19 憶測
「おはよう、源次郎!」
「おはよう、レオ。昨日は悪かったな」
「気にしなくていいよ。それより、なんか情報があったんだろ?」
「ああ。ある程度、憶測を混じえた話だけどな。だいたいの父の行方の目処はついた」
「そっか。俺にも教えてくれるのか?」
「ああ、もちろんだ。レオにも、是非聞いておいて欲しい内容だ。食事の後、部屋で話そう」
「分かった」
*
「ふーん。じゃあ、源次郎のオヤジさんは、その冒険者の人たちと一緒に、別の街に向かってるんだ」
「そういうことになるな」
「4人でパーティを組んでいるなら、少しは安全かな?」
「1人よりはましってとこじゃないかな。未踏破エリアに踏み込んでいるわけだから、当然、全て初見だし。山の中だから、死角も多いだろう。他の3人の腕は知らないが、父は間違いなくゲーム初心者だ。R種族といっても、能力はよく分かってないし、レベルも低い」
他の人と同様に、父もこの世界で強制的にキャラメイキングを受けていた。R種族だそうだから、基礎ステータスは高めだと思う。それだけが救いだ。
「うーん。『八咫烏族』か。他のゲームだと、中ボスとかで出てくる奴だよな。結構強いイメージだけど」
「同僚の人の話を聞く限りでは、レベルの割には、そこそこモンスターと戦えていたみたいだが、スキル構成がいったいどうなっているのか、甚だ疑問だ」
「スキルが問題なのか?」
「ああ。『N道先案内』というのを持っているそうだ。明らかに、移動系のスキルだ。そうなると、純粋な戦闘職ではないんじゃないかと。まあ、俺のも『N俯瞰』なんて偵察系のスキルだから、一概には言えないが」
「そのスキルを見込まれて、クエストのメンバーに入ったんだろ? だったら結構使えるスキルってこともあるかもよ。R種族なわけだし」
「そうだといいんだが。しかし、いったいどんなクエストなのか。ギルドがあえて秘匿する意味がわからない」
クエストの詳細は、結局は分からなかった。
どんな危険を伴うか分からないクエストに、部下たちを巻き込みたくなかったんだろう。父は、周囲の人には行き先も目的も語らなかったそうだ。
ただ、息子がこの街に来るかもしれない、その時は事情を伝えてくれ……とだけ言い残していた。
「そのお姉さんたちは、あとなんて言ってたの?」
「このクウォントの街は、他の街と違い、ほとんどの人がゲーム初心者だったそうだ。アバターは強制ランダム作成だから、外見なんてほぼそのまま。周りの世界だけが、それまでと全く変わってしまったわけで、当初は酷く混乱したらしい」
「強制ランダムか。何も自分で選べないんだっけ?」
「ああ、メインスキルは、自動的にその種族に向いているものになるそうだ」
「ほぼ全員が初心者、それもほとんどがゲームをしたことがない人ばかりだと、狩りとか大変だったんじゃないか?」
「その通りだ。街で手に入る食料が少なくなって、いよいよ誰かが狩りにいかないとマズイという状況になり、外に出ていく人を募ったそうだ。だが、全く集まらなかったと言っていた」
「それでどうしたの?」
「仕方なく、多少は武道の心得のあった父やその部下の人たちが、街の周辺に狩りに出てみたが、初心者が闘うには、街の周辺のモンスターが強過ぎた。ある程度試しただけで、すぐに引き返さざるを得なかったらしい」
「じゃあ、食べるものがなくて揉めたんじゃない?」
「ああ。このゲームは空腹度が設定されているから、少ない食料を分け合って、デバフにかかる者が出てきた。そんな時に、俺が以前すれ違った、ノアの街からの冒険者2人が到着したそうだ」
「ギリギリ間に合ったんだね」
「ただ彼らは、この街にいる家族……高校生の妹だそうだ……を迎えに来ただけだったので、すぐにもう一人、別の街にいる家族と合流しに出発しようとしていた」
「また別の街があるの!?」
「ある。この街の西にある山地を越えた向こうに『ミース』という街があることが、確認されている。俺がノアの街でMAPを調べた際にも、『クウォント』の北西方向の未踏破MAPに、街のマークが確かに記されていた」
「源次郎のお父さんは、その人たちについて行ったってことか。でも、どうして?」
◇
ここからは憶測も交えている。
食料不足で困っていた街の人々は、冒険者2人に食料の調達を依頼した。……というか、かなり大騒ぎになったそうだ。
しかし、冒険者2人は、狩りをする代わりに、なんらかの交換条件を出してきた。その交換条件が、ギルドが秘匿している内容と関係しているらしい。
それを聞いたレオの提案で、俺たちは「クウォント」で起こるクエストについて何か情報がないか、掲示板を洗いざらい調べ直した。
そして見つけたのが、〈 開通クエスト「転移のオーブ」の運搬 〉だ。
βテストでは、「クウォント」は、〈開通クエスト〉を受注するチュートリアル的な街だった。
成功すると、対になった「転移オーブ」が設置されたギルド間は、それ以降、転移で移動することができるようになる。非常に便利だが、この転移は有料で、それなりの利用金額を徴収される。
しかし、この〈開通クエスト〉を受けると、報酬として、その区間の「転移オーブ利用無料パス」をもらえるので、かなり人気のあるクエストだったそうだ。
そしてこの〈開通クエスト〉は、決して個人向けのクエストではなく、2〜3パーティで協力して達成する難易度だったらしい。……通常は。
そこで、父の種族が持っている先天スキルの出番となる。
父の種族「八咫烏」は、「N道先案内」という先天スキルを持っている。このスキルは、移動スキルの一つで、未開の地や険路を先導し、より安全な道を選択して危険をできるだけ回避し、目的地へ最短距離で辿りつくのを補助する……というものだった。
さらに、こういった移動スキルを持つ者がパーティメンバーである事……というのが、〈開通クエスト〉を受けられる条件でもあった。
ミースの街も、おそらくここと同じく孤立している。だから、転移オーブが設置されるのは、現状を考えると非常に喜ばしいことだった。
だがそれは、ちゃんとメンバーが揃っていればの話だ。
……俺が着くのを待っていてくれたらよかったのに。父のことだ。部下たちと同様に俺を巻き込みたくないと思ったんだろうが。
困ったが、行くしかない。父の元に。それもなるべく早く。




