うちのヤバい音
カサカサ……と音がした。
自分の部屋でくつろいでいたときのことだ。
――うん? 何の音でしょうか? なにか生き物が動いているような……?
こういうときは、だいたいうちの猫だ。
どこかに隠れて、こっそり部屋のなかをあさっている。
洋服の中に潜り込んで、ぱっと見ただけではわからないこともある。
カサカサ……。
「もー、今日はどこにいるんですかー? 隠れてないで出てきてください」
うっかり踏んでしまったり、気づかずに部屋のなかに閉じ込めてしまうと怒られるので、ひと通り確認する。
しかし、うちの猫は見つからない。
「あれ? たしかに音が聞こえたはずなんですけど……?」
いつの間にか、カサカサという音はしなくなっていた。
気のせいだったのかな、と思いつつ、僕は部屋をあとにした。
コーヒーを飲んで部屋へ戻ってくると、また、カサカサ……という音がする。
探しても、うちの猫はいない。
――おかしいなあ、音はするんだけどなあ……?
いくら探してもうちの猫はいない。
音だけが続いている。
なんだか怖い話のような雰囲気になっていた。
僕は怖い話を聞くと普通に怖がったりするタイプなのだけれど、実際怖い現象を見かけると、テンション次第では、「幽霊をぶん殴って捕まえてやろう!」と突撃することもある。
このときは突撃する気分だった。
「うーん、この辺にいると思うんですけど、逃げたのかなあ?」
と見まわしていると、本棚の影から、カマキリがヒョコリと顔を出していた。
「うわっ!? カマキリ! お前だったか!」
慌てて飛びのいた。
現れたカマキリはなかなかのサイズだった。
僕の手のひらくらいの大きさはある。
カマで挟まれたらかなり痛そうだ。
「もう、どこから入ってきたんですか……。前はハチが入ってきてたし、この部屋はなんなんですか……」
僕の部屋は二階だから、普通に考えると、カマキリは入って来ることはできない。
――うーん、でもまあ壁を登ってくれば、侵入できるのかな?
(猫の背中に乗ってきたのかもよ、というご指摘も受けました。そうかもしれない……!)
そんなことを考えつつ、近くにあったビニール袋を手袋代わりにして、カマキリの排除に取りかかる。
「うわわあっ!」
ビニール袋が近づくのを察知して、カマキリがカマを振り上げる。そして、ビニール袋を突き破ってしまった。
「恐ろしい虫ですね……」
なんとか指は挟まれずにすんだけれど、こんな危ない虫と、これ以上同じ部屋にはいたくなかった。
指先でビニール袋の端をつまんで、裏庭へ運び、投げ捨てる。
「あ、ちょうどいいところに来ましたね」
通りかかったシマシマシッポを抱えて、カマキリの前に座らせた。
「さあ、やっつけちゃってください」
先程びっくりさせてくれた仕返しだ。
うちの猫では返り討ちにあって終わりだろうけど、シマシマシッポなら、カマキリに勝てるだろう。
シマシマシッポが鼻を近づける。
前足をそっと伸ばす。
カマキリはカマを折りたたんで、棒のようになって、じっとしている。
「フゴォ?」
シマシマシッポは首をひねりながら去っていった。
――僕にはカマを振り上げたのにじっとして……。シマシマシッポも戦ってくださいよ。
これ以上どうにもならないので、家に帰ることにした。
部屋へ戻り、ふと思いついたことがある。
――なぜカマキリがこの部屋にいたのか。
たまたま入ってきたならまだいいです。でも、もし、卵を産むのに安全な場所を探してたどり着いたのだったら……。
卵から孵ったちいさなカマキリたちが、ワラワラと僕のからだを登ってくる光景が頭に浮かんだ。
――これはヤバいですね……。シマシマシッポはちゃんと戦ってくれないし、うちの猫は頼りにならないし、こんなときに頼れそうなのは……ボスの出番でしょうか。
そんなことにはならないように祈りつつ、いつもよりも、もう少しボスをかわいがっておこう、と僕は心に決めた。




