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婚約解消の理由1 サーカスに行こう

シャンティちゃんとセアンがどうして!? な物語。

3部作です。

 それはある晴れた日の朝。


「サーカスに行くわよ!」


 ばっさぁ! と乙女の眠る布団を剥ぎ取り、朝から元気のよすぎる…というか、興奮気味のシャンティに起こされた私は、寝ぼけ眼をこすりつつ抗議する。


「せっかくのお休みでしゅのにぃ」


 低血圧なのだと思う。よって、一度起こした体をもう一度ベッドへとダイブさせると、顔はベチッと何やら固いものにダイブし、「ぐっ」とくぐもった声が響いた。

 

 ん?


 ちょっと硬くて痛かったのもあって、もう一度体を起こして目を開けると、そこには見事な腹筋…。


「お? おぉ?」


 とりあえずペタペタと触り、さらに頬ずりし、さらにさらに下履きに手をかけたところで…。


「乙女の前で何するつもりかっ!」


 勢いよくシャンティさんに(はた)かれました…。

 乙女の前で何するって、当然朝の『心』の運動をですな…。


「不健康よ! ほら、さっさと起きてっ。魔王もさっさと起きて頂戴!」


 心を読まれたようです。さすがシャンティさん。

 

 私はシャンティにせっつかれ、もぞもぞと起き出し、本日私に添い寝していたファルグもムクリと体を起こして伸びをする。その上半身は裸で、筋肉の動きも素晴らしく、思わず涎がだらだらと…。

 いかんいかん、シャンティさんの前で剥き剥きしてあちこち堪能する訳にはいかんのよ。

 なにしろシャンティさんは…。


「乙女でしゅからねぇ」


「全部口に出てるのよ!」


「ぬひょ~!」


 朝からビームが飛んできたっっ。

 カルシウムが足りて無いわ、シャンティさんっっ。







 とりあえず朝食を済ませ腹を満たすと、シャンティは呆れた表情で私達をジトリと睨み、むっすりとしながら本題を告げる。


「サーカスが来たのよ」


「珍しいな」


 答えたのはファルグだ。

 どうやらこの世界でサーカスなるモノはとても珍しいモノらしい。

 

 佐奈の記憶では、サーカスと言えば年に一回は何処かで公演を行っているようなものという認識だったので、珍しいと言われると首を傾げてしまう。


「王都にサーカスが来るのは20年ぶりなのよっ」


「ほほぉ?」


 私は食後のお茶を飲みながら相槌を打つ。


 シャンティが興奮気味に話してくれたサーカスの内容は、ピエロが出たり、動物の曲芸があったりとありきたりなものだが、その動物というのはどうやら魔獣と呼ばれる魔大陸の生き物のようである。

 ファルグが珍しく興味を示し、シャンティが興奮中だ。

 

 魔獣なるモノと言えばケルちゃんぐらいしか思い浮かばない私は、ひたすら首を傾げる。

 レア度でいうなら我が家にいる人々の方がレアではないか? と考えたところではっと我に返ると、すでにリンスター家のメイド達によって身支度を整えられていたという状態だった。

 いつの間にっっ…。


「本日の御衣裳は蛇でございます」


 メイドさん達がすすすっと後ろへ下がっていくが…。


「蛇?」


 私は鏡の前に立って首を傾げた。

 確かに頭の上に乗っかる蛇の頭部分は可愛らしいデフォルメの蛇のぬいぐるみだが…。

 体部分が何というか、ずんぐりむっくりで…決して私が太ったわけではありませんよ!


 とにかく、これはあれだ、蛇じゃなくて、ツチノコ!


「珍獣でしゅ」


「あんたが珍獣なのは前からでしょ」


「ちっけいなっ!」






 というわけで、この世界では珍しいと言うサーカスへと向かうことに。

 サーカスがテントを張っているという王都の広場へ向かって歩くと、次第に人が増えてくる。どうやら皆サーカス目当てらしい。


 蛇…もとい、ツチノコ姿の私はファルグに抱っこされて移動だ。

 今日はノルディーク達塔の面々は乞われた結界の修復作業に出ていて家におらず、ハーンは兄様に連れられて騎士団へ剣の講師として向かった。

 

 よって、本日の私はさびしんぼ~ん。

 ファルグがいるけどね…。


 とりあえずファルグに目いっぱい甘えようとその首に腕を回してすりすりと頬を摺り寄せていると、ぴたりとファルグが足を止める。

 一瞬私がすり寄ったことでエロチックなハートに火を付けたかしらん? と思ったが、どうやらそうではないらしい。

 すっと目を細め、人込みの中を睨んでいる。


「何? どうかしたの?」

 

 シャンティも気が付いてファルグを見上げると、ファルグの目はスッと元に戻った。


「ふむ…。まぁ、何か起きるのはいつものことだな」


「ちょっと! またシャナが何か起こすんじゃないでしょうねっ」


 シャンティはカッと目を見開いて声を上げる。


「またとはなんでしゅかっっ!?」


 聞き捨てならぬと反論すれば、ギラリと睨まれた。


「あんたがいて平和なイベントがあって!?」


 よぉし、思い出してみようではありませんか。私がいて平和なイベント…平和な…イベント…?

 

「うむ、よしっ! 幼い脳に記憶は残りましぇん!」


 即座にガッツポーズを作って頷く。

 きっと深く思い出してはいけないので記憶は探らないことにしましょう! 世の中全て前向きに!


「よしじゃないっ!」


 シャンティが叫び、その後過去の様々なイベントについて思い出しながらぎゃあぎゃあと騒ぎ、私達は人の流れに乗ってサーカスへと入って行った。

 



 

 その一方で、彼等がテントの中に入っていく姿を見ながら男が一人ぽつりと呟いた。


「何でここに珍獣が…」


 嫌な予感を抱きつつ、男はその場から立ち去ろうとしてバナナの皮で足を滑らせ、頭にたんこぶを作ってのた打ち回るのだった。

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