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リンスター家の七不思議

 それはある晴れたうららかな午後の事。

 家族皆とメイドさん、執事達、それに友人達を招いて和気あいあいとお茶会をしようと計画し、実行した日の事だった。


 計画者である私とシャンティさんは、二人してぐったり椅子に座り、一部廃人と化していた。


「何でしゅかねー…太陽が目に染みるのでしゅ」


「右に同じだわ…」


 目の下にはクマッ、頬はこけ、髪はパサついてお肌はカサカサの様な気がする。

 これはうら若き乙女にはありえない事態だ!


「シャナちゃまもシャンティちゃまもぐったりねー。イーニャとおねんねする?」


 そばまでやってきた私そっくりの姪っ子イーニャは、首をコテリと傾げ、背後でエルフ達を興奮させているとも知らずに無邪気に微笑んでいた。

 ふふふふふ…その周りに気が付かないっぷりは姉様にそっくりね、イーニャちゃん。なかなかの魔性の女になると見た。


「イーニャはあっちでピコラちゃんと撮影会だろう?」


 イーニャをひょいっと抱え上げたのはすっかりお父さんな顔のディアスだ。

 今日のお茶会に招いた友人達の中には、最近頭角を現しているフォトショップのオーナーがおり、彼女の撮影で子供達の写真を撮ることになっている。

 

 遠くを見れば、よちよち歩きができるようになったヘイン君の娘、ピコラちゃんがふわふわのクッションと花に埋もれておぶおぶしており、お胸の大きなメイド、通称メロンちゃんを大興奮させている。


 私にもあんな頃がありましたよ…。今はこんなですが、ピコラちゃんもイーニャもいずれはこうなるんですからね、今から覚悟するがよい。


「シャナ、エルネストを見なかったか?」


 出たな諸悪の根源っっ!


 私は声をかけてきたシェール、ならびに我が夫達をぎろりと睨む。

 むぅぅぅっ、女性よりもぴちぴちな肌をしおってからにっっ!

 今日お茶会だからって何度も言ったのにっ、言ったのにっ、言ったのにぃぃぃぃっ!


「いや・・・それはスマン」


 お、心の声が通じた様だ。シェールがじりじりと後退って謝った。


「シャナ、今の唸るような恨み言、口に出てたわよ」


 シャンティがぼそりと呟いた。

 なるほど、声に出てたからシェールがあの反応だったわけだ。

 謝るならもう少し手加減しなさいなーっっ!

 私、こう見えて6〇歳越えたおばーちゃんですよ! 中身はっっ!


 

 とまぁ、切なくなる中身の話は置いておいて。



「兄しゃまなら…」


「ねぇ、エルネスト様って、結婚したの?」


 ふと思い出したかのようにシャンティが尋ねてきた。

 

「いやでしゅねぇ、シャンティちゃん。兄しゃまは先日爵位を受け継いで、奥しゃまを…奥しゃまを??」


 おや? そう言えばどうだったろう。

 顔をあげてきょろきょろ見回せば、件の兄様は少し離れた場所で迎えた騎士の友人達と話しており、それに気が付いたシェールが「あぁ、いた」と呟く。

 すぐに近づいて行かないのは、兄様が騎士達と楽しそうに談笑しているからだ。


「私の聞いた話だと、エルネスト様って、町の娘と大恋愛したんでしょう?」


「あ、それは確か、すぐに大失恋したらしいと聞いてましゅよ」


 うんうんと頷く。

 兄様は基本騎士団に詰めているので、あまり私生活のことがわからない。

 爵位を継いだのでそろそろ家に落ち着くとは思うのだが、爵位を継いですぐの頃は、いろんな噂が飛び交った。

 町の娘と大恋愛の上、大失恋もその一つだ。


「自分の兄でしょう?」


「ちょっと待ってくだしゃいよ…確かでしゅねぇ、花屋の子に告白されてましゅた! 7年前?? それから…おぉ、学生さんにも…3年前?」


 首を傾げ、噂でしか知らない兄の話を思い出しつつ話せば、シャンティが呆れたようなため息をつく。

 うちの兄様の話なんですけどね、ほら、よく言うではないの、男兄弟はどこで何してるのかよくわからないって、あれよ、あれ。


「互いに忙しかったので最近は曖昧でしゅ」


「あぁ、そういえば噂が飛び交ってる頃、あんたは塔に引き籠ってたわね」


 そうそう、おかげで1年分の現世の情報が足りません。


「エルネストならメイドと結婚したんじゃないのか?」


 話を聞いていたシェールまでもが曖昧な言い方をする。

 シェールと兄様は幼馴染で親友なのだから結婚式をしていたとすれば出席しているはずだ。

 なのになぜ曖昧?


