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婚約解消の理由3 私だけの特権

セアン⇒シャナ⇒シャンティの目線と変わっていきます。

う~ん…笑いが足りない…orz


 時は少し(さかのぼ)り、シャナの友人のお嬢さんと分かれた後、俺はユンガロという名の、少々魔族寄りな体格の男と向き合っていた。

 こいつは、俺が幼い頃にも同じように孤児を狙って、魔法で子供を集めては暗殺者を育ててきた。

 おそらく、いまサーカスにいる小さなピエロ達は、ある程度育った暗殺者のはずだ。


 心のない人形…それがあのピエロ達で、昔の俺だな。


「こいつは驚いた。お前8番じゃねぇか。あの時のガキどもは散り散りになって、生き残ったのは数人。追われる俺達はまさかの魔大陸の端に渡る羽目になっちまった。だが、あの大陸じゃ死ぬしかない人間の俺達に、エルフ共が手を貸してくれてな、おかげでこうして新たな仲間まで増やして戻ることができたわけだ」


 ユンガロはそう言うとがしゃんがしゃんと音を立てて檻を叩く。


 中に入っているのは獰猛そうな魔獣だ。魔獣は誰かの使い魔でもない限りこの大陸には渡れないように結界が張ってあった。だが、先頃の戦いで結界が一部壊れたために、こうしてユンガロに連れられて大陸に入ることができたのだろう。


 てことは、さっきから抑えちゃいるが、俺の周りを取り囲んで殺気を放っているのは、かつての仲間か…。

 4人いるな。


「孤児が増えたって聞いてな。ここぞとばかりに集めてんだ。お前も戻ってこねぇか?」


 ユンガロはにこやかに話しているが、その下ではかなり俺を警戒しているだろう。だが、警戒すべきは俺じゃなく、お前が先程床に叩きつけた珍獣だと言ってやりたい。


 チラリと軽くシャナを見れば、すでに蛇のごとき動きで床をずるずると動き、魔獣の檻の一つにしがみ付いている。

 あれは明らかに檻を壊す気だ。


「悪いが俺は今、お前らを排除する側にいるんでね、その提案には乗れない」


 シャナは一瞬はっとして、ちらりと集められた子供達を見る。魔獣を解き放った時の彼等の身を気にしているのだろう。

 子供達を見れば、どの子供も操られているようで、目が虚ろだ。


 俺はシャナに対してわかるように靴を鳴らし、シャナがこちらを見た瞬間に頷いた。それと同時に、警戒するユンガロが仲間達に合図を送り、殺気を放つ四人が俺に襲いかかってくる!


「国の犬に成り下がったか8番!」


「わんわんでしゅ~」


「運命の女神が導いただけだ!」


「台詞がくっさいでしゅねー!」


 シャナ…余計な茶々を入れないでくれ…と言いたいが、それどころではない。

 4人の敵と相対し、シャナが檻を開けるのを確認した。


 ユンガロもそれに気が付いたらしく、はっとしてシャナに向き直る。


「このクソガキ!」


「油断大敵でしゅっっ」


 ユンガロが鞭をうならせ、シャナは身軽にそれを避けて走り去る。ただし、子供達と解き放たれた魔獣を置いて…。

 さすがはチビ姫、やることが塔の奴らと同じでえげつない。

 後は任せたって…、まぁ、承諾は先にしたが、少しぐらいは敵を倒していってくれ!


 敵をいなしつつ、子供達が喰われぬよう魔獣の方にも攻撃を与え、俺が囮になった。

 ファルグのおっさんは何してんだっ!

 入り口辺りで俺に気が付いていながら無視したからなっっ、今頃高みの見物かっっ? 

 くそっ、このところ貧乏くじばっかりだ!


 俺は暗殺者4人と魔獣を一頭連れ、広場へと飛び出した。



____________


 火の輪潜りは人間のすることではない! ついでに空中ブランコも危険!


