表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
陰間由夢乃丞と八丁堀  作者: 紫紺
63/64

其の捌 勝利


「イエエエイ!」

「忠親様!」


 ほんのわずかな隙を見せただけで、林原が鋭い突きを見舞ってきた。ユメもつい叫んじまったようだ。おまえな、俺への信頼感が無さ過ぎやしないか? あ、隣の琴は両手で目を覆ってるや。


 ――――けど、心配するな。既に一本俺は先んじてる。林原が焦ってるのは織り込み済みだ。


 俺は間一髪で怒涛の突きを躱し、空を切った奴の両腕を下から掬い揚げる。林原の両手は万歳するように飛び跳ね、竹刀は青い空に鮮やかに舞った。


「一本! 火浦殿! 北奉行所の勝利ー!」


「うおおおおっ!」「やったあ!」「きゃあー、素敵ー!」


 がくんと膝を打つ林原。場内は興奮した男女が口々に叫んで大騒ぎだ。文字通り興奮の坩堝となっている。

 殿内から高みの見物をしていた重鎮共も手を叩いて喜んでいた。そのなかに水谷がいたのも、俺は見逃してはいなかった。


 ――――ま、これでなんとかお役目を果たせた。もうしばらくはこんな催し物、勘弁してほしいよ。



 

 俺は北町の連中にもみくちゃにされ、御立与力殿に褒められたところでようやく解放された。


「忠親様!」


 それを待ちきれなかったのか、ユメが俺のところに走り寄って来た。おいおい、全く無防備な奴だな。俺は華麗に身を翻した。とととっと、つんのめるユメ。


「あ、もう酷いなっ。まあいいや。おめでとう。すっごくカッコよかった!」

「ん? そうか。へへ。そりゃよかった」


 なんて平常心を装ったが、俺は心から安堵したし嬉しかった。俺も素直じゃないな。


「火浦殿」


 ユメの後ろから、身ぎれいな若殿さまといつもながら美少女の琴さんが寄って来た。若殿様は深々と首を垂れる。


「お初にお目にかかります。仙台藩橘家の嫡男、橘昭之進と申します。この度は……」

「橘殿。そんな他人行儀な挨拶はよしてください。私はただの町同心。こちらこそご挨拶が遅れました。この度はご婚約、おめでとうございます」


 鉢巻を取った髪は否応もなく乱れている。そんな風体ではあるが、俺は若殿に負けず劣らずの深いお辞儀をした。




 さて、件の事件の日に再び戻る。ユメが曲者にとびかかろうとしたところだ。


「な、なにをする。琴、どうしたんだ。離さないか」


 大立ち回りを演じる城下町。ユメは琴に止められてじたばたしている。


「兄上、ごめんなさい。その……」


 琴は呆然と立ち尽くす頭巾の男を見上げた。


「昭之進さま……で、ございますよね?」

「えっ……」


 今度はユメが立ち竦んだ。




 つづく



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