表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
『次元融合』〜ゲームに侵食された世界【不屈の冒険魂ISAO外伝】  作者: 漂鳥
第3章 行進

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

30/86

29 侵入

 


 単独行動開始だ。


 ウェーブの押し寄せる西門を迂回し、墓場の外壁沿いにやや北寄りに進んだ。


【N俯瞰】で辺りの様子を上から観察し、高い外壁を越えるべく【操風術】と【風乗術】を使って上空から静かに墓地内に侵入を果たす。


 次のウェーブまでは、もう少ししか時間がないはずだ。


 そのまま上空を慎重に移動し、墓地中央の慰霊塔を目指した。新月のせいか、【暗視】を効かせても、塗り潰された暗闇の中でかなり視界が悪い。


 急に何かの気配を感知した。


 鳥か?


 ヒュンッ! と、顔のすぐ横を黒い影が通り過ぎた。どうやら第ニ波が始まったようだ。チッ。もしかして上空ならと思ったが、そう楽はさせてくれないか。


 俺を目掛けて突っ込んでくる飛影の数が急激に増える。


 小さな鳥じゃない。鋭く鋭利な嘴を持つ、全身が闇に溶けるように黒いその鳥は、どう見ても烏。烏のアンデッドだ。


 これは堪らない。


 空中を逃げ回ったとしても、そう逃げ切れるものじゃなさそうだな。大人しく地上に降りろということか。



 バサバサッという羽音と共に身体を掠めていく烏を交わしながら、徐々に高度を下げていく。【俯瞰】で捉えた様子では、地上には蠢くスケルトンの群れが湧いているようだ。


 何とか空いたスペースを探し出し、着地する。


 しかしもう目の前には、その虚ろな眼窩に赤い鬼火を灯すスケルトンの一隊が迫っていた。


 スケルトンは、ステータス面では特に突出したところはなく、動きもそれほど速くない。だから、ただ倒すだけなら難しくはない。


 問題は、一旦崩してバラバラにしても、放っておくとまた再構成して復活してしまうところにある。本来なら、刀による斬撃ではなく、鈍器による打撃で壊し、粉微塵に砕くのが正攻法だ。


 でも、これはどうかな? 


 食らえ!


【刀波斬】!


 横一閃。闇特効武器による範囲攻撃。


 身体強化により強化された斬撃が、横薙ぎに、そして波状に折り重なるように放たれる。連続する波状斬撃により、隊列を組んだスケルトンが、ドミノ倒しのように崩れ、吹き飛ばされていく。


 もういっちょ!


 追撃の【刀波斬】を、地面に崩れ吹き溜まった骨の残骸に向けて、低い軌道で放つ。


 こっちはこれでよし!


 骨格を再構成するにしても、かなり時間を稼げたはずだ。


 じゃあ、次は、こいつらだな。


 墓地の奥から現れた新たなスケルトンの一隊。それに向かって俺は迷わず駆け出した。



 *



 スケルトンによるウェーブが終わると、それほどの間をおかず、次のウェーブが始まった。


 目の前に現れたのは、半透明に身体が透けた、ふよふよと自在に宙を泳ぐ霊体たち。


 先ほどの烏もそうだが、闇特効付きの斬撃が有効とはいえ、空からバラバラに攻撃を仕掛けられるのは厄介だ。


 それに、一体一体に時間をかけていられないという事情もある。


 ヴァンパイア・リッチなど、知性の高い邪悪な不死者のウェーブが始まる前に、慰霊塔に辿り着かないといけないからだ。


 ここで、みんなで考えた作戦を使う。


 レベル31になった時に覚えた種族スキル。


【N幻惑】


「雷のようなフラッシュを浴びせ、敵を幻惑し、戦意を喪失(デバフ)させる」という精神攻撃スキルだ。


 早速、自分のいる場所を中心にして、【N幻惑】を使用する。


 ブウォン!!


 そんな振動するような音が聞こえたかと思うと、俺の身体全体が金色に光り始めた。


 闇夜に光の雫が飛ぶように散りながら、輝きが強くなっていく。


 そして、光が次第に形を取り始める。


 翼だ。


 俺を抱え込むように2翼の大きな翼が現れ、急速にその輝く羽を広げていった。


 光の翼がドーム状に辺り一帯を覆ったかと思うと、カッと眩しい閃光が生じた。反射的に目を閉じる。


 一瞬の後、目を開けた俺の周囲には、ふよふよしながらも、その場で動きを止めて宙に浮かんでいるゴーストたちの姿があった。その表示はノンアクティブ。


 今のうちだ。


 幻惑の効果が有効な内に、俺はそっとその場を抜け出した。



 *



 あれか!