 冷や汗をだらっだらにかきながらもそれらをこなし、私は玉乗りの上で腰振りダンスを踊ってやった。


 魔獣を操り、孤児の子供達を暗殺者に仕立てる。そんな団体は夢を売るサーカス団と言えども動物保護団体と幼児保護団体と、この私が許しませんとも!


「とはいえー、多勢に無勢というヤツでしゅね」


 暗殺者に仕立てられたピエロ達に取り囲まれたようですなー。

 これをいかにして破るか。やはり正攻法で暗殺がなんぼのもんじゃというほどに打ちのめしてやるべきでしょう!


 ということで…


「やっちゃってくだしゃい! シャンティしゃん!」


「もう出番!?」


 と叫びつつも、ちっちゃなピエロ達にビーム攻撃をしてくれるシャンティさんに乾杯…。

 なんて人任せにしていたら、魔獣使いを乗せた魔獣が突っ込んできた!


「にょっほぅ!」


 決して葡萄ではございません。

 突っ込んできた魔獣を避けるために横っ飛びすれば、そこには鞭を構えた例の男が!

 このままでは鞭の餌食!


 着地地点に降りると、鞭の唸りを耳にしながら、ゴロンゴロンと転がって避ける。しかし、転がる先には魔獣がおり、口を開けていた。


「む~り~で~しゅ~!」


 ローリング・ツチノコは勢いが付き過ぎていて、止まれなかったっっ。



「魔獣ごとき、捻じ伏せれば良い」



 ばしっとファルグの足の裏で止められ、いつの間にか舞台に降り立ち、魔獣と私の間に立ったファルグは、魔獣の上に乗っかる魔獣使いの「やれ!」という声に苦笑しつつ、唸る魔獣の額に手を当てた。


「我に下れ」


 魔獣はグォンッと一声あげたかと思うと、そのまま床にずしんっと倒れた。

 魔獣を下した…というよりは、ちょっとやりすぎで気絶させてしまったらしい。


「それはー、ともかくー、そろそろ起こしてくれましぇんかね…」


 ペンギンの時の様にファルグの足元でおぶおぶしていると、ようやくファルグが私を抱きかかえてくれる。


「人心地つきましゅた」


「そうか…。だが、あっちはまずそうだな」


 あっち? とファルグの視線の先を追うと、そこには慌てて人質をとろうとする例の鞭使いの男と、子供ピエロがシャンティに迫っていた!


「シャンティしゃん!」



____________



 シャナの叫びが聞こえた時、私の周りを取り囲んでいた敵が飛び掛かってきた。

 やぁねぇシャナ、これくらいで慌てるはずないでしょう。

 相手は魔族でもなくて人間。光の精霊による防御シールドで一掃すれば終わりだわ。


 余裕で身構え、うっすら微笑すら浮かべた瞬間、私の体は何者かの背に庇われ、目の前で銀の一閃が走った。


「動くなよ、お嬢さん」


 庇ったのは突然現れたセアンらしい。そう言えば今の今まで姿がなかったけれど、何処に行ってたのかしら?


 私は目を丸くしながら彼の背を見つめる。


 彼は私を庇いながら、子供ピエロを次々と落としていく。

 セアンの剣は少し特殊で、普通の騎士の長剣よりも短い。それを素早く操り、ピエロ達の繰り出す武器の防御にだけ使い、攻撃は手刀などを使っていた。


「殺したくないのね」

 

 彼の背後からその様子を見ながら声をかける。


「こいつらは騙されているようなものだしな」


 ふっと見せた表情がどこか憂いのあるもので、思わずドキリとしてしまう。

 て、ドキリって何よ。


 こうやって、普通の女性の様に庇われているからおかしな気分になるんだわ。ちゃんと活躍しなくちゃ。


 私はセアンの動きを見つつ、ピエロ達の目の前で小さく光りを瞬かせる。これだけで視界を奪われ、ピエロの動きは鈍くなる。


「くそっ、こちらにはまだ魔獣部隊が!」


「ファルグのおっさんがいるのにいるわけねぇだろ」


 男が振り返った先、舞台の上ではシャナが魔獣を撫で、魔獣達はゴロゴロと喉を鳴らしていた。もちろんピエロに乗っていた魔獣使いは倒されている。どちらがやったのかは見てなかったのでわからないけれど。


