らは木に縫い付けられていたり、変な格好で避けた為、地面に倒れていたり、腰を押さえて蹲ったりしている者がいた。


「おや、残念」

「「「わざとか!」」」


 男達からは非難轟々だが、カルストはしれっとしている。


「お嬢様方にケガがなければよいのですよ」


「その実力、試させていただきましょう」


 聞き覚えのない声がしたかと思うと、リュークの騎士がカルストの眼前に迫り、ものすごい速さで剣を振り降ろすのが視界に入る!

 

 ここは私のでばーん! といいたいところだけれど、私が動くよりも早く突っ込み隊のシーちゃんが竹刀で受け止め、続いて放たれた矢の第2波を、闇とピコハンが打ち払う。


「さすがは奥方様」

「素晴らしいフォローです。くろ様」


「身重でピコハンを振るってしまった…。旦那様に怒られるぅぅぅ」

「余裕だわーん」


 小さな黒いわんこは飛び回り、突っ込み隊ピコちゃんは何故かがっくりと地面にうなだれて嘆いていた。

 一方、竹刀を振るう突っ込み隊の一人シーちゃんは、リュークの騎士の剣を跳ね上げ、正眼にびしりと構えて彼を威圧した。


「我が君。本気でかかっても?」

「まて、アンセル」


 何やらエンジンがかかったらしい騎士のキラキラした目にリュークはあきれながら止める。

 そこで止まる辺り主従関係はしっかりしているらしい。

 そんな事を確認している間にも矢は降り続け、シャンティのビームが矢を打ち、後ろに控える学友の男達は巻き込まれないよう逃げたり戦ったり大忙しだ。


「では! ここで真打登場でしゅ!」


 バーンと目立たなかった私がカモの翼を広げると、メロンちゃんがすかさずどこかに預かり持っていたらしい素敵なステッキを取り出して渡してくれた。

 

「むふふふふ。美形といえど敵ならばー、仕方がないというものでしゅー」

「カモがネギしょって何を言う」

 

 リュークの突込みににたりと微笑み…もとい、にこりと微笑み、ぶんとステッキを振り上げた。


「カモ鍋はうまいでしゅー!」


 その叫びとともに現れた青黒く光る魔法陣に、エルフもリュークもぎょっと目を見開き、じりりとわずかに後退する。 


「「今のは魔法の言葉なのか!?」」

「何であれで魔法が発動するんだ…」


 慌てるエルフに、呆れるリューク。

 しかし、見ている間にも魔法陣は広がり、そこからにゅるりと地獄の生き物の巨大な触手が何本も現れる。


「「「まさか…」」」


 その姿に戦慄したのは・・・。


「「「クラーケンじゃないでしょうねー!!」」」


 何故か味方でした。なじぇ?




 

 巨大なゴーレムであるクラーケンの出現により、戦場は混乱を極めた!

 クラーケンは魔法制御が効かないとでもいうように敵味方関係なくその触手に捕え、青白い光の膜により護られて一切の攻撃を遮断。そして、捕えた者達を片っ端から「あっふん」地獄に落としているのである!


 それでも世界樹を護るためにその場を動かないエルフ達もいるが、彼等は真っ先に犠牲になっていくのだ。そして、捕えられた恐怖からか、魔法やら矢やら攻撃があちこちへ炸裂し、びしりと音を立てて一本の枝が空から降ってきたのである!


 あの大きさの木の枝ならば、その大きさも推して知るべし!


「のわぁぁぁぁぁ!」

「全員避難でしゅよー!」

「攻撃するなと言っとるだろうがー!」

「我が君、止めるために攻撃許可を!」

「興奮するな、この戦闘バカが!」


 大混乱です。

 そして、空から降ってきた枝は、枝といえどもやはりかなり巨大で、そのままクラーケンの頭上に直撃し、クラーケンは小さく分散。散り散りに森の中へと消えていき、その場は土煙に覆われた。



 

 もうもうと舞う土煙が収まってくると、私の目に映るのは私のお衣裳であるカモのコスチュームが砂にまみれて土色になっていることである。


「カモじゃなくてアヒルの子でしゅかね?」

「違うと思うけど…。それよりカルさん何してるのかな?」


 そばかすオリン君の指摘でカルストはどこかときょろきょろと探せば、彼は木の枝の上にいた。


 静かになった瞬間に、カルストは落ちてきた木の枝に手を置き、何やらぶつぶつとつぶやいていた。すると、木の枝は銀色の光を放ち、母体である世界樹の木が応えるようにざわめき、空を見上げた私の手に小さな木の枝が輝きながら落ちてきたのである。


「木にさえ触れればエルフですので、木自体に交渉できるのですよお嬢様」


 カルストは立ち上がると微笑みながらこちらへと戻り、小さな木の枝を手にした私は首を傾げる。

 木と交渉とはこれいかに?