 何度か【N幻惑】を使い、逃げるが勝ち作戦をした俺の前方に、慰霊塔と思われる真っ白な石造りの塔が見えてきた。


 そのまま新たな敵は現れず、無事に慰霊塔に到着。


 その塔は、細長い三角錐の形をしていて、その内の2面には、それぞれ一体ずつ、美しい女性の彫像が彫り込まれている。


 そして残る一面の中腹。


 そこに祠状になった空洞があり、中を覗き込むと、「嘆きのノルン」を安置するためと思われる台座があった。


 善は急げと、亜空間収納から、預かっていた「嘆きのノルン」を取り出し、台座の窪みに合わせるように嵌め込んだ。


 カチッ


 そんな音が聞こえた気がした。


 一歩下がって慰霊塔を観察すると、全体が淡い光を放ち、塔の頂点を囲むように、クルクルと光で描かれた幾つもの文字が回っているのが見えた。


 これで、不死者にも魔法攻撃が通じるようになったはず……そうホッと息を吐いたのが、隙を生んだのかもしれない。


 カハッ!


 音もなく背中に生じた衝撃に、肺から残っていた空気が吐き出された。


 まずい。「恐慌」だ。


 急激に強い畏怖の念が湧き起こり、心と身体を支配される。


 クソッ!


 怖気付く心を叱咤しながら、思うように動かない身体を何とか動かして後ろを振り返る。すると、魔術師のようなローブを纏った、骨と皮だけのミイラのような姿の魔物が宙に浮いていた。


 まさか……リッチか!?


 正門に行ったはずでは?


 動揺でますます恐慌が強くなり、金縛りにあったように身体が動かなくなった。


 ザシュッ! リッチが枯れ枝のような指で俺を指さすと、その指先から鎌鼬(かまいたち)のような風が巻き起こり、俺に襲いかかる。


 身体中、全身を風の刃で切り裂かれ、傷口から血が流れ出た。


 自由を奪われ、無抵抗な俺は、リッチのいい的だった。


 猫が鼠をいたぶるよう。まさにそんな感じで、俺を弄ぶように魔法を小出しにしてくるリッチは、なんだか楽しんでいるように見えた。


 いい性格してるな。そう思いながら、立っているのに耐え切れず、とうとう膝を屈した時、


「昴くん!」


 その掛け声と共に、暗闇から一条の光の矢が飛び出してきた。そして、宙に浮いているリッチの腹に突き刺さる。


 暗闇から駆け出してくる3つの人影。


 不意の攻撃に怯んでいるリッチに、さらにもう1本、光の矢が突き刺さった。


「源次郎! 大丈夫か?」


「すぐに回復します」


 光魔法を得意とする元婦警の戸山さん、回復魔法を得意とする同じく元婦警の峯岸さん、そして、その2人を守るように、盾となって走ってきたレオだ。


 そう。俺たちは、3通りの作戦を考えていた。


 ひとつ目は、そもそもノルンの設置に失敗した場合。この場合は、俺が途中で撤退するか、やられるかしたということなので、作戦そのものを放棄せざるを得ない。最小限の被害にとどめるべく、以後対応するといったもの。


 ふたつ目は、ノルンの設置に成功し、かつリッチとヴァンパイア、その両方がβテストと同様に正門に現れた場合。その時は、俺はノルンを設置した後、早々にその場を離脱して西門に戻り、状況によっては主戦場の正門に合流する。


 そして3つ目が、ノルンの設置には成功したが、正門にはリッチとヴァンパイアの両方とも、あるいは、どちらか一方だけしか現れなかった場合。


 つまり、今の状況だ。


 この場合は、聖結界を張れる聖魔法使いのプレイヤーたちが正門の防衛を担い、ここにいる3人と、もう1組、攻撃魔法を使える別働隊が、それぞれ敵の湧出が減ってきた西門、南門から中央を目指して突入するといったものだ。


 ……とにかく助かった。


「嘆きのノルン」は、しっかりとその役割を果たしてくれているようで、レオの構える大盾の陰から、光の矢が放たれる度に、リッチは逃げ腰になっているように見えた。


 さて、しっかり回復してもらったことだし、行くか。


 レオたちへの対応に意識が集中してるだろうリッチに、死角から近づく。


 リッチの後背部上空で狙いを定め、一気に急降下。俺の渾身の斬撃が、リッチの頭の天辺から地面まで、唐竹割りにするように通過した。


 かなりダメージが入ったようで、リッチの動きが止まる。


 そこへ前後から追撃の猛攻を加える。そうして、もう1組の別働隊が到着する前に、リッチは蒸発するように姿を消した。


 どうやらその間に、正門のヴァンパイアも順調に討伐されていたようで、



 《ミース防衛戦「不死者の(アンデッド)行進(パニック)」が収束しました。イベント報酬は、各自メールボックスに配信しました「イベント報酬」メールで受け取ることができます。》



 このアナウンスをもって、「不死者の(アンデッド)行進(パニック)」は終息した。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