「馬鹿なっっ」


「ついでに言うと、俺にけしかけた4人は外で寝てるぞ」


「そんなっ」


 男はガクリとその場に膝を着き、項垂れた。


「大体、あんたも往生際が悪い上に運が悪い。魔王よりたちの悪いチビ姫のいる場所で悪さしたんだからな。ま、俺とファルグのおっさんだけでよかったよ。あいつらがいたら…」


 ノルディークさん達ね…。

 確かに彼等がいたらすでにこの男の命はなかったかもしれないわね。シャナを床に叩きつけた時点で。


 と、その時、絶望に彩られていたはずの男の表情が歪み、彼は鞭を手に取った。けれど、私もセアンもそれには動かず、ただ憐みの視線を向けるだけ。

 なぜなら・・・


「外でエルネストが待っているぞ、さっさと行け」


 ファルグに頭を掴まれた男は、そのままバチバチっと音を立て、青い否妻に打たれつつ、テントの外へと投げ飛ばされたからだ。


「容赦ねぇな、おっさん」


「容赦? しただろう。殺してはいない」


 あれでしたんだ、とは私もセアンも言わなかった。





 その後、外に出ると、魔獣騒ぎに乗り出した騎士団がテントを取り囲んでおり、私達の事情を知るシャナの兄、エルネストさんがシャナをひどく叱りつけながらも、騎士団の方へ声をかけてうまく事情説明してくれたらしい。

 そうして、大人達は捕まって行った。

 

 子供ピエロの方は、時間をかけて心を取り戻すよう教育するみたい。

 運んで行かれる彼等を見つめ、セアンがぽつりと呟く。


「孤児だからって、暗殺者にさせられる理由はない…」


 どこか悲しげな彼の傍にいたいと思ったのはこの瞬間だ。

 きっと、シャナには「血迷ったの!?」とでも言われそうだけど…。 

 

 それにしても…。

 私は子供ピエロが運ばれる先にシャナがいるのに目をやり、大きくため息をついた。


「あの子達、暗殺者にはならずにすんでも、変態にはなるかもしれないわ」


「は!?」


 驚いたセアンはピエロ達の運ばれる先を見やる。


 どうやらシャナが胸を張っているのを見つけた様だ。ざぁっと一気に青ざめる人間を初めて見たわ。

 

 シャナは、気絶する子供ピエロを見下ろし、むふふふと不気味な笑みを浮かべている。

 あれは完全に良くないことを思いついた顔よ…。


「ちょっぴり強い若紫ゲットでしゅー!」


「ちょっと待てチビ姫~!!」


 セアンは慌てて飛び出していった。


 その後ろ姿を見つめ、私はにっこりと微笑む。

 ・・・いや、もしかしたらシャナの様にむふっと微笑んでいたのかもしれないわね。


「覚悟なさい」


 知らないうちに小さくぽつりと呟いていた。




 後に、友人達は「血迷ったの!?」「何が良くてあの男!?」と散々言ってくるけれど…。

 

 彼の真面目でカッコイイ部分は私だけが知っていれば良いの。




 こうして、その事件の翌日、シャンティは家が決めた平凡な貴族との婚約を解消したのだった。





後日談


結婚式の翌日、花婿セアンはシャナと突っ込み隊の面々に呼び出され、ぼこぼこにされたそうな…。


セアン  「・・・・なんでこうなったんだろうな?」

シャンティ「あら、幸せじゃないとでも?」

セアン  「イエ、この上なく幸せです」

シャンティ「よろしい」


シャンティは最初の赤ん坊を抱き、幸せそうに微笑むセアンを見ると、ぐっと拳を握って、こっそり小さくガッツポーズをとるのだった…。



ノルさん「さすがはシャナの親友ですね」

アルさん「…怒涛の攻めだったな」


彼女の攻撃を見たクラスメイトの男達は、しばらく「女は怖い…」と呟いていたそうな…。

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