「世界樹の意思により分木(わけぎ)をいただきました。これでそちらのエルフも文句はないでしょう。ただし、そちらのエルフは浅慮にも世界樹本体を傷つけましたので、この先世界にどんな影響を及ぼすかは知りませんが」


 おぉ、エルフぽいカルさんはカッコいいですね!

 きらきらと尊敬の目で見つめると、カルストはにこりと微笑んで私を抱き上げる。


「さぁ、目的は果たしましたので、帰ってお仕置きを受けましょうお嬢様!」

「なんでしゅと!?」

「あぁ、お仕置きを回避しようと必死に言い募るであろうお嬢様も愛らしく…、今から胸が躍ります」


 やはりカルさんはカルさんでした。

 

「というわけで、皆様失礼いたします」


 この大騒ぎに締めを言い渡したのは、静かに参戦していたメロンちゃんで、彼女は唖然とするリューク達に完璧なメイド式お辞儀をすると、懐から小さな玉を取り出し、それを床に放り投げた。


 ボフッと音を立て、玉からは辺りを覆う煙が溢れ、私達はそれに包まれて再び意識を飛ばすのであった。

 

 しかし、これだけは言いたいのです…。


「煙玉って魔法でしゅかー!?」


 忍者道具とは、時に謎である…。




____________________________


「ウィーッス、アメリークリスマス!」

「ういぃーす! アメリークリスマスー!」


 それを言うならウィー・ウィッシュ・ア・メリークリスマスなのです!

 クリスマスの度に口ずさんでいた歌は、今や体育会系魔族によって新たなクリスマスの挨拶となっていた。

 そんな彼らは本日クリスマスパーティーに参加するために続々とパーティー会場たる町の中央広場に集まっている。

 

 件のクリスマスツリーの枝はといえば、カルストとエルフの皆さんの手で町の中央広場にぶすっと刺され、枯れるだけでは? と首を傾げた面々を裏切って、一気に成長し、現在は町の空を木の枝が覆うほどに大きく成長している。

 しかし、不思議と月や星の明かりを阻害しないのはさすが世界樹!


 そして、その木の根元には溢れるほどの料理があちこちの家々から運び込まれ、大パーティーとなっている。


「美味ちいごはーん。おにくー。食べたいでしゅー!」


 私は…といえば、帰ってくるなりノルディークに捕まり、夫達の説教を受け、さらにはご飯お預けでクリスマスツリーのオーナメントと化していた!


「ひどいでしゅー!」


 断固抗議!

 何しろ、共にツリーを採りに行った学友達はお咎めなしなのです!


 あ・・・全員ではありませんでした。


 ちらりと隣を見れば、金の鳥籠がぶら下がり、その中には突っ込み隊の一人であり、ヘイムダールことへイン君の奥さんであるピコちゃんが捕まっている。


「せんせぇー、ご飯食べたいですー」


 へイン君曰く・・・。


「身重で暴れるのは禁止だと言っただろう、ピコ!」


 ということで、何故かあの時のことがばれてともにお仕置きなのである。

 

 うむ、今夜はともにぶら下がろうではないか、学友よ…。


 こうして、クリスマスの夜は美味しい料理を眼下に見下ろしながら、ぷらんぷらんとぶら下がり続けるのであった…。





 メリークリスマスでしゅ!

間に合いましたー!

皆様メリークリスマスです!


シェール「ちょい待て、俺達が一度も出てないぞ!?」

ノルさん「まぁ、子供たちのイベントだからね」

シャナ 「違いましゅよー。清らかな心の人のイベントでしゅ」

ノルさん「へぇ…」


吊るされたシャナのお仕置きの真実かもしれないww

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