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魔王の儀式 ~ギルドで副業してる皇城の下女ですが、突然第三皇子から告白されました。そして断りました~  作者: しんとうさとる
第3章 魔王の儀式

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17-4 この国を愛しているから




 アルフが魔術を放った。男爵のすぐ横を通過してったそれが壁の手前で不自然に弾かれて、そして見えなかった壁が崩れるように徐々にオールトン侯爵が姿を現した。

 いやぁホント、まさかこの人が黒幕とはね。アルフも中立的な立場だって言ってたし、ガチガチの貴族感あるのに私に頭を下げるくらい柔軟性があったし。すっかり騙されたよ。


「バレてましたか。いやはや、殿下は魔術の探知にも優れておられるようで」

「なに、半分は勘だよ。近くにいるのは間違いないと思ってたからね。恥ずかしい結果にならなくて良かったと、胸を撫で下ろしてるところさ」

「はっはっはっ! ならその賭けに私は負けたというところですか。気づかれなければ不意を打てたのですが……そういうところは実に皇族らしい『運』をお持ちだ――首を突っ込まなければ、長生きさせてあげられたものを」

「そう言うってことは、自分が主犯だと認めるということかな?」

「ええ、左様でございます」


 オールトン侯爵が実に悪役らしい笑い声を上げた。しかしなんだろう、この違和感? 儀式は未完成で、男爵も倒されて結構詰みに近いはずなのに、この余裕はどこから来てる?


「ずっと警告はしていたのですが、聞き入れて頂けなかったようで非常に残念です」

「リナルタに罪を着せて牢屋に入れたり、暗殺を試みたりしたのも警告のつもりかい?」

「前者についてはそうですが、後者については警告ではなく排除ですな。そこの下女を巻き込んだのは完全に失敗でしたね。ちょっと優秀な下女くらいに思っていましたがいやはやどうして、とんでもない人物が殿下の配下に加わったものです。

 ところで……単なる興味としてお聞かせ頂きたいのですが、貴女は何者です? 他国の間諜でしょうか? あるいは皇族が密かに作っておられた隠密組織の人間ですか? 正直に答えて頂いて結構です。返答によってどうこうしようというつもりはありませんので」


 どう答えたところで「生きて帰すつもりはありません」ってことね。ま、元より嘘をつくつもりもないけど。ってことで。


「私は皇城の下女です。それ以上でもそれ以下でもありません」


 マジでそれ以外の立場ってないしね。皇城からほっぽり出されたら単なる根無し草だし。

 正直かつシンプルな返答を心がけたわけだけど、オールトン侯爵はなぜか私の返事を聞いて大きく笑い声を上げた。

 そこに。


「オールトン侯爵……!」


 侯爵の笑い声と魔術師たちの朗々とした詠唱が続く中で、ユンゲルス男爵の悲痛な声が響いた。体を引きずりながら侯爵ににじり寄り、大きな手で細身の侯爵をつかみ揺らす。


「ユンゲルス男爵。手酷くやられてしまいましたね。大丈夫ですか?」

「私のことはどうでもいい! それより、お聞かせください……! 殿下が語られたことは、本当ですか……!? 我が領民を、ユンゲルスの民を助けて頂けるのですよね……!?」

「ええ、もちろん貴領の民を助けますとも」

「その言葉……嘘偽りはないですな?」


 問いただす男爵に、オールトン侯爵は笑みを浮かべた。けど、二人の間に魔素が集まってくのをかすかに感じた。

 まさか――


「ダメ! 男爵、離れて――」

「はい。そして――貴方とはここでお別れです」


 警告を発した。だけど……間に合わなかった。

 男爵の背中から氷の剣が生えた。濡れた先端から、赤くヌラヌラとしたものが床に落ちていく。その剣が引き抜かれると一気に血があふれ出て、男爵の体がその中に沈んだ。

 それでも男爵は最期の力を振り絞って腕を伸ばし、侯爵の脚をつかんだ。


「お願いです、領民たちを……」


 だけどオールトン侯爵は、無慈悲に再び剣を突き刺した。

 一気に広がる血溜まり。男爵は動かない。動けない。ああ、もうこれは……


「最期までうるさい男でしたね」

「男爵っ……! うっ……く……ああああぁぁっっっっ!」


 アルフが絶叫した。足元に向かって放たれるその叫びには男爵を喪った悲しみと、助けられなかった怒りが渦巻いてた。かくいう私も怒りで腸が煮えくり返ってる。けどアルフは私以上に打ちのめされてるはず。なのにその拳を思い切り床に叩きつけて絶叫を止めた。


「侯爵……教えてほしい。どうしてこのような事を……?」

「それはこの儀式のことですかな? それとも男爵を殺した理由?」

「後者は聞くまでもない……私が知りたいのは前者だよ」アルフが歯を食いしばった顔を上げた。「貴方はこの儀式がどんなものか知っているはずだ!」

「はい、存じておりますよ」

「なのにどうして貴方がこんな、国民を危険にさらすような真似を……! 貴方は散々私に語ったではないかっ! いかに自分が領民を愛しているかを! 国を愛しているかを!」

「ええ、語りましたとも。そこには本当に嘘偽りはございません」

「ならばなぜ――」

「この国を愛しているからですよ」


 オールトン侯爵が、浮かべた笑みで瞳を隠した。けれど隙間から覗いた瞳から、全然笑ってないことが分かる。それどころか、狂気と嘲笑が浮かんでるように思えた。


「オールトン侯爵家として生を受け、まもなく五十年。その半生を侯爵として、領主として責務を全うして参ったつもりです。貴族としてあるべき姿を示そうと己を律し、領民にも様々な施しと指導をしてきました。民を豊かにし、寄り添い、寛大な姿勢を以て導くこと。それが領民のためであり、ひいては国の発展に繋がると信じておりました」

「ならばなおさら……!」

「ですがそれこそが過ちだと気づいたのですよ」


 オールトン侯爵は大きくため息をついて嘲笑った。





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