「おかしいですね、エルは確か貴族…商人の娘さんと結婚したのでは?」


 話に加わったノルディークも、珍しく眉間に皺を寄せて考え込んでいる。


「ノルしゃんまでもッっ!?」


 塔の主が記憶を疑うというのはアリエナイ。

 塔の主の記憶は、代が変われば先代の思い出などの記憶はほんの少し曖昧になるものの、大抵は映画の様に鮮明に残されるのだ。

 つまり、思い出したい記憶はファイルの中から映像として取り出せば…。


 そこではたと私はノルディークを見やる。

 ノルディークは今や狼さん。正確に言えば塔の主では無い。

 ということは…。


「ボケ・・」


「何かな、シャナ?」


 うぉう、ものすごくいい笑顔が来ました。これ以上は危険と心が告げているのでやめよう。命は惜しい。

 それにしても、ここまではっきりとした記憶が出ないのはおかしいのではなかろうか。


「う~む・・・・兄しゃまに直接聞きましゅ!」


 思い立ったら何とやら、私は椅子から飛び降りて兄様の元へ駆け寄り、騎士達と話し込んでいるその背中に飛びついて、そのままシャカシャカと肩まで登った。


「シャナ!?」


 兄様がから非難めいた声が上がるが、そこは気にしなーい。



「兄しゃま! 誰かと結婚しましゅた!?」



 さっそくストレートに問いかければ、目の前の騎士が「あぁ」と思い出すように声を上げてその名を呟いた。


「「「「!!」」」」


 私、ノルディーク、シェール、シャンティの四人がその名前にぎょっとした瞬間、何やらチクッッと首筋に痛みを感じ、私の意識は一瞬ブラックアウトした。







「治療完了!」


 

 どこかで突っ込み隊、ドリルマスターの声が響いた気がして、気がつけば、何事もなかったように私達は椅子に座っていた。


「あり??」


 私は首を傾げた。


「いま何か、大切なお話をしていたと思ったのでしゅが…」


 辺りを見回せば、にっこり微笑む兄様の横で、友人の騎士が真っ青に青ざめている。

 ナゼ??


 そして、いつの間にか突っ込み隊ピコハンマスターと、ハリセンマスターが協力し合ってモグラ叩き…ならぬ、ドリルマスター叩きを楽しんで(?)いる姿が…。

 いつの間に彼等は現れた?


「なるほど、シャナの兄だね」


 ノルさんはわずかに苦笑してぽつりと呟き、シェールは小さく息を吐き出した。

 

「一体どんな契約をアレと交わしたんだ…」


 内容はさっぱり謎だが、どうやら兄様は何か隠し事をしている様子?

 兄様をじっと見つめると、兄様はもう一度にっこり微笑んで告げた。


「シャナ、リンスター家の七不思議、母様の交渉術と、俺の奥さんの事は秘密だよ」


「お嫁しゃん?」


 首を傾げると、兄様は私の傍に歩み寄り、私を抱き上げた。


「そう。リンスター家当主のお嫁さんはシャナだからね」


「おぉ、禁断の恋でしゅね」


 あいわかりました! 私は目で兄様に了解したことを合図すると、兄様は頷き、騎士達を振り返る。

 兄様の同僚の騎士達は青ざめた表情でコクコクと激しく首を縦に振り、兄様は私の頭を撫でるのだった。

 

 そして、ぼんやりとしていたシャンティはぽつりと呟く。


「いろいろ騙されてる気分なのだけど…」


「騙されている方がよさそうだ…」


 シェールが進言し、シャンティはため息をつくと頷くのだった。

 


 その後、私は何度か兄様の奥さんの影を見るのだが、その度に一瞬記憶が消えるという怪現象を味わうことになる。

 どうやら、兄様の奥様はとってもシャイらしい。

 町娘なのか、貴族の娘または商人の娘なのか、はたまたメイドなのか、それはわからないけれど、兄様は、奥様と仲睦まじく暮らし、2人の子供に恵まれたそうである。


 ・・・・・・・・・


 ・・・・・・


 ・・・・・


 兄様謎だらけ!!?


 

 

シャナ 「兄様が謎だらけでしゅ!」

エル  「リンスター家唯一の存在感の薄さだったからな」

シェール「そう言う問題か??」

ノルさん「なるほど、その後も謎…と」

シェール「ありなのか!!?」


イネス(母)  「だからリンスター家の七不思議なのよね」

アルバート(父)「一番イネスに似たのはエルネストだったか…orz」


実は母様に似て謎だらけな兄様でした♪

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