17-6 完成したのか……!?
侯爵のその言葉を皮切りに、兵士さんたちが一斉に斬り掛かってくる。長剣が振り下ろされ、それを避けるとまた次の兵士さんが剣を突き出してくる。
さらにそこに魔術。それをアルフが氷魔術の壁で防いでくれると、私は兵士さんの懐に潜り込んで軽く一撃をお見舞いしてあげた。
軽くとは言ってもあくまでそれは私基準。兵士さんはふっ飛ばされて壁が砕けるくらいには強かにぶつかった。普通ならそのまま倒れて動かなくなるとこなんだけど――
「なっ……!?」
殴られた兵士さんは何事もなかったようにのっそり立ち上がった。ダメージはゼロじゃ無いと思うけど、思ったよりも効いてなさげ。殴った感触も変だったし。ってことは、だ。
「なるほど、強化兵ってことね」
操ってるだけじゃなくって、魔術的に肉体も強化してるってことか。兵士さんたちの動きも連携取れてるし、おバカのコンラッドと戦った時とはレベルが違う。さすがは魔術学院の理事さんで、精神魔術の大家なだけある。
「くっ……」
私が感心してる間も、兵士さんたちや魔術師たちからの攻撃の手は当然ながら止まない。食らいはしないけど、間隙のない攻撃に髪の毛やスカートも少しずつ傷ついていく。
アルフも必死に避けながら反撃する。けどそれも中途半端。だから攻撃の手は全然減らない。ま、操られてるだけの兵士さんたちを殺したくないって気持ちは分かるし、そこは私も同じ気持ちだ。本気で殴ればミンチにできるけど、それはさすがに可哀想過ぎる。
それでもアルフの剣なら、魔術的に侯爵との繋がりは断ち切れるはずなんだけど――
「なんで倒れないんだ……!?」
「そりゃ術者がすぐそばにいるからね」
斬ったところですぐ繋がりが回復するから効果なし。厄介だね。魔術的な繋がりは断てなくて、かといって下手に本気出して兵士さんを殺すのも避けたい。となると、だよ。
「リナルタっ!?」
術者である侯爵を直接ぶん殴る。それしかない。覚悟を決めて、侯爵へ突っ込んでいく。
剣戟や魔術がかすって細かい傷が増えていく。頬から血が流れた感触があって、腕や脚もズキズキと痛みを感じる。傷はすぐ治るけど痛いもんは痛い。その痛みにちょっと涙目になりながらも、立ちはだかってくる兵士さんたちを殴り飛ばして少しずつ前進していく。
わずかな罪悪感が薄れて、代わりにちょっとずつしか進まないじれったさを覚え始めた頃、ようやく人間の壁が途絶えて侯爵への道が生まれた。
その瞬間、跳躍した。腕を引き絞り、眼下に収めた侯爵のその顔面目掛けて拳を振り抜――こうとしたんだけど。
「ふぇっ!?」
「ふふふ、どうしたのかね?」
拳が侯爵のニヤけた面に届く前に、何か見えない壁に阻まれた。もう一度突撃して、今度はもうちょっと本気で拳を振り抜いてみる。だけど結果は壁みたいな何かにちょっとヒビが入っただけ。しかもそのヒビだってすぐに回復して何もなかったみたいに戻ってるし。
またワラワラと兵士たちが集まってきたから一旦下がる。
たぶん、さっきの壁は純粋な防御魔術かな? アルフみたいに地形操作魔術で代用したわけじゃなくって。防御魔術自体、相当複雑で制御が難しいものなんだけどさすがは魔術師家系の貴族だね。しかも。
「魔法陣で集めた莫大な魔力の一部を、防御魔術の強化に流用してるってわけか」
「そのとおり。万が一、儀式の途中で露見したことを考えて保険のつもりで準備していたのだが、本当に使うことになろうとは思っていなかったよ」
さすが抜け目ない。しかし困ったね。力技じゃ破れないし、アルフが使ってるレオンハルトの剣でも無理。どうしたもんかと考えてると、魔術師たちの詠唱の声が途絶えた。
厳かな静寂が流れる。まるで時間が止まったみたいな錯覚に陥って、そして次の瞬間に魔法陣が一際まばゆい光を放った。
黄金の光が禍々しい赤黒い装飾をまとって天井を貫通する。術式の中心にいたアシルくんがふわりと浮かび上がって、まるで磔にされたみたいに両手を左右に広げた。
「術式が完成したのか……!?」
「ははははっ! そうです、殿下! ついに完成したのです! ここまでの奮戦、ご苦労でしたが徒労に終わりましたな」
最期の情けってやつかな? それとも、ここまでくれば今さらどんな抵抗をしても無駄だって示したいのか兵士さんたちは襲って来ず、ただ無気力に私たちを見ているだけだ。
「ようやく……大きく一歩を踏み出せる……! 殿下にリナルタ殿、貴方たちは幸運です。歴史的な瞬間に立ち会えるのですからな」
「くっ……まだだ! まだ何か手があるはず……!」
「そんなものありませんよ。私ですら、ここまでくると止めることなどできませんからな」
まだ諦めないアルフに、侯爵の嘲笑が覆い被さってくる。もう儀式は完成してしまった。侯爵の言うとおり、魔術的にも物理的にも止めることはできない。それは私も保証するよ。
でも、手段はある。使いたくはなかったけど、とっておきの手段が。
「ねぇ侯爵サマ」恍惚と光を見上げる侯爵に尋ねた。「知ってる? 三百年前の、記録上最初に儀式で魔王が生み出された時のお話を」
「もちろんですよ、エンメル・ブランタジネット王国の話でしょう? 苦労はしましたが、集めた資料はすべて諳んじれるほどに読み込みましたからね。そもそも、その当時の話を知らなければ今回の計画を思いつきなどしませんよ」
「だったら侯爵サマは、きっと世界で二番目にあの王国の事件について詳しいんだろうね」
「なに?」
「じゃあさ、魔王が生み出された直後に、王国で何が起きたかも知ってる?」
あの時、あの場所で何が起きたか。世の中に存在するのは乱暴な妄想や推論が載った本だけ。そして当然その中に「真実」をきちんと表したものは存在しない。
「儀式を行った王国が、自らが生み出した魔王に滅ぼされたのでしょう?」
「んー、ちょっと違うんだ。王国はね――滅んだんだよ」
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